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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第二章 聖都の闇
28/55

激闘

 俺は考える。

あの炎龍の狙いは間違いなくこのクリステリア。

どうする?この街を今すぐ離れれば、少なくとも俺達は助かるかもしれない。

だが、そうなるとこの街はエールダイトと同じように瓦礫と火の海に包まれるだろう。


 正直、こんな街には嫌な思い出しかない。

到着した途端に拘束され、牢獄にぶち込まれ、拷問され、危うく廃人になりかけた。

まったく良い思い出などない。

思い入れもない。

この街が仮に消し飛んでも心は痛まないだろう。


 だが、アーシェは違うはずだ。

俺はアーシェを見る。

その瞳は恐怖で揺らいでいる。

あの光景を、思い出しているのかもしれない。

それがまた、この場所で再現されるのだ、と。

それを、俺は見過ごすのか?


 しかし、見過ごさない、として…あれは…。

改めてあの存在を見ると、わかる。

桁違いだ。

次元の違う強さ…いや、あれはまさしく天災と呼んでいい代物だ。

人間が挑んでいいものじゃない。

だが、止められのは…いま、俺達しかいない…。




「アーシェ。お前は…」


 どうしたい?と、俺は口にしそうになったが、グッと堪えた。

その聞き方が、とても卑怯な気がした。

それよりも、俺はどうしたいんだ。

正直見なかった事にして、この場をとっとと去りたい。

遠くで爆撃音みたいな音と風圧が飛んでくるだろうが、構わず逃げ出す。

そうしたい。

でも…もうアーシェのあんな姿を見たくない。

もう二度と、見たくない。

だから…。


「お前は…俺があいつと戦うと言ったら、付いてきてくれるか?」


 そう聞いた。

アーシェは驚いて俺を見る。


「アキト…?た、戦うって…本気?

そ、それに、何で?アキトは…この街を守る必要も、理由だって…」


 困惑しているアーシェは小さくそう言うが、俺は何も応えず真っ直ぐアーシェを見る。

どうするんだ、と。


「………うん。付いていく。

あの炎龍を、止めなくちゃいけない…。

私の方こそ、お願いしたい。アキト、力を貸して」


 そう俺に告げた。

それに俺は頷く。

次いでシェリーを見る。


「あー…付いて来てもらって悪いんだが、これから化け物退治をせにゃならんくなった。

シェリー、今なら俺達と別れて逃げ出せるが、どうす…」


「愚問を問わないで下さい。

答えなど決まっております。アキト様が行く場所が地獄であろうと、お供します」


 すげぇ覚悟。目が本気である。

俺はその言葉に頷いた。

そして俺達は炎龍を見る。

遠くに見えた炎龍の翼の轟音が、ついに聞こえ出す。

結界石が反応し、まばゆい光を上げて炎龍の存在を知らせる。


「街の中では戦えないわ。

迎え撃つ」


 アーシェはそう言って瞳の色を虹色に変える。


「了解、そんじゃ、いきますか」


 俺も応え、叡眼が見開かれる。


「かしこまりました。ではまず、あの大きなトカゲを叩き落としましょう」


 シェリーはそう言って目を灰色に染める。

そして一言。


「‟落ちろ”っ!!!」


 目を大きく見開き、叫ぶ。

すると遠くにいた炎龍は地面にものすごい速度で叩きつけられた。

やべぇ…俺、こんな娘とさっきまでやりあってたのな…。

若干ひきつった顔でシェリーを見る。

シェリーは「なにか?」と首をひねり、微笑んでくる。

恐いっす…。


「二人とも、見つめあってないで行くわよっ!」


 アーシェは拗ねたように声を上げ、飛び出した。

俺も「はいよっ」と答え、後を追う。

その後ろをシェリーが追従する。

転移者が二人と勇者が一人。

対するは伝説の炎龍。

その戦いの火蓋が切って落とされた。






「メーティス、あのドラゴンを解析しろ!弱点とか、戦い方とか、何でもいい!情報をよこせ!」


 俺は荒々しくメーティスに声を上げる。


『炎龍‟ヴォルカルノ”を解析します。

火属性無効を持っているマスターですが、炎龍の炎は強い魔力も秘めています。

ただの炎の効力は無効かできても、純粋な魔力と物理のダメージはありますから無茶をしないように』


 たしかに、あの炎は危険だった。

解析が終わるまではあまり近付かない方がいいだろう。

俺はカラドリウスを掲げ、狙いを定める。

距離は500m以上あるが、この銃ならば十分射程距離。

ズガンズガンッ!!と魔弾を二発放ち、その身体に当てるが魔弾が弾かれる。

なんだ…?

今、弾きやがった?


