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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第一章 お尋ね者の異世界転移者
4/55

向かうべき場所

 自分の着ていた学ランは焼け焦げてボロボロになっていた。

大事なところは一応隠れているのが幸いだが、いたるところが穴だらけだ。

お陰で持っていたスマホもぶっ壊れた。


 どれくらい時間が経ったか。

しばらく俺はその場でぼーっとしていると、「ん…う…」と彼女のうめき声が聞こえた。


「起きたか?」


 俺が声をかける。

彼女が目を覚ました。


「…ここは………っ!」


 彼女が立ち上がり、俺を見つめる。


「街は!?ねぇ、街の人達は!?」


 問い詰めてくる。

俺は黙ったまま、首を振った。


「わかるだろ。

あの炎の中じゃ生き残れない。

近づく事すら、できやしない…」


 そう伝えると、彼女はその場に崩れ落ちる…。


「みんな…死んだの…?」


「………」


 答えられなかった。

でも、その沈黙がそのまま答えになっていた。


「…う…うぁ…あ…あぁぁ…あぁ…っ!」


 彼女は嗚咽を漏らし、泣き始めた。

俺は何も声をかける事が出来なかった。

肩を抱いてあげたりする場面なんだろうか?

ギュッと抱きしめたりとかするべきか?

 でも、そういう行動が俺にはひどく場違いな気がした。

だから、泣いている彼女を黙って見守っていた。

泣き止むまで…ずっと…ずっと…。


 気付けば日が暮れていた。

月明かりがあるお陰で、灯りがなくとも森の中とは言え少しは視界がとれていた。


「…どうして…」


 彼女は俯いたまま、呟く。


「…どうして、私を助けたの…?」


 どうして?

そんな事決まってるだろう。


「目の前に倒れた人がいりゃ、そりゃ助けるだろう」


 当たり前のように答える。

目の届かないところで倒れてる人まで手を伸ばせないが、目の前にいる人くらい、助けたいって思うだろう。


「あなたも、死ぬかもしれなかった…」


 俺のボロボロの衣服を見て、そう彼女は言う。


「あぁ、そうだな。

確かに死ぬほど熱かった。

服はボロボロになったけど、身体は無事ってのが不思議だけどな」


 俺はおどけるようにそう言った。


「…火耐性を持っているのね…。

たぶん、すごく強力な」


 彼女は「転移者…だもんね…」と続ける。


 火耐性?

そんなもんあんのか。

俺の身体がすこぶる頑丈になったかと思ったけど、何かの力の恩恵だったんだな。


「ねぇ、あなた、名前は?」


「サエキ・アキトだ」


「サエキが名前?」


「いや、アキトが名前だ。サエキはファミリーネームって奴」


 「アキト…」彼女はそう呟くと、


「私の名前はアリシエ・オルレアン。よろしくね」


 そう言って、手を伸ばしてくる。

なんか口調も性格も変わってないか?

普通に可愛い美少女ですわ。

いや、これが…素なのかな。


「あぁ、よろしくな。アリシエ」


「アーシェでいいわ」


 彼女はそう言って、俺と握手をした。

やーらけー。

騎士っていうからもっとゴツい手かと思ったけど、全然そんな事ないな。


「こうしてジッとしている訳にもいかないわ」


 彼女はそう言って立ち上がる。

俺はそれを不思議そうに見上げる。

どうするってんだ?


「隣の街に向かう。

東に行けば、クレスタリアって街があるの。

そこには聖教会の聖騎士が大勢いる。

炎龍の情報を伝えて、支援を求めるわ」


 確かに、あの炎龍の情報は伝えなきゃいけないだろうな。

街が一つ丸ごと崩壊してしまったのだ。

そんなのがこの辺りにいるとなれば大問題だろう。


「悪いけれど、アキトにも同行してもらうわ」


「同行するのは構わないよ。どうせ行くあても無いしな。

でも、何で悪いけど、なんだ?」


「街に着いたら、聖教会に引き渡すから」


 サラッとアーシェが言って、俺はゲェッと思いっきり嫌そうな顔をする。


「まだ言ってんのかよ。

俺ってそんなに悪人面してるか?」


 結構ショックなんですけど。


「悪人とは思っていないわ。

初めて会った時から邪悪な気配は感じなかったし、マナが切れて倒れていた私を助けてもくれた。

だから、きっと善人…だとは…思ってる」


 なんで後半自信がなくなってきてるですかね?

その確認するような目もやめてもらっていいですか?


