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異世界転移者はお尋ね者  作者: ひとつめ帽子
第一章 お尋ね者の異世界転移者
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突然転移

枕元にあるスマホが朝を知らせるアラームを鳴らし始める。

寝起きの手がスマホを探し、アラームを消すと布団からムクリっと少年が目を覚ます。

大きく伸びをして外を見ると、暖かな日差しが差し込んでいる。

今日もいい天気だ。



 朝目覚めたら朝食の準備。

と、言っても食パンをトースターに放り込み、牛乳を用意するだけ。

お手軽簡単。

テレビを付けて今朝のニュースチェック。


『行方不明になった女子高生"篠原 沙希"さんの消息はいまだ確認がとれておらず、警察は懸命な…』


 まともにテレビを見る事もなく、食事の間だけのBGMとして流す。

朝食をササッと食べるとすぐに制服に着替え、家を出る。


 何の変哲もない、普通の日常。

いつものように学校に登校し、いつもの教室に入る。

いつものように授業を受け、授業中に居眠りをし、教師に頭をはたかれ、笑われる。


 むぅ、昨日観てたアニメが面白かったからつい熱中してしまって夜更かししちまったからな。


 でもそれは昨日だけ、ではなく、ほぼ毎日である。

ゲーム、漫画、アニメ、眠れない日々の代償として、授業による先生の講釈が子守唄に聞こえてくるものなのだ。

居眠りも仕方あるまい。


 下校の時間になると、 友人の工藤が声をかけてくる。


「おーい、アキト!帰りにカラオケいかね?」


「悪い、今日夜バイトなんだわ」


「なーんだ、そんじゃまたな!」


「おぅ、またいこうな」


 ふてくされる様子もなく、爽やかに去っていく工藤。

気疲れしない友達ってのは良いもんだ。

今度はちゃんと付き合う事にしよう。




 最寄の駅まで徒歩10分。

バイト先の駅はここから5駅ほど先のコンビニだ。


 駅のホームに着く。


人がいつもより少ないな。

これなら座れそうだ、と思う。


 そう考えていると、電車がやってくる。

駅のアナウンスが響く。


一瞬…。

本当に一瞬だが、全ての明かりが消えた気がした。

真っ暗闇に突然なったような…気のせいか?

アナウンスも音が一瞬歪んだ音がしたような?




 電車がやってくる。

電車に乗る時、やけに何か違和感を感じた。

なんだろう?


 いつもと同じ日常。

この時間に来る電車は何度も乗っている。

でも、何かが違う。

違和感がある。

でも、それが何かがわからない。


 いつもより空いている車内。

俺は椅子に腰掛けて腕組みをして目を閉じる。

違和感はよくわからんが、まぁ気のせいだ。

電車が走り出し、心地よい揺れが身体に響くせいか、急に眠気がやってくる。

やっぱり寝不足だったかな。

目をうっすら開けると、周りも真っ暗だった。




…真っ暗?

電車の中が?


 目を開く。

「なんで暗い?」

気付けばもう電車の揺れも無い。

どこか分からない場所に俺は座っている。

何に座っているかもわからない。


「な…んだ?」


 状況が飲み込めないが、瞼も重い。

眠くて仕方がない。

頭も働かなくなってくる。


 思考が闇に落ちる。

身体も、ズブズブと座っているのに沈んでいく感じがする。

どこまでも闇…。

暗闇。


遠くで、電車のアナウンスが聞こえた気がする。

次の駅は…何駅だっけ…。

俺の降りる駅まで…あと…。




 そして、微かな光が差し込んでくる。

眩しい…。

物凄く眠かったから、もっと寝かせてほしいのに。


 気付いた時には固い石畳の道路に立っていた。


 頭がぼんやりしている。


「…何事?」


 おいおい、寝過ごしたら終点を追い越して海外来ましたってどんな夢だよ。

ここヨーロッパ的な場所か?

てか夢だよな?


「て、転移者だっ!衛兵呼べ!衛兵!」


 あん?


 なんか近くにいた男が叫んでいる。

女性とかは悲鳴を上げて、子供を抱えて逃げ出している。


 テンイシャ?

なんだそりゃ。

てかこの人達、完全に外人の顔してんのに日本語ペラペラなのな。

夢の設定はゆるいな。


 ガシャガシャと鎧が揺れる音がして厳つい連中が集まってくる。


「貴様、異世界からの転移者だな!」


 槍や剣を向けられ、複数の男達に囲まれる俺。

えー?

イセカイテンイシャ?

イセカイ…異世界…転移…!?


「異世界転移者!?」


 俺はオウム返しする。


「まだ状況がわかっていないようだな。

転移して間もない、という事か。

都合が良い、こっちに来い!」


 一人の大男が俺の腕を掴もうとするが、俺はそれを身を引いて避ける。


「いや、なんでさ。

てか俺なんで囲まれてんの?

あんたら何よ?」


 俺の頭はクエッションマークだらけなんだよ。

説明しろ、このハゲ。

兜被ってるからハゲかは知らんけど。


「抵抗する気か!」


 どんだけ血気盛んな野郎だよ。

牛乳飲め、牛乳。

俺は毎日朝夕欠かさず飲んでんぞ!


「抵抗はしないが、先に説明してくれ。

何で俺を取り囲んでいるんだ?

どこに連れて行く気だ?」


 我ながらこの状況で冷静に反応できるのに驚いている。


「構わん、取り押さえろ!」


 大男がそう命じると一斉に男どもが押し寄せる。


っざけんな、こいつら話しの通じない蛮族かよ!

てか日本語理解できてないのか?

話すのは得意ですが、聞き取りは苦手です、ってあれか!?


 俺は一気に飛び退いて距離をあけようと踏み込んだ。


「うっそだろ!」


 軽く跳んだだけなのに、5mくらい後ろに下がっていた。

勢い余って後ろの壁に激突する。

 どうなってんだ俺の身体。


「追え!逃がすな!」


 厳つい衛兵達が俺に向かって猛ダッシュしてくる。

なんで俺が追われなきゃなんないんだよ!

説明も無しに捕まるか、っつうの!




 こうして、俺の逃走劇は始まった。

そして彼女と出会い、目の前の街は破壊される事になる。

俺を追っていた衛兵も、街の人も、あの美しい建物も、何もかも。

全て…破壊の限りを尽くされ、瓦礫と炎だけが残される。


たった一匹の、そしてたった一度の攻撃で、エールダイトと呼ばれていた街は消滅した。

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