3話 初めての現地人
2018.2.14 いろいろ修正しました
私は横転した馬車まで走り、「ヒャッハー!」と騒ぐ男たちとの間まで移動した。
他人から見たら急に現れたように見えるだろうか。
「な、なにもんだてめぇ!いきなり現れやがって!」
「通りすがりのもんだ。とりあえずこの馬車を襲うのはやめてくれ」
「うるせぇ!俺らもあとがねぇんだよ、邪魔すんならてめぇも殺す!」
乗っていた馬からヒャッハーたちが降り、次々と剣を抜いた。
ほう、なかなか立派な剣だが対人戦闘には不慣れだな。
乗っていた馬もみると到底盗賊に手に入れることができるものじゃない。
試しにステータスを見てみると案の定職業が貴族の護衛だった。
この世界の現代では貴族が盗賊の真似事をするのか?
「そこのもの!頼む、助けてくれ!」
馬車の扉から這い出てきたおじいさんが必死の形相で助けを求めてきた。
だから、あんな顔みたら助けずにはいられないじゃないか・・・
「というわけだ。頼まれたからにはおまえたちを潰さなければならん。そこで提案だ、このまま黙って帰ってくれないか?」
「ふざけんな!おまえもろとも皆殺しだ!」
おちゃらけながらいうと盗賊もどきたちは顔を怒りで真っ赤にさせ襲ってきた。
空気を和ませようとしただけなのに・・・。
「しょうがない、いくぞ」
私はレイアスを抜き前へと走り出す。
まず先頭のやつを上段からの一撃で二つに分ける。
まず一人。
いきおいをそのままに右足を軸にして横に一閃。
二人、三人。
顔の横まで剣を突きの姿勢でもっていき二人まとめて串刺しにし横に薙ぎ払う。
四人、五人。
そして最後の一人を斜めにかまえた剣ごと切り裂いた。
もしかして受け止めようとしたのか、それともたまたまなのか。
・・・後者だな。
ステータスをみるにそこまでの反応速度があるようには思えない。
わずか数秒の戦闘だったが初の対人型生命体戦だ。
今後を考えるといい経験になった。
剣についた血糊をはらい馬車へと歩いていく。
「またせたな。怪我はないか?」
「あ、ありがとうございます、お強いのですな。度重ねて申し訳ないが我が主を馬車から出すのを手伝っていただきたい」
まぁここまできたら最後まで助けるか。
空へと向いている扉まで飛び上がり、中にいる者を引っ張り出した。
「うぅ、助かった。誰か知らんが礼を言う」
なんかあきらかに高級そうな服を着た青年がでてきた。
試にステータスをみてみると
―ステータス―
名前 ウルスラ・レイオット
性別 男
年齢 18
種族 人
職業 アルバ帝国第二王子
レベル 26
HP 1190/1200
MP 300/300
攻撃力 420
防御力 360
瞬発力 330
魔力 600
知識 1240
幸運 300
スキル
・礼儀作法SS・帝王学S・火魔法B・剣術B・演奏A
称号
麗しの美麗
社交場の貴公子
―――――――
なんと王子だった。
だがなぜ皇子じゃないんだ?
