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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

私から私へ

掲載日:2016/08/04

猟奇的表現注意

私は私が大嫌い。だから殺すことにした。

長い長い階段を息を切らせて登って、神社にお参りに行った。

お賽銭を入れて、鐘を鳴らす。手を合わせる。


「どうか、上手くいきますように」


さっそく帰りに石階段のてっぺんからから突き落とすと、鈍い音を立てて転がった。

呻きも叫びもせずに、肉で石を打つ音を響かせた。

途中で止まることなく人形の様に転がっていく。

地面に着いて、ようやく止まる。鈍い痛みのせいかぴくりとも動かずに伏せている。

露出した脚や腕、顔は傷だらけで赤い染みを広げていた。

身体中は痣だらけだ。青く鬱血している。

変な方向に曲がった指が、ぴくりと動いた。

残念。生きていた。がっかりする。


近くにいた近所の人が救急車を呼んでくれて病院に搬送された。

レントゲンを撮られ、傷は消毒してもらった。

腕は骨折していたのでギプスで固定された。

入院するように言われたが断った。療養なんて、死ぬのに必要ない。

先生には階段で足を踏み外したと言っておいた。

注意されたが、信じてもらった。


家に帰って、さっそくカッターでギプスを外しにかかる。

なかなか切れなくイライラした。

力任せにカッターを刺すと、手が滑ってギプスをしていない場所を切ってしまった。

悲鳴が上がる。煩い。

カッターではだめだ。もっといいものをと考える。

暫く家の中を探して思いつく。確か、倉庫にはたくさんの道具がそろっているはず。

倉庫からのこぎりを持ち出しギコギコと切った。

切り過ぎて腕の肉も少し切ってしまった。

だらんとした腕は不自然な方に曲がっているが、死ぬので気にならなかった。


お腹がすいたので昼食をとることにした。

まずは腹ごしらえである。

さっとできるトマトたっぷりのミートソースを作った。

その上に、チーズの代わりに魔法の粉を振りかけた。

これでばっちりだ。

かき混ぜて、美味しそうにそれを頬張る。


食べている途中、テーブルに激しく嘔吐した。

何度も何度もゲーゲー汚い音を出して嘔吐く。胃液にまみれたパスタが散らかった。

身体中が痙攣している。はかはかと呼吸が浅い。

いよいよ死ぬのか、と思った時に口から大量に血を吐いた。

何分間か、脂汗を浮かべて蹲る。しかし、それだけだった。

痙攣した身体は落ち着きを取り戻す。

身体を起こすと、口の周りに血がべっとりと付いていたが、それだけだった。

浅い呼吸も、規則正しい呼吸へ戻っていた。

どうやら失敗に終わってしまった。

仕方ない、次にかけよう。

お風呂に冷たい水を張って、氷を浮かべる。

今の季節は気持ちいいはずだ。

心臓が麻痺してくれることを祈りながら、痣だらけの身体を鎮めた。

ブルブルと先ほどとは違う痙攣が起こる。

しかし、唇が紫色になるだけでまだ生きている。

面倒だが仕方がない。

冷蔵庫と風呂場を何度も行き来し、氷を運んだ。

冷凍庫にある氷をすべてつぎ込む。水嵩が増していった。

溢れ出すぎりぎりまで水と氷で満たし、重しをして蓋をしめる。

水面と蓋はゼロ距離だ。

頑張っても息継ぎはできない。

冷たい氷水の中、息苦しさにもがく。

だが、重しをつっぱねるだけの力はないし、なにより怪我をしていて自由に動けない。

蓋を開けることもできずにその力は弱くなり、そして。

何も音がしなくなった。

息を整えてから蓋を開ける。

水の中に沈んだ私を、引っ張り上げた。

力の入らない身体は重たい。冷え切った私を、なんとか浴槽から引き上げる。

そのまま髪を掴んで階段を上った。

