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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第一章 お尋ね者の異世界転移者
8/55

洞窟

 俺達が互いの信頼関係を確かめ合っていると、とびらがノックされる。

アーシェが慌てて手を離し、「どうぞっ」と声を上げる。


村娘が顔を出す。

「お二人ともいらしたのですね。

お食事の準備が出来ました。

一階の食堂へどうぞ。

大したものではありませんが、どうぞお召し上がり下さい」


アーシェの顔が輝く。

この食いしん坊め。

二人で食堂へと移動する。




テーブルに並んでいるのはフランスパンと、野菜のスープ、サラダであった。

健康的だな。

野菜中心の食事のようだ。


席について手を合わせる。


「いただきます」


その言動を不思議そうに見ているアーシェ。


「イタダキ…マス…?」


「美味しい料理を作ってくれてありがとうございます。

美味しく食べさせていただきます。

って意味の言葉だ。

ご飯の前と後には感謝の言葉を言うのが俺の世界の常識なんだ」


ほれ、アーシェも。と、促す。

両手を目の前に合わせてー、いただきます。


「イタダキマスっ!」


若干カタコトだけど、まぁ良いだろ。

野菜のスープに口を付ける。

おー、あっかいー、染みるわー。


目の前の美少女はモグモグとパンとサラダを頬張っておる。

ハムスターかよ。

残念美人になってんぞ。


肉類は無かったが、贅沢は言えまい。

ひょっとするとお肉は高価なものなのかもしれないし、十分お腹は満たされた。

木の実しか食べてなかったからな。




腹も満たされたし、俺たちは外に出る。


「ゴブリンとオークってのは近くにいるのか?」


アーシェに問いかける。


「精霊達に尋ねてみましょう。

ゴブリンは大抵巣を作り、そこで群れの数を増やすの。

数が多いだろうから、気をつけて」


俺の手にはダガーナイフ。

アーシェは鋼の剣。

気をつけてって、俺のはこんな装備で大丈夫か?




村から出て森を散策する事数分でアーシェが反応する。


「あっちの方からゴブリン達はやってきてるみたいね」


そう言って森の奥を指差す。

俺たちは剣と短剣を身構えて慎重に進んでいく。


しばらく歩くと、俺は遠くから気配を感じ取った。



「何かいるな」


「わかるの?」


「うーん、なんとなくだが、何かの気配は感じるんだよ」


曖昧に俺は答える。


「アキトには生態感知の力があるんでしょうね。

周囲にいる生物の気配や動きを察知出来るの」


ほー、そりゃ便利。

索敵には最適な能力だな。


「数はわかる?」


集中して数えてみる。

1つ、2つ、3つ………全部で6つか?


「多分6匹だと思う」


「距離は?」


「大体、200mくらい先だ」


「200…メート…なに?」


メートル伝わらないのか。

不便だなぁ。

海外だとインチだったりするもんな。

今度この世界の尺度聞かないとな。


「まだ先だ。視認出来たら言うよ」


そう言って俺が先導する。




少し歩くと洞窟が見えてきた。

岩陰に隠れて様子を伺う。

洞窟の入り口には緑の皮膚に子供ほどの体躯。

大きな尖った鼻に黄色く濁った瞳の生き物が2匹、槍を持って立っていた。


「あれがゴブリンか?」


「ええ、そうよ」


アーシェが頷く。

俺は洞窟を指差して続ける。


「あの中から気配がする。

しかもさっき感じたのより数が増えてる。

かなり数が多くて、正直言って正確な数がわからない」


俺はそう伝えた。

なんだかあの中はザワザワと気配がして数を数えれるような状態ではない。

しかし、それほどの数は相手に出来ないのでは?


ともかく、あの門番をどうにかしないとな。

つっても、この距離からじゃ攻撃できないが…。


「この距離なら問題ないわ」


アーシェはそう言うと、詠唱を始める。


「“光の矢をここに“」


アーシェ片手を上げると、二本の光の矢が宙に浮き出る。

そのまま手を前にかざし、手の向きに矢先が向く。


「“放て“」


ビシュンッ!っと鋭い音がして矢が放たれる。

二本の矢はそれぞれゴブリンに向かい、その頭を貫いた。


「凄いな…」


思わず感歎する。


「これくらいは魔法を扱う者なら何でもないわ」


そう言ってアーシェは洞窟へと近づく。

俺もその後を追う。


「今の矢を放ちまくって、中の奴らを全滅ってのは?」


「そんな便利なことできません。

詠唱には隙が出来るし、連続での使用は難しいわ。

何よりあまり連続で魔法を行使すれば私のマナが切れちゃうもの」


「マナが切れるって、あの時みたいに意識が無くなるのか?」


「そうね。

“光の羽衣”は身体にダメージが蓄積していく毎にマナが消費されたから、あの時はすぐにマナが切れてしまったの。

普通に魔法を放つだけなら、自分でマナ切れの前に歯止めをきかせれるけれど」


 あの時は冷静じゃなかったから、迷惑をかけたわ、とアーシェは謝罪する。

俺は首を振って、謝る必要はない事を目で訴える。


 洞窟の前に来たが、中は真っ暗で奥は何も見えない。

奥からは複数の気配。


「…中に入って殱滅するしかない」


 アーシェは洞窟の奥を睨んでそう呟く。


「でもこの暗さじゃな…」


「明かりくらいなら、どうとでもなるわ」


 そう言って片手をかざして詠唱する。


「"精霊達よ、暗闇を照らし、我らに道を示せ"」


 唱えると洞窟の中が明るくなった。


「これは精霊術?」


「そうよ。洞窟の精霊の力を貸りて、洞窟全体を明るくしてもらったわ」


 全体って…。

中の連中も明るくなった事に気付いたんじゃ?