しかも称号にもあるとおりかなりの美形だ。
「ん?どうした?我の顔になにかついてるか?」
しまった、ついまじまじと見てしまった。
「いや、あまりにもかっこいいから同性とはいえ、つい見とれたんだよ」
「はっはっは、正直なやつだ。しかしお前もなかなかの美形だな、これでは我の自慢の顔もかすみそうだ。自己紹介が遅れたが、アルバ帝国第二王子ウルスラ・レイオットだ」
「王子殿下でしたか。どうりで高貴なオーラが・・・」
「デンカ?・・・まぁよい。今は公式の場ではないし何より我の命の恩人だ、先ほどの言葉遣いでよい。特別にウルと呼ばせてやろう」
なかなかにフランクな王子だ。
かなりの好印象、世界中をくまなく足を運ぶためにぜひ仲良くなりたいものだ。
「しかしウルスラ様、馬車がさっきの衝撃で軸が壊れてしまいました。これからどうすればよいのやら。」
さきほどのおじいさんが困り果てているが王子はカラカラと笑っていた。
「なにを言っている爺。町まですぐではないか、歩けばいいのだ歩けば」
「なりませぬウルスラ様!」
「よいではないか。我が帝国の土を自らの足で踏みしめるのも大切なことだぞ。ではいくぞ!そういえばお前の名を聞いていなかったな」
「私はレイヌだ」
「そうかレイヌ。お前も来い、褒美を取らせる」
おっとそのまえにやることがある。
「待て。いまのやつらの首とか装備品売ったら金にならないか?」
さっき気づいたが私は無一文なのだ。
どうにかして報酬がほしいところ目の前にちょうどいい剣やら馬やらがいるんだ。
売って金にしたい。
それとこいつらの正体もそれとなく教えてやるか。
「うむ、確かに装備品は金にはなるがこやつらが賞金首でもないかぎり金はでんぞ?それでもよいなら持っていくことを許可しよう。爺、手伝ってやれ」
ちょうどいい、後ろからくるおじいさんに気づかせておくか。
少し荒っぽく漁っているタイミングで盗賊モドキの剣をみせる。
「なぁおじいさん」
「わたしはウルスラ様の専属執事のヴァイスといいます。どうぞ名前でおよびください」
「そうか、ヴアイス、とりあえずこの剣みてくれ。盗賊にしてはやけに立派じゃないか?」
「どれどれ・・・な!この紋章は・・・」
待つのに飽きたのか馬車に寄りかかりウトウトとしていたウルはヴァイスの声に驚きこっちに近づいてきた。
「どうした爺、そのような大声出して」
「ウルスラ様、この剣の柄の紋章をご覧ください」
渡された剣をみて先ほどの微笑がだんだんと曇っていく。
「アルウィート家の紋章・・・兄上のさしがねか」
ウルの一言で大体の事情はわかった。
「跡取り騒動か?」
「うむ、すまぬレイヌ。どうやら装備品もこやつらの首もお前に与えることができそうにない。いや、下手をしたらこやつらを切った罪で捕まるやもしれぬ。褒美は我が直接わたそう、それでよいか?」
「あぁ問題ない」
「助かる、しかしどうするか。これをすべて持っていきたいがさすがに持ち運びできそうもない」
たしかに防具も剣も6人分はさすがに無理だろう。
ってそうだ、無限収納があるじゃないか。
「なら私が運んでいく」
次々と消える装備品に二人とも目を見開いて驚いた。
「お前、それはなんのスキルだ?」
「これか?これは無限収納だ」
「無限収納だと(ですと)!?」
そう叫ぶ二人の目はまるで神を目の前にしたようだった。
まぁ実際神だけど。
「知っているのか?というかそんなにすごいスキル?」
「もちろんだ!!こうみえて我はスキルマニアなのだ、スキルについては大体知っている。その中でも無限収納は大変なレア物だ!幸期時代でも数人しかおらず、そのスキルをもっているだけで貴族になれたほどだ」
そんなに貴重なのか。
どのスキルを誰に与えるかはルル次第だが、せめて希少性ぐらいは最初に言っておけよ。
というか幸期時代ってなんだ?
私が疑問に思っているとなにを察したのかウルがすまなさそうな顔をした。
「あぁすまない、幸期時代がわからなかったか。だが知らないのも無理はない。この言葉は歴史学を修めた者の中でしか使われないからな。幸期時代というのは約1000年ほど前、人々が幸福だった時代のことさ。今のような魔物や魔王たちの影に怯える前のことだ」
やはり-のリソースの影響か。
この世界の住人にはほんとうに申し訳ないな。
「ありがとう、勉強になったよ」
「なに、いいさ。他にも気になることがあったら帝都の図書館にでもいってみるといい」
「図書館!本があるのか!!」
なんということだ。
この世界の住人には悪いが-のリソースによる影響がわからない今、私の知らない知識が見られるいい機会だ。
知識、なんて甘美なる響きだ。
だがなぜかウルとヴァイスは少し引いている。
「あ、あぁあるぞ。ただし入館許可がいるがな。それに禁書庫は特別な許可が必要になる」
「そうか、じゃぁ報酬はその許可証も追加してくれ」
「うむ、よかろう」
よし、これで知識をたくさん手に入れられる。
楽しみだなぁ。
「よし、やることはきまった。はやくいこう!」
「お前はどれほど楽しみなのだ。まぁいい、では行こう。帝都まではすぐだ」
ここから近いとは、まさか火山から見たあの町が帝都だったのか。
こうして俺は自由奔放な王子の後ろにつきこの世界初の町へと向かった。
残念、男でした!