何本かはぷちぷちっと抜けたが、一本だと弱い髪の毛も、束になれば強い。

どうせ私は死んでいるので痛いなんて思わない。

ドン、ドンと容赦なく身体を階段に引っかけながら一歩一歩登る。

私の身体は重たい。意外と体重があったみたいだ。

汗を拭っていると、


「ごふっ」


咳き込む音にびっくりした。私は口から水を吐いて、目を覚ました。

生きていたのだ。

仕方がないので、虚ろな表情の私を部屋まで運びきった。

床に横たえた身体には、新しい傷が付いていた。

滲みだした血が床を染める。

床が汚れていくのが、なんとなく楽しかった。

心が躍る。死ねなかったのは残念だが、もう少し遊べるならそれはそれでいい。


料理は得意だ。だから包丁の扱いも慣れている。

台所からまな板をとって来ると、その上に手を乗せた。

どの指から切ろうかと迷うが、一番細い子指から切ることにした。

直ぐに終わるのはもったいないので第一関節から切って行く。

肉はすんなりと切れたが、骨はなかなか切れない。

体重を乗せると、ボツンという音とともにようやく切れた。

血が飛び散り、まな板を流れる。ボタボタと床を汚していた。

小指、薬指、中指、人差し指、そして親指。第一関節、第二関節、根元の順番に切って行く。

コツを掴むと簡単にできた。

私の血で赤く染まった手が、ぬらぬらと綺麗に輝いた。

何本になったか分からないが、細切れの指を持って私は台所へ向かった。

そして、フライパンで炒める。

いつも肉は塩コショウで炒めるが、あえて味付けはしないことにした。

そのままの味を楽しみたかった。素材の味というやつだ。

皿に盛りつけて、一つ頬張る。

思ったより不味くはない。まあまあな味だ。

ぐにぐにと口の中で肉をはがし、ぺっと骨を出した

食べ終えてから骨をミキサーにかけた。

ガリガリと凄い音を出している。歯が壊れたかもしれない。

粉末にした粉を持って部屋に戻る。

指を失った私はぐったりしていたが、まだ生きている。良かった。

そして、粉末にした骨を私に入れた。

骨の味を堪能している間に、鋏で髪の毛を細かく切た。

残っている骨の粉末をコップに入れ水で溶き、髪の毛も入れた。

ちゃんと飲み込めるように配慮し、口の中に流し込む。

私は何度も嘔吐きながらもコップの中身は空にした。

それから、指を切断した包丁を手に持つ。

ゆっくりと腹部に包丁を刺した。縦に大きくまっすぐに切る。

肉の切れ目に手を添えて、ぐっぱり開いて中を覗く。

色々な臓器が動いていた。感動した。ドキドキする。

そして胃に刃を当てて、中を開く。

今摂取したばかりの髪の毛と骨が現れた。

じっと観察する。その間に動きは弱々しくなっていった。

いよいよ死ぬのだ。ここまで長かった。

私は私を殺すことに成功する。

私は浅い呼吸の中で、微かにお姉ちゃんと呟いた。

それが、私の最後の言葉となった。


私は私が嫌いだった。

暗くて自分の意見も言えず、いつもおどおどしているせいで嫌われていた。

しかし私は私とは正反対に、明るく活発でみんなから愛されていた。

だから私は私のことを気にかけてくれていた。心配してくれていた。

嬉しかった。しかし同時に妬ましかった。

顔が同じなのに、嫌われる私と、愛される私。

だから私は私を殺して、私になる。

そう決めた。笑いが零れそうだ。

全く同じ遺伝子を持つ私と私。

私は私の一部を食べて、私は私の一部を食べた。

私は死んだ。私に殺された。

だから、今ここにいるのは、私だ。


「嫌われ者の私、さよなら」




私は私が大好きだ。

明るい表情、人懐こい性格。

だから私は嫌いな私から大好きな私になってこれから生きていく。

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