奥から「ギャーギャー」と騒がしい声が響いてくる。

突然暗い洞窟が明るくなったのだ。

何事かと思っているのだろう。

そして、その要因が洞窟の入り口にいる事もすぐに察するはずだ。


「ここで迎え討つ!」


 アーシェが剣を構える。

そういう予定なら先に言えよ、と思いながら俺も短剣を構えた。

程なくして1匹、また1匹と洞窟の奥から石の短剣や槍を持ったゴブリン達が走って向かってくる。

わらわらと現れ終わりが見えない。

 だが、敵の動きは単調。

ゴブリンの攻撃が届く前にアーシェは切り伏せる。

討ち漏らした奴だけ、俺が切り裂くか、蹴り飛ばして後方に吹っ飛ばす。

巻き添えを食らった数匹のゴブリンもドミノ倒しに倒れていく。


 とは言え、本当にアーシェの剣戟は凄まじい。

速過ぎてゴブリン達は全く反応出来ていない。

俺も負けじと奮闘するが、あまり深追いすると返ってアーシェの攻撃の邪魔になってしまう。

あくまで援護という形で俺はアーシェのほとんどない隙を埋める事にする。


 だんだんゴブリンの屍が積みあがり、入り口が狭くなる。

もう既に20匹ほどは切り伏せた。

 流石にこの数が倒されると、ゴブリン達も動揺する。

立ち向かえば抗う間もなく倒される。

たかが人間二人程度、数で圧倒できると思っていたが、全くそんな事はなかった。


 ゴブリン達は進行を一旦止め、下がっていく。


「退いていくな」


 俺はアーシェをチラリと見る。


「…正直、深追いはあまりしたくない。

ここは奴らの巣穴だから、何が潜んでいるか…」


 アーシェが苦い顔をする。


「とは言え、追わないと殲滅は出来ないだろうな」


 一旦短剣を下ろして俺は続ける。


「ちょっとづつ、戦いにも慣れてきたよ。

身体の動きも何となくわかってきた。

俺が今度は前に出るよ。

アーシェは援護してもらえるか?」


 そう言って俺は死体の山を蹴り崩す。


「私はまだまだ疲れていないから、私が前に出ても問題はないけれど?」


 アーシェは本当に平気そうな顔をしている。

うん、まぁそうなんだろうね。


「アーシェには魔法とかあるだろ。

でも、俺にはそういうの無いし、後ろから援護ってのは出来ないんだ。

かといって、さっきみたいな脇で援護は出来なくもないけど、この狭い洞窟の中じゃ脇から援護もないだろう。

逆に俺が横でウロチョロしてると邪魔だろ?」


 そう言って踏み出す。

アーシェは少し考えていると「わかった」と頷いた。


「危なかったらすぐに入れ替わるわ」


「頼んだ。とりあえず後ろはお願いするよ」


 正直言って、別段俺がどうしても前に出る必要は無かったが、女の子にひたすら戦わせて俺だけ高みの見物とかちょっと嫌な図だろ。

だからちょっとでも良い所見せたい、っていうやつだ。

ようは見栄です。

けどまぁ、そういう事を思えるくらいには余裕が出てきている証拠でもある。


 俺に続いてアーシェも洞窟の中に入り、ゆっくりと前進する。

気配は大分遠くにいっている。

随分下がったもんだ。

 アーシェの精霊術のお陰で洞窟の内部がよくわかるが、随分と長い洞窟のようだ。


 気配にだんだん近づいていく。

そして、大きな広間へと到達した。

そこには…。

ゴブリンが何匹も俺達を取り囲むようにしてこちらを見ていた。

そして、中央に杖を持ったゴブリンがいる。


「あれは…ゴブリンシャーマンね」


 アーシェが言う。


「ゴブリンシャーマン?そりゃなんだ」


「魔法を扱うゴブリンよ。

攻撃魔法や状態異常を引き起こす魔法も扱うから注意して」


 注意って言われてもな…。

そう思っていると、ある気配がこの広間にいる連中とは別に動いているのを感じる。

なんだ?

この広間よりも奥にいて、移動している…。

それはだんだん俺達の後方へと移動し、また近づいてくる。


「アーシェ!後ろからも来るぞ!」


 俺が声を出すとアーシェが慌てて振り返る。


そこにはゴブリンとは違い、大柄な人影。

大きな木の棍棒を持ち、太い腕を揺らしながらノッシノッシと近づいてくるその存在。


「オーク…っ」


 アーシェが身構える。

どうやら迂回路を使われて、後ろに回られたようだ。

俺達は気づかなかったが、どこかに横道でもあったのだろう。


「悪いけど、前後を交代できるか?

俺には魔法がどういうのかわかんないからさ」


 まさか魔法使う奴が相手とは俺も思ってなかったんで。


「私もその方が良いと思うわ。

オークはゴブリンに比べて力も能力も大分上になってる。

怪力を持つ大男ってところかしら」


 アーシェはそう簡単に説明してくれる。


「大男ね。了解、“任せろ”」


 俺はそう言って、アーシェに笑いかける。

アーシェも俺を見て微笑み頷く。

アーシェと入れ替わり、俺はオークへ走り出す。

そしてアーシェもまた広間を疾走する。


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