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8 係長の部屋にて

 それからキリアンは外で待機しているシガルを呼び、李花を泰貴のところまで案内させた。

 シガルは李花に男色趣味があるとまだ疑っているらしく、距離を置きながら案内する。

 キリアンと親しくなっていたので、その疑いはかなり濃くなっているようだった。


(ああ、嫌だ。でも誤解を解くにはどうしたら)


 そうこう思っているうちに泰貴の部屋に辿り着く。


「戻りました。コダマ様です」

 

 扉を軽く叩くとメリルが扉を開けた。彼女は何も言わなかったが、李花とシガルを見比べる。


「王命で遅くなりました。申し訳ありません」


 変な疑いをかけられるのがよほど嫌らしく、言い訳のようにシガルは慌てていた。


「王命?王と一緒だったのか?」


 すると部屋の奥から乗り出すように泰貴が出てくる。


「はい。詳しいことはコダマ様がご存知です」


(ええ?そこで私に話を振るの?まあ、そうだけどさあ)


「そうか。ご苦労だった。二人で話をしたい。メリルもボットも部屋を出てくれないか」

「かしこまりました」


 李花を部屋の中に押し込むようにして、二人はそれぞれ出て行ってしまった。


「さあ、ゆっくり話をきかせてもらおうか」



 泰貴は扉が閉まると、剣呑な色を瞳に宿してなまめかしく微笑んだ。


(こ、怖いですけど)


「ふうん。それだけ?」


 何もなかったのだが、とりあえずあったこと全てを李花は泰貴に話した。

 同じソファでなぜか隣同志に座らされ、「彼」は色っぽく頭を傾け、「彼女」を見ている。


(係長。無駄な色気ありすぎ。なんか。王、いやキリアンか。キリアンもやる気だし、やばいんじゃないの?}


「王は俺を返す気がないんだな」

「はい。そうみたいです」


(本当。悪いとか言っていただけど返す気はまったくなさそうだったよね。しかも私のことを友人発言してた)


 泰貴は手で額を押え、俯く。美人は何をしても美人だった。 

 溜息をついてこちらを睨みつける様子は極上な美女っぷりで、心は女の李花さえ、釘付けになった。


(ああ。まずい。王、えっとキリアン。きっと男の本能にしたがっちゃうな。係長の操は大丈夫だろうか)


「俺が説得するしかないか。だが、古玉。お前は絶対に部屋にいろ。嫌な予感がする」

「……はい」


(女性になって女の勘が働くのかな。確かに危ない気がするもんね)


「ナガイ様。宰相閣下がお見えになっております」


 結局二人で話をしたのはそれだけになった。慌ただしく扉が叩かれサイラルの来訪が伝えられる。


「わかった」


 二人に拒否権はなかった。

 

(キリアンと会ったことかな)


「きっと王にあったことだな」


 思考を読み取られたようにそう言われ、李花は思わず泰貴を見てしまう。


「聞かれたことにはすべて答えろ。あいつは危険なタイプだ」


 安心させるようにきゅっと手を握られ、李花は激しく動揺した。


「……可愛いな」

「え?」


(何言って?)


 李花に追及する時間は与えられなかった。

 サイラルが少し疲れたような顔をして部屋にやってきたからだ。


「今晩晩餐会を開きます。あなた方への歓迎の意味が込められているので、しっかり役目を果たしてください」

「は?」

「え?」

「ナガイ様はもちろん完璧に着飾ってもらいますが、コダマ様も正装を。あと、お二人は姉弟ということにしておりますので、姓を統一させてもらいます。お二人をそれぞれナガイ様とコダマ様と既に呼んでいるのでナガイタイキ様とコダマタイキ様でいいですね?」

「え?あ!」


(おかしな名前になってるけど。それ以前に今日名前をキリアンにいっちゃったんだ。これで変更にしたらおかしなことになる)


「なんだ?コダマ」

「何か問題がありますか?」


 動揺している李花に対してサイラルが珍しく無視することなく聞き返す。


「あの、今日。キリアンにお会いした時……」

「キリアン?」


 李花が王を名前で呼んだことに、サイラルは目を細める。


「えっと。王様ですね」


 親しくなったことを知られないようにしたほうがいいかもと、李花は言い直した。


「今日偶然にお会いして、部屋に招かれたのです。その時に名前を教えてしまいました」

「そうですか。ほかに話したことはありますか?」


 サイラルの灰色の瞳は射抜く様に李花に向けられており、ごくりと唾を飲む。


「変なことを尋ねられませんでしたか?例えば本当に男なのかとか」

「え!」


(なんでわかるの?確かになんでか私は男だってことにがっかりしていたような気がしたけど)


 李花の反応が、答えを表していた。

 隣に座っている泰貴はそんな「彼女」に目を細める。


「で、でも性別逆転のことは話してませんよ!信じてください」


 命がかかっていると知っているので、李花は必死に訴えた。


「……信じましょう。でも今後は陛下とお話する際は、本当に気をつけてくださいね。特にコダマ様」

「え?私?」

「そうだろ。俺はそんなへまはしない」

「ええ。私もそう思います」


 仲が悪いはずの二人に力強く同意され、さすがの李花も腹を立てた。しかし一人でも敵わないのに二人相手。言い返すのが無駄だと口をつぐむ。


「晩餐会には、大臣が同席します。お二人が異世界から来たことは伝えてありますので多少の無礼は許されますが、口調は気をつけてください。あくまでもナガイ様は女性なので」


(ひひ。きたきた)


 今度は泰貴が注意されたと李花は子供みたいに喜ぶ。 

 

「まあ。笑っていられるのは今だけだな」


 しかし耳元でそう囁かれ、心が一気に冷えた。

 サイラルは顔を少ししかめたが、それ以上何も言うことはなかった。


「それでは名前は別々で仕方がないですね。ナガイ様が養子に出ているということにしてください。私は準備がありますのでこれで。後はメリルに任せてありあます。わからないことは彼女に聞くようにしてください」


 慌ただしくそう言い、サイラルは退出し、扉付近に控えていたメリルが進み出る。


「それでは湯浴みからいたしましょう。コダマ様は隣の部屋に行ってください。ボット様に正装については頼んであります」

「ええ?」

「はあ?」


 李花はもちろんだが、関係がない泰貴が不満そうに聞き返す。


「コダマ様。ボット様が外で待機しております」


 しかしメリルは何事もないように凄然としている。


「えっと、服だけもらえれば自分で着替えるので」

「そうですね。そうしてください。ズボンの二枚重ねはやめてくださいね」


(ええ。知っていたの?やっぱり膨らんでいたかな)


「自分で着替えろよ。子供じゃないだから」

「わかってますよ。係長はきちんと着飾ってもらってくださいね。体の隅々まで磨いてもらって」

「ふん。そうさせてもらう。まあ、自分の体だが、見て悪いものじゃないからな」

「うえ。なんか気持ち悪い。っていうか変態?」

「……お前、本当に生意気になってきたな。覚えてろよ」


(うう。言い過ぎた。元の世界に戻ったら地獄を見るかもしれない。ああ。でも戻れるかわかんないし。いや、戻らないと。男体化は結構辛いものだしね)


「コダマ様。湯浴みをしますので早く出て行っていただけますか?」

「はい!」


 部屋の中でぼんやりしているとメリルが冷たく言い放ち、李花は慌てて扉に向かう。

 泰貴の笑い声が後ろから聞こえたが、あえて聞こえない振りをした。


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