あなたの色
飲んだくれた。
もうベロベロだ。
なんてことないわ...。
水沢 梨花 <みずさわりか>、派遣切りにあいました!
いっそこのまま神隠しのように、これにてドロンしてしまおうか。
どこかの旅館でひっそり住み込もうか。
「ばかやろ~~~~っっ!!!」
叫びながら水たまりに片足を飛び込ませると、そのまま水たまりに落ちた感覚があった。
「う~~~...イタタ」
もそりと起き上がる。
ぼわっっとしてると隣で「う~ん」と声が聞こえる。
しんどくてだるい...。
隣に見えるのは金髪の男性。
顔は見えない。
え~~~と...。
なにこれ?
お持ち帰りされちゃったの?
私ったらガイジン様に手を出しちゃったの?!
ワタシ英語話セマセン!!
...つあぁぁああ~~~!
下着どうのこうのの前に下半身が痛い~~~!!
どう考えても確定じゃないの!
どべっっと床に落ちながらあわてて服を着る。
足元がふらつく。
やだもぅ、まだ酔いが抜けてないとか、どんだけ飲んだのよ?
そっとドアを開けてみると、廊下には麻袋やら樽やらが並べられている。
ずいぶんワイルドインテリアだけど、どこのラブホよ。
ともかく会社...あ、今日から当分休みか。
あえて『休み』と言わせていただく!!
すぐさま就職してやるわよっっ!
ふっと後ろを振り向くけどまだ彼は寝ているようだ。
「オジャマシマシタ~」
なんて告げてそっとドアをしめる。
ヨタヨタと外に出ると、
そこは海の上でした...。
「なっっ!!
なんなのよ~~~~~!!!」
パニックになって船のふちにしがみつく。
酔ってるんじゃない!
足元が最初から揺れているんだ!!
すると突然、背後から抱きすくめられる。
「ふぁ~~...、ねむぅ~。
おはよ。
もしかして昨日のこと覚えてないの?」
「え?ちょ!」
「オレのことも覚えてないの~?
傷つくわ~~」
ビックリして振り返ろうとすると、はぐっと首に噛み付かれる。
「んぁ!」
チュウっという音に、ピリッとした痛みでビクッとする。
「あ~~~、いちから説明するのオレ面倒だな~」
「やだっ!放してくださいっ!」
「え~~~、オレもやだ~~~!
オレのものになってくれるって言ったじゃん」
「うそおぉーー!!?」
「え~~~!
ホントホント!」
「はいはい、ここで騒ぐとみんなの迷惑だからね~」と、私はそのまま抱きかかえられて部屋に戻らされた。
「じゃ、もっかい自己紹介するよ~。
オレはジークフリート、船で希望のとこまで人を運んだり、荷物を運んだりしてる。
あんたは道で倒れてたの。
起こしたら『酒はどこか?』っていうから、酒場に連れてったら、一緒に飲めって言うし、一緒に飲んだら仕事もクビになったとか泣き出すし、いっそどっかで住み込みで働くって爆笑しながら言い出すし、ホント大変だったんだよ。
『金はある!』なんて言うわりに使えそうな金は持ってないし、いっそのことオレについてくる?って言ったら『あんたほどいい男なら大歓迎!3食希望!』っていうからつれてきたんだけど、ホント覚えてないの?」
「...昨夜の自分をぶん殴ってやりたいです」
「あはは!
それ面白いね。
で、君は実際どこから来たの?
黒い髪なんて見たことないよ」
「日本てとこですぅ!
水たまり踏んだら、落ちる感覚あったんですけど、そこから記憶が飛んでるんです!!
ここ、どこなんですか?!
帰してください!!」
必死に泣きつくけど全くわからん!って顔される。
いあぁぁぁ~~~!
噂の異世界こんにちはっっ!!
一体どうしたら、さようならして帰れるのよ~~~!!
