#1 コックリさん
高校に入って、初の夏休み。
僕は、部活の集まりで先輩の家にいた。
部長の赤西 海さんの家だ。
彼女はとてもと頼りがいのある先輩だが、無茶ぶりをする事が多々あった。
僕の所属している部は、ウワサ研究部。
略してウワ研だ。
巷で噂になっている事を検証し、
実証するのがウワ研の主な活動だ。
しかし、今まで1度も成功例は無い。
メンバーは5人。
最近はこれといった話題もなく、
暇を持て余す毎日だった。
そんな僕等は今、
仁王立ちで僕等を見下ろしている部長を
とり囲むように座っている。
まるで、王様と家来のようにみえなくもない…。
なんて僕が考えていると、
部長が小さなため息をついた。
ウェーブのかかった髪を揺らして首を振った直後、
真剣な表情にかわり、僕等を見つめ直した。
部屋の中に、緊張がはしる。
そんな空気の中、部長が口を開いた。
「君達は今のところ、何一つ成果を収められていないわ。それどころか、最近は活動もしていないじゃない。このままだと、うちの部は休部…いえ、廃部になってしまうかもしれないわ!」
僕等が成果をあげられない1つの要因は、
部長が無理難題ばかり押し付けるからだと思う。
本人はまったく自覚していないみたいだけど…。
腕をくんで仁王立ちした姿からは、
「私は偉い」オーラが全面的に押し出されている。
そんな僕の思いをよそに、部長は続ける。
「私だって、そんなの困るわ。だから、君達に新しいお題を授けるわ!!」
「そ、それは一体…?」
「あら?愛ったら、やる気満々みたいね。」
「もちろんですっ!
愛はいつでも本気ですからっ!!」
同級生の七瀬 愛は、僕の幼なじみ。
ツインテールが私の命の象徴だ!
とか何とか言っていた。
まあ、要約するとただの厨二病だ。
「部長、その新しいお題って何なんですか?」
「黙りなさい、誠。」
「はい…。」
なんで僕がにらまれなければならないんだろう…。
まあ、分かっているのは部長が僕を下僕扱いしているって事だけ。うん、そのせいだな。
「部長!私も気になるですっ。」
「もう…愛が言うなら仕方ないわね。」
僕と愛への態度が違いすぎて、なんだか虚しくなってきた。
部長は仕切り直すように「コホン」と咳払いをした。
「題して、コックリさんにとりつかれる説よ!」
「「おおー」」
コックリさん、何か懐かしいなあ…。
最近では海外のコックリさん(?)が話題になっていたっけ。
「コックリさん!獣耳銀髪美青年!!」
愛は既に妄想モードに突入している。
それと、こういう怖い話が好きな子は他にいる。
同級生の山岸さん、彼女は大のオカルト好きなのだ。
無口な子で愛のように騒いだりすることはないので、感情が読み取りにくい。
しかし、今回は完全に目が輝いている。
「コックリさん…低級霊でありながらも未来予知という素晴らしいスキルを持ち合わせている、定番中の定番キャラ…!!」
何かボソボソ言ってるけど聞き取ることができない。
「私の知る限りの彼の情報は…ゴニョゴニョ」
「??」
「はっ!?!!ま、誠さっ…
そのえっと、が、頑張りましょうっ!!」
「う、うん…?」
なんだか顔が紅くなってるように見えるけど、
大丈夫かな?
「3人は、やる気みたいね。」
満足気に頷く部長。
「で?貴女はどうなのよ、咲紀。」
「私…?」
松ケ丘さんは、僕らの1つ上の先輩だ。
化学が得意で、うちの部では一番頭がいい。
「私はみんながいいならそれでいいけど。」
「あら?貴女オバケとか苦手じゃなかったかしら。」
「べ、別にっ?!怖い訳じゃないし!
信じてないだけなんだからっ!!」
「図星なのね。」
「っ!?!!」
理系の松ケ丘さんは幽霊などの物を信じていない。
ちなみに、部長によると極度の怖がりらしい。
真っ赤にした顔を見る限り、部長の言うことは本当のようだ。
「さて、次のお題も決まったことだし。」
「ちょっと!人の話聞いてるの!?」
「五月蝿い。」
「う゛っ…。」
松ケ丘さんって意外に不憫だな…。
僕と似た雰囲気がある気がするのは黙っておこう。
「とにかく、決行は明日の放課後よ」
「「はい!」」
やれやれ…どうなることやら……。
次の日の放課後、僕等は予定通り部室に集まった。
「時が来たわ。」
みんなの視線の先には、ちゃぶ台の上に無造作の置かれた十円玉とコックリさんを呼び出す時に使う例の紙。
「覚悟しなさい、コックリさん。
今からここにいる小金井 誠が貴方を呼び出すわ!」
「…ええ?!聞いてないんですけど!?」
「言っていないもの。」
「え、ちょ…。」
「じゃ、任せたわね。」
「そんな無茶苦茶な…。」
他のメンバーからの「頑張れ」と言わんばかりの視線
に気圧され、渋々僕はちゃぶ台の前に座った。
任せたって言われても、ハッキリとしたやり方なんて知らないし…。
今までコックリさんについて見聞きしたことを真似ることしか出来ないけど…とにかくやるっきゃない。
紙に描かれた鳥居の上に十円玉を置き、その上に人差し指を添える。
これでいいのか不安になりながらも、僕は例の台詞をそっと声に出した。
「コックリさん、コックリさん、おいでください。」
じっと十円玉を見つめても、特に変化は無い。
その時、女の子の声が聞こえた気がした。
部員の誰かが何か言ったのだろうと振り返ると、
みんなは前を向いたまま硬直していた。
「お呼びですか?小金井 誠さん」
部員の誰のものでもないその声はとても優しく僕の名を呼んだ。
それは、僕等の新しい仲間との出会いだった。