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5 係長、色仕掛けですか?

「どうするんですか?係長!」


 昼食はそれで終わり、王とサイラルは退室。李花と泰貴とメリルの三人が残された。


(この人、本当に王妃になる気なの?)


「俺に任ろ。安心しろ。俺の操は自分で守る」

「はあ……」


(にこりと笑われてそう言われても……)


 李花は泰貴の様子にそれ以上突っ込みをいれることができず、黙るしかなかった。




「これを脱がせてくれ」


 部屋に入るなり、泰貴はメリルにお願いする。


「ちょっと、係長!そんな、恥じらいとかないんですか?」

「恥じらいもなにもあるか。乳も小さいし、女らしくない体なんか見ても面白くない。この着ているドレスも一人で脱げるわけがないし。下手に脱いで破ったら、あの宰相に何言われるかわからんだろうが」

「確かに……」

「なんならお前が手伝う?女の体だから別に恥ずかしくないだろ?」

「恥ずかしいですよ!あ、メリルさん。私は外にでます」


 泰貴の後ろに回ったメリルにそう伝え、李花は慌てて部屋を出た。


(まったく。デリカシーがなさすぎ。乳が小さいとか、メリルさんの前で言わないでよね!おかしい人だって思われるじゃない。っていうか、メリルさんはずっと無表情だよね。あの係長の態度がおかしいとか思わないのかな。それとも事情を知ってる?)


 扉に寄りかかり、李花はちょっと考える。

 年頃は三十代前半で、美人ではないが清潔感が漂う爽やかさのある女性だった。しかし表情はいつも一定で何を考えているかわからない。


(やっぱり、知ってるに決まってる)


 扉を内側から軽く叩かれ、李花は扉から離れる。


「コダマ様、ナガイ様のお着替えはすみました。コダマ様を呼んでらっしゃいます。私はお茶の準備をしてきますので、ナガイ様をお願いします」


 李花にも丁重に頭を下げて、メリルはその場を後にした。


「……呼ばれてるねぇ」


 心底浮かない気持ちになったが李花は中に入った。



 ★


「古玉。こっちにこい」


 泰貴は紺色のドレスを身に着けていた。袖は長いが、胸元が大きく開いて、胸を強調するように胴体部分が絞られたデザインだった。小さいと言った胸も小さくは見えない。


「……お前。男になって、そういう気持ちになるのか?」


 胸の部分に自然と目が行っていて、泰貴が少し引いたような表情をしていた。


「なるわけないですよ!係長じゃあるまいし。係長は今夜、王とお楽しみなんですよね?」


 変な事を言われたのでそう言い返すと、泰貴は両目を大きく見開く。


「お前なあ。やっぱり馬鹿だな。どうやったらそういう思考になるんだ!俺は宰相に邪魔されないように、王と二人きりになって話をしたかったんだ!お前も今日は部屋で待機な。多分奴に邪魔されるだろうから、部屋を出るふりをして、どっかに隠れろ」

「え?私もですか?」

「当たり前だろ!王が力づくできたら、今の女の体じゃ、危ないかもしれない!そんな時がお前の出番だ。それくらいはお前するべきだろうが!」

「はあ。そうですね」


 李花の言葉はまったくの棒読みで、泰貴は心なしか傷ついてた顔をした。


(だって。こんな時にだけ頼るなんてなんか卑怯だ。あっちの世界でいつも怒ってばっかりで、全然優しくなかったのに)


「……本当。失敗したな」

「え?なんですか?」

「なんでもない。とりあえず今夜は王とじっくり話して元に戻る方法を聞くつもりだ。後は元の世界に戻ってからだ」

                                                  

 長い艶のある髪をかき上げ、泰貴は立ち上がり、李花と向かい合う。


「なんですか?」


 目線が少しだけ高い。

 美しい女性に見下ろされ、居心地が悪かった。

 

「はあ。身長がほとんど変わらないな」

「いえ。まだ係長のほうが高いですよ」

「少しだろ。抱きしめると包み込む感じが理想なのに」

「そうなんですね。それだと王様もだめですね。確か、身長は今の私と同じくらいですから」

「……本当鈍いな。お前」

「え?」


(何を言ってるんだろう。この人。しかも何か妖艶な色気を放出してるし。無駄な色気)


 泰貴は諦めたように首を横に振ると、再び椅子に腰かける。


「お前も座れば?立っているの疲れるだろ?」

「あ、ありがとうございます。本当、係長。女体化して変わりましたねえ。優しくなって」

「優しくなって?俺はそんなに厳しかったか?」

「ええ。もう仕事をやめたくなるくらい」

「え?そうなのか。知らなかった。元に戻ったら気を付けなければ」

「……係長。本当に元の世界に戻る気なんですね」

「もちろんだ。このままじゃ、告白もできやしない。それ以前に王妃なんてまっぴらだ。俺は男だ。それなのに、男とセックスなんてやってられるか!」

「……」


(この人。そういえばこういうことはっきり言うタイプだった。でも美形だからそういうこと言っても許されていたよね)


「お前は平気なのか?」

「ええ。誰かさんが美少年とか言ってくれましたけど、まったく平凡な容姿なので、そういう心配はまったくありません」

「そういう意味じゃないんだけどな」


(どういう意味?)


「まあ。いいや。この姿で何を言ってもしょうがないし。とりあえず、王から何か聞きだしてみる。あの王様は攻略しやすそうだ」

「攻略?係長。やっぱり色仕掛けですか?がんばってくださいね。そうなるとやっぱり私は部屋にいないほうがいいですよね?」

「お前!」


 泰貴の黒い瞳には本当に殺気が宿っている。


(やばい。調子に乗りすぎた。宰相様に殺されるよりも、この人に先に殺される!)


「係長。言い過ぎました。すみません」

「お前。帰ったら本当に覚えておけよ」


 李花は平謝りだったのだが、泰貴は眼光鋭いまま言い放った。


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