解呪
次の日、ライカさんはお城の果樹園から分けてもらったナシの木の枝で絹の肩掛けを染めました――赤みがかった優しい茶色に染まりました。
そして、ラベンダーとカモミールの肌掛けの上にふわりと重ね、やがてほつれだした悪夢の魔法を慎重に巻き取るのでした。
夜も昼もライカさんは手を動かし続け、お姫さまを苦しめる悪夢をすっかり巻き終わるのに、三日かかりました――そして、またしてもライカさんは騎士さまに客間まで運ばれていきました。
翌朝――そうです、この日はとうとう悪い魔法使いがお姫さまをさらいにやってくる日でした!――ライカさんは魔法使いさまと相談して、あとしばらくはこのままお姫さまの回復を待ち、頃合いを見てお針子さんたちに仕立てておいてもらったミントの肌掛けを、ラベンダーとカモミールの肌掛けと交換することになりました。
そして、魔法使いさまがその神秘のわざで呪いを打ち破るのです――ライカさんの染めたミントが、お姫さまを眠りの淵から引き上げるのを手助けしてくれることでしょう。
ライカさんは、それまで空いた時間でお城近くの森を散策することにしました。
案内役を申し出てくださった騎士さまと並んで小道を歩きます。
「この森にどのような用事が?」
「――騎士さまは、いえ、お城のみなさまは、今日は一晩中姫さまをお守りするのですよね」
じっと木々の枝に目をこらしながらライカさんは答えました。
「ですから、わたくしも備えておこうと思いまして」
「染色師どのが――?」
騎士さまは驚き、客人であるライカさんにそこまでさせられないと言いました。しかしライカさんは首を振り、
「騎士さまがたや魔法使いさまと違って、わたくしにできることといったら“染める”ことだけ。それでも、もしかしたらお役に立てることがあるかもしれませんもの」
と笑いました。
幸いなことに、ライカさんは森でヤドリギ――それも立派に育ったオークについたものでした――を見つけることができました。
お城に戻ったライカさんは、いよいよお姫さまの呪いを解くことになった魔法使いさまの臨時助手として忙しく動きまわりました。
お姫さまの肌掛けを取り替え、香を焚き、魔除けを吊るし、床に精巧な魔法陣を描く魔法使いさまのあとをインク壺を持って追いかけ――。
たくさんの人が見守るなか、魔法使いさまが杖をかかげ呪文を唱えると、魔法陣、それからベッドに横たわるお姫さまのからだがまばゆい光を放ちました。
あっ!と誰かの叫び声が聞こえました。ライカさんは眩んだ目を細めてなんとかお姫さまの様子を知ろうとします――果たして、お姫さまに絡みついていた悪い魔法は跡形もなく消え去っていたのでした。
・呪いを解くということ
清らかな乙女の涙、愛する者のキス、定められた試練を乗り越える、大いなる神のみわざ――呪いを解く方法はさまざまに伝えられています。とはいえ、これらの方法がいつでも絶対確実に使えるという保証はなく、もっとも現実的な方法として、人びとは力ある魔法使いに解呪を依頼するのです。
魔法使いたちの行う解呪は、依頼人にまつわりつく呪いを無理やり引き剥がすという少々乱暴な方法であり、宙に放り投げられ行き場をなくした呪いは一体どうなるのでしょうか。
それが弱い呪いならそのうち霧散するかもしれませんし、呪われた人と呪いとのつながりがきっちり断ち切れていなかった場合には、その人のもとに戻ってきてしまうこともあるでしょう(だからこそ、“力ある”魔法使いに頼むことがなによりも重要なのです!)。
それか、あるいはその呪いは――