『強固な鱗の上には更に結界が張られています。

破るにはより強力な火力が必要かと』


 思わず舌打ちする。

シェリーのアニマルパラダイスは消し飛ばせたんだがな。


 少し距離をあけて、シェリーは空中で何か詠唱している。

そして、クリステリアの周囲にあった湖が呼応し、噴水のように吹き上がる。

吹き上がった水は形を成して、巨大な槍になる。


「これだけの湖がなければできない大技です。

串刺しになれ、‟ハイドロス・アラドヴァル”!!!」


 放たれたのは三つの巨槍。

炎龍へと真っ直ぐ突き進むが、炎龍は翼を大きく広げ、口から炎弾を三つ放ち、三つの巨槍と相殺させる。

あまりの膨大な威力に空気が震え上がり、凄まじい水蒸気が辺りを包む。

蒸気が霧のようになって視界が悪くなる中、光の斬撃がいくつも見えた。

そして炎龍の絶叫が聞こえる。

あれは…アーシェか?

あいつ、あの炎龍を斬ってるのか!


 俺は叡眼の力を強め、目を細める。

するとアーシェの姿を捉える。

炎龍の周囲を縦横無尽に駆け回り、光の閃光を煌めかせながら鋭い斬撃を与え、その身体中を斬り続けている。

しかし、傷ついた箇所からは炎が噴き出し、やがて傷が無くなってしまう。

こいつ、自己修復も出来るのか。


「グゥガアアアァァアァァアアアアアアッ!!!」


 辺りの空気を吹き飛ばすほどの咆哮が響き渡る。

つんざくその音に思わず耳を塞ぐ。

至近距離のアーシェは大丈夫かよ?と心配になる。


 すると、炎龍は翼を大きく広げ、両腕を地面に強く叩きつける。

そしてその眼光がギラリッと煌めくと、周囲の気温が急激に上昇するのを感じる。

炎龍を中心に、一気に辺り一面が火の海に変わる。

俺自身はその熱に耐えられても、服はあっという間に燃え尽きた。

 っちょっ!裸になっちまったじゃねぇか!


『マスター、真面目にお願いします。戦闘の最中に露出趣味を出さないで下さい』


 不可抗力だろうがっ!しかもそんな趣味はないっ!


『服を召喚して下さい』


 メーティスから呆れたような声が届き、召喚の知識が流れ込む。

俺が何をした…。


「武具召喚、‟黒衣”!」


 流れてくる知識通りに詠唱すると、俺の身体が翡翠色に輝きだす。

そして黒いスラックスに、上着はつめ襟、輝く五つのボタンに漆黒の服。

しかし、それは…もう着慣れた服でもある。

なんと言ってもこれは…。


「学ランじゃねぇか!」


『マスターの普段着なのでは?』


「お前こそ真面目にやれっ!」


 と突っ込みを入れるが、この服、すごい魔素を感じる。

熱も完全に遮断している。

学ランのくせに…。


いや、この際服装などどうでも良い。

二人は大丈夫なのか?と目を走らせる。


 宙に浮いているシェリーは球体の水の中に自分が入り、あれがシールド変わりになっているようだった。

アーシェは身体が金色の光に包まれている事から、また光の羽衣を使っているのだろう。


 さて、問題はこのデカ物…どうする?

それぞれの火力は一級品であるにも関わらず、それでも攻めあぐねてしまう。

火力が足りない。


 シェリーは球体の水からマシンガンのように水弾を飛ばし、撃ち続けているが炎龍に届く前に蒸発してしまう。

アーシェは自分の周りに光の剣を幾本も出して同時に切り裂き続けてるが、やはり決定打にはならない。

しかしダメージを与えられるのが鬱陶しいのか炎龍は爪や尻尾で追い払おうとするが、その攻撃は全て躱される。

あの巨体なのに、良く動く奴だ。

メーティスの解析は未だに終わらない。

それだけの存在、という事か。

俺は左手を掲げ、召喚する。

強固な結界も、鱗もぶち抜く、新たな銃を。


「幻具召喚!‟スレイプニル”ッ!」


 その手が光りだし、長い狙撃中が握られる。

その銃身は太く、長さはゆうに1mはあり巨大な銃口がある。

弾倉はなく、ボルトアクションの狙撃銃のそれは白銀の銃。

長い銃身には八本脚の馬の刻印が金色に輝いている。


 そして右手で銃弾を召喚する。

その銃弾は20mmの直径に100mmを超える長さの銃弾。

手に収まりきらないその銃弾を握りしめ、更に詠唱する。


「ゼノ・バースト」


 その銃弾に込めたのは魔力の爆弾。

それを装填し、叡眼の遠視能力をスコープ変わりに狙いを定める。

炎龍の胴体ど真ん中を狙い、引き金を引く。

スレイプニルを支えていた肩にものすごい衝撃が走り、飛び出したのは蒼い閃光。

レーザービームのように駆け抜ける閃光が炎龍の胴体を突き抜け、更に当たった場所で大きな爆発が起きる。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 でかい悲鳴を上げながら炎を吐き出す炎龍。