「ねぇねぇ、もう何回かやろうよ。
オレ久々にしたい子にあったんだよね~~!」
頭を抱えてていた私は、ギギギ...っと体がブリキ人形のように動く。
「は?」
「昨日は2回したら眠気の方が勝っちゃってさ。
物足りないわけ!」
「...『わけ!』じゃないわよっっ!」
「いいじゃん、いつでもさせてくれるって言ってたし」
「うそよ!うそうそっ!
そんな貞操観ないこと言わなっやあぁぁ~~!」
女に慣れてる男ってホントこわいわ...。
5回くらいしたころからもうろうとしてきた。
あんたどっかプッツンきてるって...。
◆□◆□
道に仰向けに転がっている酔っ払った女を見つけた。
真っ黒い髪の女。
こんな髪の色初めて見た。
よく髪は愛されている精霊に似るっていうけど、この女は闇に愛されてるんだろうか?
「おい、お前こんなとこで寝てるとさらわれんぞ」
揺さぶると「う~~ん...」と言いながら目を覚ます。
「...酒は、ないの?」
一言目がそれかよ!!
「なんだよ、酒場に行きたいのかよ。
だったらオレも行く途中だからついてこいや」
「じゃぁ、一緒に飲みましょうよ!
私梨花っていうの、よろしく!
今日ぐらい楽しく飲まないとやってらんないわよ。
お金ならいっぱい下ろしたから、おごってやるわよ!!」
「ははは、いいねぇ。」
酒場に移動してからも、上機嫌で話すリカはよく喋る。
町の名前も道具も聞いたことないし、なんじゃそりゃ?って思うから、作り話だろうけどこれはこれで楽しい。
彼女の嘘がなかなかおもしろい。
仕事がクビになったとひとしきり泣いたあとでリカが「いっそ旅館で住み込みで働こうかな~~」なんて言うから、オレは心底驚いた。
クビになったからって、自分から娼館にでも行くのか?
自暴自棄にでもなったのか、珍しい子もいるもんだ。
「ねぇ、それじゃオレと一緒にこない?
船の仕事してるんだけど、食事とか洗濯とかできる?」
ものは試しで誘ってみる。
船の仕事もなかなか大変だけど、頑張ればひと財産は稼げる。
「まじで~~!?
部屋付きで3食ついてたら働く働く~~!
あんたっていい男ね~~!!」
ケラケラと笑いながら快諾するリカは思い切りがいい。
いい拾い物をした。
「ちょっとお手洗い。
これん中から払っといて」
といって渡された財布らしきもの(払っといてってことは、金入れなんだろう)をのぞいてみても、コレ使えるの?って紙と硬貨とカード類しかない。
「う~~ん、新手のサギ?」
中のカードを見てみると、本物と間違うような絵画。
おまけに表面はスベスベだ。
てことは絵画ではない?
「...うそだろう?」
カード自体も何の素材かわからないし、字も全く読めない。
貿易に関わる仕事をしてる分、けっこう見聞は広いと思っていたから、ちょっとドキドキしてきた。
「すげぇ...」
まぁ、今回は面白かったし、オレがおごってやるか。
帰り道、リカは異国の歌を口ずさみながら、オレは後ろを黙って歩く。
どこの歌だろう。
でも漂う雰囲気は『幸せ』だった。
船の中にある部屋に戻ってリカを抱きしめると、なんともまぁ酒くせェ。
お前飲みすぎだろ。
なのにこの数年、したいと思わなかった欲求がムクムク目を覚ます。
あれ?
オレ、枯たんじゃなかったんだ。
酒や体を動かしたくらいで寝れなかったオレに安眠をくれたのは君...。
あぁ、わかった。
リカの髪の色は宵闇の色。
人の心を落ち着かせて、眠りに誘う夜の色だったんだ。
満足した1日の終わりを告げる安寧の色。
朝一人でうんすら唸る姿も、床にべとんと落ちる姿も面白かった。
あぁ、あのうろたえ方は、昨夜のことを覚えてないんだろうな。
でも残念、逃がしてあげないよ。
だってもう君の色に、オレが逃げられないんだから...。
もう勝手に忘れないように、オレを君に刻み込もう。
読んでいただきありがとうです
もやっと設定ですみません