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ユメワタシ  作者: ろんぐ
2/7

赤い風船

誰のもとへとも辿り着けなかった風船が、さいごにゆく場所がありました。そこは色とりどりの仲間で溢れており、一個ずつ、ある人の手によって摘まれてゆくのです。

ある人、とは「ユメワタシ」のことです。

ユメワタシは、人間に幸福で満ち溢れた夢をわたす職業人で、今はもう数も少なくなっておりました。

そんな彼らのもとへとまた一個、紫色の風船が飛び込んできます。

ひとりのユメワタシがその風船を手に取ろうとすると、おや、ふしぎなことに風のいたずらか風船はするりと手から離れます。

さあ、つかまえようと躍起になったユメワタシとおいかけっこを始めた風船は、彼らの住む小さな世界にある海まで飛びました。

この海は人間界とこちらの世界を繋ぐ場所でした。船着き場には渡り船が並び、あちらこちらと漕いで回り、人間たちの文化を持ち運びました。ただ、あまりにも人の世に行きたいと思うユメワタシが多く、あちらの世界にとどまってしまったものですから、今はもう渡り船は無く、なぜか湖の大きさにまで涸れてしまいました。

海を望める小高い丘に風船を追いかけると、紫色の風船は赤い風船と寄り添い合うようにユメワタシを待っていました。

ユメワタシは二つの風船を手にし、丘の手すりから身を乗り出し、年々涸れていく海を眺めました。

このユメワタシは潮の満ちた、船があちらこちらを行き渡り、活気のあった頃の海を知りません。ユメワタシの歴史として語られる話の中で知っただけでした。

三日月の日の真夜中に花が咲くとユメワタシは生まれますが、老若男女その姿は様々で、ただ、皆一様に「常世の人に夢や願いを渡す」事だけを知っており、迷い込んだ風船を夢や望みに変えて送り届けるのでした。

ですから、生まれてこの方自分たちの夢なんてものを考えるユメワタシは1人としていませんでした。この日まで、ただひとりとして。

赤い風船には手紙が付いていました。小さい子どもが一所懸命にクレヨンで書いた文字でしょうか。ユメワタシは長いことたくさんの国の風船に込められた想いを汲み取ってきたものですから、言葉は多く知っていましたが、文字を読めませんでした。しかし一字一句丁寧に微笑みながら眺めました。

風船を夢に変えられるのは、風船を手にした時にはしゃいだ子どもの感情といった嬉しさの気持ちが重要です。不意の事故で風に飛ばされてしまったりすると、悲しみの感情も風船へとうつりこみ、小さな夢や望みにしか変えられないからです。

ですがこの風船は、まるごと誰かへの祝福のみに包まれていましたので、大きな夢が叶うとこのユメワタシは思いました。


あなたのねがいが、かないますように。 日寺多 しゅうや


もし自分が人の世界へと行けるのなら、この風船を飛ばしたこの子に会いたい。ポケットへ叶うことのない願いと共にそっと手紙をしまい込み、風船を夢に変えようと風を読みます。風が願いを運び、届けてくれる配達係だからです。

この日、2度目のいたずらが起きました。

ユメワタシが1人、常世へと連れ去られてしまったのです。赤と紫、二つの風船を手にしたユメワタシが。


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