その胴体には1mほどの大穴が開けられていた。

しかし、その傷口も炎に包まれ、少しづつ再生し始める。

この炎の回復が厄介だ。

しかし、頭を撃ち抜けば…。


 もう一発、銃弾を召喚する。

しかし俺の存在を脅威に感じた炎龍はアーシェを無視して俺をギロリッと睨みつけ、大口を開ける。

あ、やべぇ、逃げないと。


 俺は地面を駆け抜けるが、吐き出された巨大な炎弾は俺を追尾してくる。

なんつう出鱈目なっ!


「アキト様に手出しはさせません」


 シェリーが上空で呟き、その炎弾を睨みつけ、潰眼オリアスによってその炎弾を地面に着弾させる。

アキトは爆風を耐え、シェリーにサムズアップする。


 そしてアーシェもまた炎龍と距離を置き、地面に降り立つと地面に片手をついて詠唱を始める。


「‟覇眼ヴァルキュリア、ヘリアの名に置いて命ず。この手に破滅の雷を。その雷を槍に”」


 地面に巨大な魔方陣が浮かび上がる。

その魔方陣に空から幾十もの落雷が落ち、その雷が魔方陣の中で暴れまわる。

そしてその雷は徐々に巨槍の形へと変わっていく。

炎龍もその異常事態に危機感を感じたのか、俺からアーシェへと狙いを変えて口を開く。


 その隙に俺は銃弾をスレイプニルに装填し、狙いを定める。


「吹っ飛べ」


 引き金を引き蒼い閃光が走る。

まっすぐ炎龍の頭へと向かうが、紙一重で仰け反った炎龍がその狙いをズラシ、下顎だけが吹き飛んだ。

「ッチ」と俺は舌打ちをする。

だが、その間にアーシェは術式を組み上げ終える。


「‟巨雷槍グングニル”ッ!!!」


 出来上がったのは巨大な雷の槍。

眩い閃光を迸らせながら、その槍は一直線に炎龍へと襲いかかる。

炎龍は飛び上がって離脱しようとするが、それを…。


「逃がしません」


 シェリーが潰眼に力を込め、炎龍が飛び上がるのを抑えつける。

超重力によって身体の自由がきかなくなる炎龍に、巨雷槍が突き刺さった。

一面に広がる雷の嵐。

あまりの輝きに目が眩む。

目を細め、その結果を見届ける。

全身から煙を上げ、赤い鱗も所々剥げ落ち、胴体には大きな風穴があき、下顎も消し飛んでいる。

しかし、炎龍の闘志は未だ衰えを知らず、全身を炎に包み、重症というには深すぎる傷を治していく。

そして、炎龍が残された命を爆発させるように、力を開放する。


「グガアアアァアァァァアアッ!!!」


 雄叫びを上げ、周囲のモノ全て爆風で吹き飛ばす。

アーシェが吹き飛ばされ、その身体に炎龍の尾が鋭く薙ぎ払われぶち当たる。

ピンポン玉のように吹き飛ぶアーシェ。


「アーシェッ!!!」


 俺は叫ぶが、今度はシェリーに向かって炎龍が口を開く。

その下顎は炎によって形作られていた。

シェリーは水の結界を何重にも重ねたが、炎龍の口から放たれた熱線はそれを貫きシェリーを飲み込む。


「シェリーッ!!!」


 やばいっ!あんな身体でまだコイツッ!

俺はすぐ様新しい魔弾を召喚し、スレイプニルに装填する。

しかし、その僅かな隙に炎龍は飛び上がり、あの巨体からは信じられない速度で俺へと向かってくる。

ダメだ、間に合わない!


「‟ダイテイト・アイギス”ッ!」


 漆黒の大盾を召喚し、身構えた瞬間に炎龍の鋭い爪が盾に激突し、盾ごと吹き飛ばされる。

あまりの衝撃に天地の感覚すら失われ、地面へと叩きつけられる。

すぐに立ち上がろうと手足に力を入れ、上を見上げると、大口を開けた炎龍の姿があった。

容赦ない炎弾が放たれ、その炎弾に全身が飲み込まれた。


 引き起こされる大爆発。

巨大なクレーターを作り、その中心で盾を構えたアキトがゆっくり崩れ落ちる。

辺り一面はより激しい火の海となっていた。


 炎龍は癒しの炎によって、すでに傷は塞がり、その道を阻んだ者達に向けて咆哮を上げる。

その声が耳に聞こえた後、頭の中にメーティスの声が響く。



『解析が完了っ!マスター、これより身体の回復に魔力を注ぎますっ!

立ち上がって下さいっ!』

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