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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第三章 迷宮を超えて
33/55

 魔王と勇者。

それは相反する存在。

互いに殺し合い、存在を否定し合う者達。

そして、アーシェは勇者で、俺は魔王の力を秘めている。

とは言え、確か俺には勇者の卵もあったはずだ。

それはどういう事なんだ?

俺は魔王にも、勇者にも成り得る、という事か?

わからねぇ。

今度メーティスに聞いてみるか。



「とりあえず、俺は魔王になるつもりなんて無いし、酷ぇ目にはあったがこの世界全てを破壊しようとか思ってないから大丈夫だよ」


 その言葉にアーシェはホッした顔をする。


「お願いね。

私はアキトと戦うなんて絶対に嫌だから」


 そう言って目を潤ませる。

そんな泣きそうになるなよ。


「大丈夫だって。そういえば、アーシェはいつ勇者になったんだ?」


「アキトを逃がすためにキリエスと戦ってる時よ。

アキトを絶対守り抜く、諦めたくない、って気持ちから孵化したみたい」


 その言葉を聞いて俺は少し照れる。

真顔で良くそんな事言えるなぁ。


「ノロケですか、そうなんですか?」


 シェリーがジト目で見てくる。


「ち、違うわよっ。事実だから。単なる事実を述べてるだけ!」


 アーシェは慌てた様子になる。

次いで、俺はシェリーを見る。


「シェリーも何か卵を孵化させたのか?

俺は英雄の卵を孵化させてるけど」


「私は魔将の卵を孵化させています」


 その言葉にアーシェがギョッとする。


「そんなっ!魔将の卵を孵化させたのに、どうしてそんな平然と…?」


 シェリーは驚かれる事をわかっていたのか澄ました顔で続ける。


「私が魔将に目覚めたのは私と同じ境遇の転移者がクリムゾンに殺された時です。

怒りにその身を焦がし、周りの全てを圧し潰しました。

当時はそれは荒れていましたよ。

けれど良くも悪くも私の心も身体も服従の首輪によって拘束されていました。

そのお陰で自我を辛うじて保つ事が出来たのだと思います」


 その説明を受けて、アーシェは「そう…」と一言漏らし、静かになる。

クリムゾンって単語は二人で共有されているが、俺にはわからない。

聞いてみるか。


「ちょっとついていけないから聞いていいか?

そのクリムゾンってなんだ?魔法なのか、人名なのか」


 その言葉にアーシェが俺を見て答える。


「この地域で猛威を振るっていた転移者の別称よ。

クリムゾン…それは鮮血の転移者という意味を持つの。

彼の名前は知らないわ。

彼が最初に出てきたのは小さな村と聞いたわ。

そこにいた住人を全て、女も子供も焼き殺したの。

それだけじゃない。

そこの住人は…食べられていた…。

聖騎士がその現場に着いた時は本当にひどい状況だったみたいよ。

キリエスが転移者を忌み嫌うのはそういう者もいる事を知っているから」


 食事中の話ではないな…。

しかし、ゾッとする話だ。


「そのクリムゾンってのは…倒したのか?」


 シェリーを見て聞く。


「ええ。私が殺しました。

けれど、私の他に三人の転移者がいましたが二人犠牲になりました。

私よりも先に大司教に従えられていた人達でしたが、根は優しい人達でした。

拷問されている私を助けてくれた事もありました。

あの人達を…クリムゾンは私の目の前で…」


 そこでシェリーは口を閉ざす。


「いや、もう大丈夫だ…。

思い出させて悪かった、シェリー」


 俺は悪い事を聞いてしまったな、と後悔する。

しかし、同じ転移者として、考える。

そいつは何でそんな事をしたのか、と。

けれど、俺がいた元の世界でも同じだったかもしれない。

日本でも、いや、世界中に、人間とは思えないような事をする奴は確かにいる。

あまりにも残虐で、非道で、惨い事をする奴は、存在するのだ。

そんな奴がもしもこの世界に転移し、力を手にしてしまえば…。

その力を自分の思うがままに振るい続けるのもおかしくはないかもしれない。

そう考えると、俺に向けられる目が恐怖や嫌悪のそれだとしても頷ける。

納得は、できないが。


「そんで、えっと…話しを戻そう。

シェリーは魔将の力ってのを持ってるのか。

だからあの目を手に入れたんだな?」


「そうです。

潰眼オリアスはその時に開眼しました」


 勇者、英雄、魔将、魔王…。

そして孵化すると開眼する瞳の力。

メーティス曰く、神様なんだよな…。

全てはまだ点と点だが、何かが繋がりかけている。

けれど、それはまだわからない。


「そういえば、俺は叡眼メーティスってのを持ってるが、みんなその力には意思があるのか?

頭の中で会話とかできるけど」


 何気に疑問だった事を問いかける。


「私は出来るわ。

覇眼ヴァルキュリアは色んな人達がいるから、特定の人を呼びかける事になるけれど」


 メーティスが言ってたな。複数の神を有する珍しい天眼だとか何とか。


「そのような意思があるのですか?

私は出来ません。

あくまでも力が行使できるだけで、そこにあるのは私の意思だけです」


 そうなのか。

やはり俺やアーシェの持つ天眼とシェリーの持つ魔眼とでは違うのか?


