ハイイログマの奥さん
深い鼠色に染め上がったハンケチを受け取ったウサギさんが――お礼はかごいっぱいのブルーベリーの実でした――踊り出しそうな足どりで帰ったあと、ライカさんは泉の岸辺でよく色づいたアシの穂を摘みに出掛けました。
アシは鮮やかな萌黄色に染まるので、ライカさんのお気に入りなのです。
萌黄色といえばクズやコブナグサもそろそろとりに行かなければ……ああ、秋に向けてススキの育ち具合の確認しに行きたいし、裏庭のローズマリーの収穫もしないと――
染色師にとって、夏は大忙しの季節なのです――もちろん春だって秋だって忙しいのですけどね――ライカさんがそんなことを考えながら家に帰ると、ハイイログマの奥さんがライカさんを訪ねてきました。
この冬に子どもが産まれる姪ごさんに贈るお祝いの相談のためです。
「いろいろ考えたけどおくるみとか産着とか、そんないくつあっても困らないものにしようかしらと思ってるのよ。でも、まだ何で染めてもらうかを決めきれてなくて……」
困ったわ、と片手を頬にあててクマの奥さんはため息をつきました。
「そうですねえ」
とライカさん。
「やはり、なんといってもクローバーが人気ですわね。この季節だと、芯の強いお子に育ってもらいたいとクズを選ばれる方もいらっしゃいます。女のお子さまには、バラやチューリップ、ガーベラといったお花も人気ですよ」
テーブルに広げられた色見本を手に取りながら、クマの奥さんはうーん、とうなり声をあげました。
「どちらが産まれるかなんて、そのときになってみないともわかっていないからねえ……」
「ええ、そのとおりですわ」
「このクローバーとクズの若草色なんて素敵だと思うのだけど」
「きっと、お子さまの灰色の毛並みによく映えると思いますよ。どちらも、二、三日中にお渡しできます」
それからクマの奥さんは、ちょうどお茶をおかわりしてはちみつのクッキーを食べるだけの時間たっぷり悩んで、クローバーでおくるみを染めてもらうことに決めたのでした。
次の日、さっそく真っ白な手触りのいい布と、お礼のとれたてのはちみつを持ってきたクマの奥さんは、三日後にまた受け取りにくると言って森に戻っていきました。
ライカさんはこれから森のそばの草原でクローバー摘みです。うまく四つ葉のクローバーが見つかるといいのですが――。
・緑に染まる草花
草木染めで色鮮やかな緑を出すのは難しく、単独の染料、媒染剤では萌黄色――黄色みの強い緑――になることが多いのですが、そのなかでも特に色鮮やかに染まるのがアシやススキ、コブナグサといったイネ科の植物の穂先部分――特に赤~赤紫の濃いもの――なのです。
また、マメ科はその多くがやさしい薄黄緑~緑に染まります。
・幸運のクローバー
クローバーの花言葉は「幸運」。とくに四つ葉のクローバーは幸運のシンボルとして広く親しまれていますね。染色師は、その布を身にまとう人にどうぞ幸運が訪れますようにと願いを込めてクローバーに魔法を込めるのです。
そのとき四つ葉のクローバーを加えることでより幸運を引き寄せる力が強まるものですから、ライカさんは折に触れては四つ葉のクローバーを探してはていねいに押し花にし、ストックしています(もちろん、新鮮な四つ葉のクローバーが手に入るに越したことはないのですけど!)。
・クズの花言葉
「芯の強さ」「活力」
・バラの花言葉
全般→「愛」「美」
赤→「あなたを愛してます」「愛情」「美」「情熱」「熱烈な恋」
白→「純潔」「私はあなたにふさわしい」「深い尊敬」
ピンク→「しとやか」「上品」「感銘」
・チューリップの花言葉
全般→「思いやり」
赤→「愛の告白」「真実の愛」
ピンク→「愛の芽生え」「誠実な愛」
・ガーベラの花言葉
全般→「希望」「前進」
黄色→「究極美」「究極愛」
ピンク→「感謝」「崇高美」
赤→「神秘」「燃える神秘の愛」