染色魔法とは
お昼も幾分回ってライカさんが目を覚ますと、必要なものはすべて揃っていて、薬草園に植えられているものはいるものをいるだけ使ってよいし、お針子は城の裁縫が得意な者がいつでも作業に入れるよう手筈が整えられていました。
ライカさんはさっそく仕事にとりかかります。
まずはお城の庭の奥に広がる薬草園へ向かいました。ラベンダーとカモミールを収穫するためです。
みずみずしい香りを放つ紫色の花を茎ごと刈り取り、いっしょについてきてくださった騎士さまが持つかごに入れていきます。
「それにしても、眠りから覚ますためにまさかラベンダーやカモミールを使うとは思わなかった」
次々かごに入れられていくラベンダーをしげしげ眺めながら、騎士さまが言いました。
「ふふ、そうですね。まるで逆のことをしているように思えますわね」
とライカさんは笑いました。
なにしろ、ラベンダーもカモミールも、眠れない夜枕元に置いたりハーブティーにして飲んだりするものだからです。
「姫さまは魔法の力で無理やり眠らされておいでです。それはとうてい“よい眠り”といえるものではございませんから、まずは正常なものへと導いてさしあげる必要があるのです」
ラベンダーに続きカモミールの収穫も終えたライカさんは、立ち上がり、膝についた土や葉っぱをはらいました。
「ええ、もちろん魔法使いさまほどのお方でしたら、今すぐにでも姫さまにかけられた呪いを解くことはお出来になるでしょう。ですが、姫さまを捕らえる力はとても強いものですから、そこに同じように強い力をぶつけることは、姫さまのお身体にもお心にも大変な負担となるのです」
騎士さまから荷物を半分受け取って、ふたりは並んでお城のすぐ近くを流れる川へと歩き始めます。
「ですから、魔法よりも効き目が穏やかな染色師の力を魔法使いさまはお求めになったのですわ」
「なるほど――しかし、それでは街にいる染色師たちでも用は足りたのではないか?」
「それでもまだ足りないとお考えになったのでしょう」
川原には大きな鍋や桶、布、それに枯れ枝や薪がすっかり用意されています。
騎士さまが火を起こして水をたっぷり入れた鍋をかけてくださいました。
「騎士さまは、どうせ魔法で布を染めるのにどうしてこんなにラベンダーもカモミールも必要なのだろうとお思いになりませんでしたか?」
騎士さまがあいまいにうなずくのに、ライカさんはにっこり笑いました。
「鍋が沸くまでもうしばらくかかりそうですし、少し昔話でもいたしましょうか。とても、とても古いお話ですわ――」
・ラベンダーとカモミール
ラベンダーの香りには鎮静作用があり、不安や緊張を和らげてくれます。
精油を垂らしたハンカチやポプリを枕元に置き、ラベンダーの香りに包まれることで、リラックスして眠ることができるでしょう。
夜寝る前にラベンダーティーを飲むのもよいでしょう。
また、カモミールのリンゴに似た甘い香りには心身をリラックスさせる効果があり、就寝前に飲むカモミールティーは、不眠を解消してくれる働きがあると言われています。