「ただ、私が開眼した当初、何かに身体が乗っ取られたような感覚に陥りました。

怒りに我を忘れた、と言っても良いですが。

…これは私の推測ですが、魔眼を開眼すれば、開眼した者の人格は眼力に飲み込まれるのかもしれません。

大司教はそれを知っていたから、執拗に服従の首輪を私達に付ける事に拘っていたとも考えられます。

あくまで…推測ですが…」


 ふむふむ。

何となくわかって来た。

って事は、俺がもしも魔将の卵を孵化させてしまうとヤバい事になりかねないって事か。


「アーシェ、念の為、俺にも服従の首輪しておいた方が良いんじゃないか?

俺、あの卵とは別に魔将の卵も持ってるし」


 シェリーとアーシェは同時に噴き出す。


「ちょ、ちょっと待って!

アキト、あなた一体いくつの卵を持ってるの!?

そんなの聞いたことないわ!」


「私も聞いた事がありません。

大司教が随分上機嫌にアキト様の能力は別格だと言っていましたが、そういう事だったのですか!?」


 え、みんな持ってないの?

俺だけなのか。


「アキト、まさかあなたは勇者の卵も?」


 アーシェは恐る恐る聞いてくる。


「持ってます」


 俺はそう答えると二人は目を合わせて驚愕の顔を浮かべる。


「信じられない…。

この世界の住人は卵は一つしか持っていないわ。

いいえ、持っている人すら稀なの。

転移者は複数持つ事がある、というのは聞いたことがあるけれど、全てを揃えている人なんて…」


 アーシェはぶつぶつと言っている。

シェリーは口に手を当てて考え込み、また口を開いた。


「しかし、あの卵を有しているのならば、それだけの潜在能力を持っている、としても不思議はありません。

とは言え、アキト様。

魔将の卵もまた危険なものです。

確かに服従の首輪は一つの手段ではありますが…」


 そう言ってアーシェを見る。


「主はアーシェ様なのですか?

ずっと身に着けていた私はその効能を誰よりも熟知しておりますし、私でも構いませんが?」


「ちょ、ちょっと何を言い出すの!」


 ニヤリと笑うシェリーにアーシェが慌てる。


「だ、ダメッ!そんなの許さないんだからっ!

もしもアキトに首輪をつけるなら私がつける!」


「まったく、アーシェ様は想い人に首輪をつけて従わせるなんて、なにを考えているのですか?」


 意地悪くシェリーはアーシェに言う。


「べ、別に何か考えてるとか、そういうんじゃ!

で、でも私に服従するアキトを見るのも…それはそれで…アリ…?」


 そう言って頬を染めるアーシェ。


「いや、ねーよ。

妄想の中で俺を奴隷にするな」


「アリシエ様、いやらしいですね」


 澄ました顔でシェリーが言う。


「あなたが言い始めたんでしょうっ!」


 アーシェがギャンギャン吠える。


「落ち着け。

とりあえず首輪の事は置いておくぞ。

聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ。

周りに人がいないから良いが、もしいたら大分ヤバい人達だと思われるだろうが」


 首輪をつけるだの服従させるだのどんなSMプレイが好きな変態だ。

勘弁してくれ。


「とにかく、必要があればそういう手段もある、という事だな。

その服従の首輪ってのはそんな簡単に手には入らないんだろ?」


「そうですね。高価なモノですし、一般的に売られてるものでもありません。

モノがモノですから。

手に入れるのも難しいかと」


 シェリーが答える。

 そりゃそうだ。

そんなものが世の中に流通し出したら世も末だ。

でも…俺の召喚で作れない事もないのか?

メーティスがあの首輪の解析は終えている。

つまり構造も効能も理解しているのだ。

ならば召喚で作る事は不可能ではないはず。

しかし首輪を自分で作ってそれを自分に嵌めるとかとんだM男である。

俺にはそんな趣味は断じてない。

若干アーシェにそういう妄想されて息子が反応したとか、そんな事断じてないっ。

ないったらない。


「さて、とりあえず今後の予定だ。

アーシェとも話したが、エルフの里を目指そうと思ってる。

そこで俺達を受け容れてもらえるかどうか、聞いてみたい。

永住はできなくても、少しでも暮らしていける環境があればそれで良い。

ずっと野宿って訳にもいかないからな」


「エルフの里…ですか。

しかし、‟迷いの森”でエルフの里を見つけられる事はできるのですか?」


 シェリーは険しい顔をする。


「そこはアキトの生体感知に頼るしかないわ。

かなり広範囲の感知ができるようだから、探し出す事は出来るかもしれない」


 アーシェがそう説明する。

シェリーは「なるほど」と俺を見てくる。


「そういう事だ。

ってことで、明日はその‟迷いの森”を目指そう」


 そう言って俺は締めようとするが、アーシェが「ちょっといい?」と止める。


「…あのね、迷いの森に行く前に、寄って欲しいところがあるの。

私の故郷、エールダイト。

炎龍を滅ぼしたのなら、あの炎も消えているはず。

だから、最後にお別れを言いたいの」


 アーシェは俺を真っ直ぐみて、そう言った。



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