プロローグ 『大事なものは全て手からこぼれ落ちていく』
えーのりともです。
こちらの作品までやってる時間がなくてこっちはいまは連載をやめています。もう一つの作品でいまは手一杯なのでどうかご了承くださいm(_ _)m
「嫌だッ!!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなッ!死ぬなぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
昼間だというのにあまりにも人が居なさすぎて静かな空間。それをぶち壊す少年の悲痛な叫びが街中に響き渡る。
静かだった街中で少年は無理やり引き千切られた少女の右腕を大事に抱き抱えて誓う。
「俺が全てぶち壊すッ!!このクソったれな世界を全てッ!!全て、全てぶち壊してやるッ!!」
この出来事が少年の人生を大きく変えることとなった。
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地球の氷が溶けて、日本の国土面積が3分の1ほどが沈んだ2050年では地球の気温が上がったことで未知の生物が生まれていた。
それと同時に数年前氷が溶け出したころに生まれた人たちは皆が異能をもって生まれていた。
……この少年、伊月翔太を除いては。
「あーあ、なんで俺だけパンドラを使えないのかなぁー。」
伊月は都会に住む16歳の高校生であり、日本で唯一異能を使えない人物だった。
異能を使うには禁固と呼ばれる黒いルービックキューブほどの大きさの箱を起動させることで真実を捻じ曲げて異能を具現化することができる。
「大丈夫だよ翔太。私の能力なんてランキングトップの伊藤結衣さんに比べれば小さいものだよ。」
そう伊月に話しかけるひとりの少女。彼女は伊月の幼馴染みの鈴木日菜。
日菜の能力はパンドラを日本刀のように変化させられることである。
「いや、パンドラを使えるだけでも十分だろ。俺なんかパンドラすら起動できないんだぞ。」
「うーん。どうしてなんだろうね。翔太だけ使えないのも変だよね。翔太のは量産品だけど劣化品じゃないよね?」
「もちろん。俺もその可能は否定できないから変えてみたりしたが何にも変化しない。」
パンドラには量産品と特注品の2種類がある。量産品は能力を発動させるためのレアメタルが三割含まれている。
特注品はレアメタルの量を調節してより自分にあったものにすることができるが、量産品よりはるかに値段が高く高校生の伊月には到底買えるものではなかった。
その時だった。街中に警報が響き渡った。その警報は異能が確認された年、世界の氷が溶け出した年と同じ年に確認された人類の敵、ドルイドが出現した合図だった。
「翔太!逃げるよ!」
「おう!」
パンドラすらろくに起動できない伊月には逃げることしかできない。
「やばい!めっちゃ来てるぞ!日菜!」
高い建物がそびえ立つ街の中を逃げる伊月たちの上空には鋼色に怪しく光り輝く人型のドルイドが3体近づいてきていた。
「わかった!禁固起動ッ!!」
日菜が、パンドラを手に持ちそう言うとパンドラは淡く光り輝きながら型を日本刀に変化させた。
ドルイドに光が走ったかと思うと一瞬にして3体のドルイドは綺麗に真っ二つになり地へと沈んだ。
「武闘派はなにをしているんだ!ドルイドがうようよしてるぞ!?」
伊月の住むところでは戦えるパンドラ使いは基本的にドルイドと戦うがその中でも武闘派と呼ばれるランキングトップ者のグループを中心としてドルイドと戦う。
だが、今日は街の様子がおかしかった。ちょくちょく逃げたり戦ったりしている人は見かけるのだが肝心の武闘派は見かけないのだった。
「ねぇ!翔太あれなに!?」
日菜が、指さす上空には鯨の形をしたドルイドがいた。
「なんだよあれ!?あんなのいままでいなかったぞ!」
鯨型のドルイドは自身の周りに多くの人型ドルイドを連れて街の上空を泳いでいた。大きさは30メートルはあろうかという大きさだった。
「やばい!早く逃げないと!」
「でも、どこに!?」
「シェルター!」
この選択が間違いだったことを伊月はまだ知らなかった。
シェルターといっても見た目は学校のシェルターであり、街の真ん中に建てられていた。
学校をシェルターとして使っているため学校の前にはもちろんグランドが存在していた。
グランドに入った時、鯨型のドルイドは伊月たちに気づき、速度を上げて伊月たちに近づいて来ていた。周りにいた人型ドルイドも伊月たちに近づいてくる。
「やばい、やばい、やばい!鯨きた!ぉぉぉお!死ぬ!これは俺、魚の餌になっちゃう!」
伊月の1メートルくらいまで鯨型ドルイドは近づいていた。
その時、日菜が伊月を押して鯨型の進む軌道から伊月を外したのだった。
「えっ、日菜!?なにをして…」
伊月は地面にふらつきながら日菜に聞く。
「翔太ッ!私の分まで生きてッ!!」
泣きながら日菜は叫ぶ。まだ意味を理解できていない伊月に向かって。
「なにを言ってるんだ!?逃げるぞ!手を差し出せッ!」
日菜が手を伸ばした瞬間伊月の目の前を鯨型ドルイドが口を開けて日菜を飲み込みながら通り過ぎた。
通り過ぎた道には日菜の無理やり引き千切られた右腕と、日菜のパンドラしか残っていなかった。
鯨型ドルイドと周りを取り囲む人型ドルイドは空の彼方へと飛んで行った。
「ぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあッ!」
「嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だぁぁぁぁあぁぁぁぁあッ!俺は認めないッ!日菜が死んだだなんてッ!俺が俺がパンドラさえ使えれば日菜を救えたのにッ!」
静かな街を一瞬にしてぶち壊す悲痛な叫び声。
ポロポロと涙を流していた伊月は無理やり涙を拭いてから日菜の右腕とパンドラを大事に抱えて伊誓う。
「俺が全てッ!全てだッ!全てのドルイドを殺すッ!」
この日を境に伊月の人生の歯車は狂い始めるのだった。