「それなら『この人は悪人じゃないですっ」って言ってくれよ」


 頼むぜ、と俺は言う。


「私の一存でどうこう出来る問題じゃないの。

あなた達異世界転移者は、存在そのものが変災のようなものなのよ」


 そう困ったような顔をして、険しい顔つきに変わる。


「あの炎龍も…異世界転移者リドラが従えている龍の1匹なの」


 苦々しげに、そうアーシェは言った。


「あんな化け物みたいな存在を従えてるのか」


「えぇ。龍の担い手リドラ。

彼女もまた、異世界転移者で、8匹の龍が世界中で災厄を撒き散らしてる。

炎龍はその内の1匹よ」


 だから、と彼女は続ける。


「あなたもまた、同じ異世界転移者なの。

私達からすれば、遠く及ばないような力を持つ存在…」


「いや、俺普通に一般人なんですけど」


「常人離れした身体能力からそうは思えないけど、少なくとも今は普通、と言えるかもしれない。

でも、未来はわからない。

どの異世界転移者も、最初の頃の力は強力というだけで脅威ではないらしいわ。

でも、後に人智を超えた力を持ち、世界に猛威を振るう存在となる。

良い意味でも、悪い意味でも、ね。

だから、そうなる前に異世界転移者は捕縛しなければいけない決まりなの」


 こっちからすればめちゃくちゃ迷惑なルールだな。

でも、理屈は確かに通っているかもしれない。

街中に放たれた仔ライオンを、今はまだ無害だから、と放置するかと言えば違うだろう。

大人になれば立派な肉食獣だ。

檻の中に入れるか、無害な場所に移すか、何かしらの対策を取るのは当然か。


「聖教会に引き渡して、取調べが終えて無害だとわかれば、釈放される事もあるって聞いたわ」


 されない場合はどうなるか、そっちのが気になるね、俺としては。

だがま、仕方ないか。


「わかったよ。

どっちにしろ、俺も一人で訳分からん世界に放り出された身だ。

誰かを頼らなきゃ今は生きていける自信は無い。

だから、街に着くまでは協力し合おう」


 着いてからは…まぁ、成すように成るさ。


「ええ、そうね」


 彼女は短く答えると、歩き出した。


「この森の中にも魔物は出るの。

夜の間もあまり気は抜けないわ。

火を焚いていたら、魔物はあまり寄り付かなくなるから、火を焚きましょう」


 りょーかい、隊長。

俺は敬礼して、燃えそうな枝を集める。

燃えやすく組み立てるが、火種が無い。


「ライター持ってる?」


 俺は聞いてみる。


「らいたー?何の事かわからないけれど、火は出せるわ。

"精霊達よ、灯火をここに"」


 アーシェが唱えると、枝に火が付いた。


「今のって魔法ってやつ?」


「いいえ、魔法とは少し違うわ。

魔法は自身のマナを使って魔力を操り、放つもの。

今のは精霊術と言って、周囲の精霊に力を貸してもらったの」


 ほっほーん。

そういうのがある訳ね。

いよいよファンタジーって感じになってきたな。

ちょっとワクワクしてきたぞ。


「アキト、あんな事があったのに、あまり気落ちしていないのね」


 アーシェは少し疲れたような顔をして微笑む。


 うーん、俺はこの世界の人間じゃないしな。

でも、アーシェは違う。

この世界で生まれ、あの街で過ごしてきたのだろう。

思い入れの違いってやつだな。

 アーシェもそれに気付いたのか「…仕方ないのよね…」と呟いた。


 何が仕方ないのか。

俺が気落ちしていない事なのか。

それとも、街を救えなかった事なのか。

誰も、助からなかった事なのか。


 きっと、全部なんだろう。

色々なことを含めて、仕方ない、と思わずにはいられない。


「…小さい頃に両親が死んじまってさ」


 俯くアーシェに俺は言う。


「交通事故だったんだ。

あー…交通事故っつうのは、まぁ…なんだ、誰かの不注意によって起きた事故に巻き込まれたんだ。

それで、両親が死んでしまった。

俺がまだ8つの時だ」


 アーシェは顔を上げて、俺を黙って見つめている。


「悲しかったし、辛かった。

今でも立ち直ったかっていうと、よくわからないな。

でも、どこかで、『仕方ない出来事』って思うようになった。

何をどうしても、過去は変えられないし、命も戻らない」


 俺は手の平を見つめて続ける。


「『仕方ない』って思って、前に進みだした。

毎日を、平凡な毎日だったけど、それを割り切って生きる事を続けたんだ。

悲しみや苦しみだけを抱えて毎日生きるのはしんどかったからな」


 手の平を握り締める。


「それに、俺があんまり落ち込んでると、引き取ってくれた爺ちゃんや婆ちゃんも辛そうな顔してさ。

周りの人にそんな顔させるもんじゃないな、って、段々思うようになってきたのさ。

少しづつ、自分だけの事から、周りが見えてくるようになってきた」


 だから、とアーシェを見て続ける。


「今は…辛くて、苦しくて、泣きたくなると思うけれど、

いつか前を向ける日がくる。

『仕方なかった』と、諦めと明らめが自分を前に進めてくれる。

それまではしんどいと思うけど…うん…なんだ…頑張れ、アーシェ」


 自分でも何が言いたいかわからんくなった。


「なにそれ、最後ものすごく投げやりじゃなかった?」


 そう言ってアーシェは笑った。


「でも…ありがとう…」


 そう感謝を述べた。

きっと、アーシェは強い心を持った人なんだろう。

あんな光景を目の当たりにして、こうして誰かと気持ちを交わせれられるから。

だからきっと、アーシェは大丈夫だ。

俺はそう信じる事にした。


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