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第七章三十話「一緒に」

「――境界とは、これすなわち砦である」


 一桜の凛とした声に呼応して、空中に描かれている純白の魔法陣が鈍く光を発した。


「いよいよ、だね。圭太君」

「そうだな。ようやく、イブを助けられる」

「君は本当に、イブしか見えていないんだね」


 ある意味純粋なまでに一点しか見ていない圭太に、琥珀は苦笑いを浮かべた。


「――砦は壊される。彼の者が障害と思う限り」

「失敬な。イブ以外も気になってるんだぜ? シャルロットがどうなってるとか」

「確かに、魔王を失えば魔族は大変だろうね。ボクが倒したときみたいなことになってるかも」

「それは厄介だな。また町を壊さないといけなくなる」


 一桜が詠唱をするたびに魔法陣は輝きを増し、その間談笑に夢中になっている圭太は軽く肩をすくめた。

 イブや魔族を解放するたびにまた一つ町を壊す。今度は対策を練られているはずだから同じ手は通じないはずだ。


「――我は砦を壊す者。境界を超える者」

「あははっ、今度はボクもいる。二人でならきっと乗り越えられるよ」

「もちろんだ。勇者が二人いれば、神が相手でも負けねえよ」


 笑顔で自分を指差す琥珀に、圭太も不敵に微笑む。

 勇者が二人。圭太は自分を勇者と認めたくはないけれど、琥珀は正真正銘の勇者だ。きっとどんな敵が相手でも最後には勝利を掴んでくれる。

 圭太たちが負ける道理はどこにも存在しない。


「――今ここに、世界を渡るための架け橋を築かん」


 一桜が詠唱を終えると、空中に描かれていた魔法陣が見覚えのなる金色の輪を展開された。一面の緑は恐らく森のどこかに繋がっているからだろう。


「じゃあ行こうか圭太君」

「ああ、その前に一つ」

「ん? どうした――っ!?」


 圭太は琥珀の手を引き寄せて、軽く口付けをした。


「これからも迷惑かけると思うが、よろしくな琥珀」


 一秒にも満たさず圭太は琥珀から離れる。彼女の顔は真っ赤になっていた。

 そんな彼女に圭太は小さく頭を下げる。これから圭太は琥珀に迷惑をかける。だからこそ、最初に誤っておきたかったのだ。


「んっ、卑怯だよさすがに」

「当たり前だろ。卑怯上等。俺は策士だぜ?」

「もう。圭太君のバカ」


 口元を手の甲で押さえながら、顔を真っ赤にした琥珀が涙を貯めた恨めし気な目を向けてくる。

 だから圭太は堂々と肩をすくめてみせた。恋人にキスをするのは何も不思議なことではない。初めてが不意打ちだったというだけだ。


「早くしてほしいのですわ。イチャついてないで」


 ニヤニヤと琥珀の反応を楽しんでいると、一桜に絶対零度の視線を向けられていた。


「分かったよ。じゃあ琥珀」


 術者は一桜だ。いつもなら冷たい目を向けるだけの彼女がわざわざ口を出してきたということは、それだけこの金色の輪を維持するのは大変だということなのだろう。

 圭太はため息を吐いてから、優しく琥珀へ手を差し伸べた。


「うん。一緒に」


 琥珀は圭太の手を取って笑顔で頷く。

 そのまま、圭太と琥珀とついでに一桜は並んで金色の輪を潜り抜ける。

 鳥羽圭太と小鳥遊琥珀の記憶と記録が世界から消滅した。

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