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第三話

これだけ書いて一万二千文字……この後の展開を考えるととてもじゃないけど大賞とかに応募出来る文字数じゃありませんね

モモカが我に帰ってから、モモカがトウカを羽交い締めにし、青年は外に出ていった。その間にモモカがトウカを我に返し、営業服に着替えさせた。

「そ、そろそろいいかな?」

「あ、はい!」

青年の声がドアの外から聞こえ、モモカが返事をしてからソーっと青年が入ってくる。その際、トウカがこれでもかと殺気を放っていたが、青年は耐えた。耐えて入ってきた。

「えっとその……OPENになってたから……その……ごめんなさい!!」

青年が入ってからすぐに謝り頭を下げる。暫くの間沈黙が流れる。

その沈黙を破ったのはちょっとだけ箒を振りかぶったトウカだった。

トウカは青年の頭にコツン。と箒をぶつけた。

「これはろくに確認せずに開いたモモカとすぐに準備しなかったわたしが悪い。だから、これで許す。」

(あれ?私も悪い?)

服装を確認せずに店を開き、人が来る可能性をバッサリ切り捨ててその場でトウカを着替えさせようとしたモモカが悪いのだが、モモカに自覚はない模様。

「そういえば、モモカちゃん。アルバイト雇ったの?」

「あ、いえ。居候って感じです」

「……知り合い?」

モモカと青年がやけに親しく話しているので知り合いなのか?と疑問に思ったトウカはモモカに直接聞いた。

モモカはそうだよ~。と答えた。

「この人はキリギス王国の騎士団に所属しているレオン・バードンさん。」

「モモカちゃんに言われちゃったけどレオン・バードンだよ。よろしくね」

「……トウカ・アヤノ。一時的にここに住ませてもらってる。」

「アヤノちゃんだね。それにしても結構珍しい名前だね。」

この世界ではトウカという名前やモモカという名前、アヤノという名字はかなり珍しい。

ちょっと他人行儀なレオンにトウカは名前で呼んでいいと言うと、すぐにレオンは分かったよ。と答えた。

「あ、あとね、レオンさんは凄い魔法を使えるんだよ!」

「凄い魔法?」

「あ、あんまり凄くないよ……」

「凄いですよ!だって氷系の魔法を唯一使える魔法使いなんだもん!」

そう。この世界では火、水、風、土の魔法が一般的だ。だが、レオンはその中で唯一特殊な氷の魔法を使うことができる。

中には水と風の魔法を同時に使ったりなど出来る者もいるが、レオンはどの属性を同時に使っても発動させることのできない氷の魔法を使えるのだ。

「けど、たった一人しか使えないから基礎魔法っていうのも無いし……自分で手探りで魔法を作ったり探さなきゃしなきゃいけないんだよ。」

この世界の基礎魔法は本屋で魔法本を買えば大抵基礎魔法のコツなど、様々なことが書いてある。オリジナル魔法の編み出し方や上位魔法の事が記されている魔法本はかなり値が張る。

大抵この世界の人は魔法本を一つは所持しており、その本を見て魔法を覚える。

ちなみにモモカのオリジナル魔法は偶然できた物だ。

「トウカちゃんはどんな魔法を使うの?」

と、レオンが興味本位でトウカに聞いた。

「使えない。魔力がないから。」

「え?」

モモカと同じような反応をするレオン。有り得ないと言った顔で冗談は止めてと言うが、本当。とトウカがそれを返す。

「えっと、確か……あった。ちょっと魔力を測ってもいいかな?」

「構わない。けどどうせ無駄。」

レオンが取り出したのはモモカの持っているものと同じ魔力測定器。

すぐにトウカが昨日と同じ感じで魔力を測る。結果は0

「あ、あれ?故障かな……」

今度は自分で測るが、出てきた数字は65。あ、この間より1上がってる。とちょっと嬉しくなったが、すぐに当初目的を思い出してもう一回測らせる。結果は変わらず。

「そ、そんな馬鹿な……」

「ランプもつかなかったので本当に魔力が無いんですよ……」

「それ、俺より珍しいよね……」

王国に仕える騎士は何かあってもいい時のために城下町を日夜パトロールしている。それもかなりの数がパトロールに出ているため、大声で騎士を呼べば騎士の誰かは気付ける。

それほど広範囲で王国を見ているのだが、今までで魔法の使えない人がいるというのは聞いたことがない。それに、他の王国にそんな人がいるという話もこれっぽっちも聞いたことがない。

「そんなのお伽話くらいかと思ってたけど……本当にいるんだね。」

「そのお伽話が何かは知らない。けど魔法が使えないのは事実。」

箒の立てかけてあった場所の近くから開閉するチリトリを取ってきて適当に目に入った埃を回収していくトウカ。

「そういえばレオン、剣持ってる。剣の腕はどれくらい?」

「あはは、これっぽっちも。皆飾り程度だし、ほんと凶悪な犯罪者の目の前に切っ先突き付けて投降しろって言うくらいだよ。」

「そう……」

やっぱり、モモカの言ったように剣は最早飾りとなっているのか。そう考えると剣を使う者として少しだけ寂しくなった。

「それにしてもトウカちゃんって城下町の中で一度も見たことないけど、もしかして俺が覚えてないだけ?」

王国の騎士として町を見ているため、殆どの住人の顔は把握している。その中でトウカの顔は見た事が無かったし、なにより魔法の使えない少女がいるのなら、もっと前から噂なりなんなりで広まっても良かったはずだ。

トウカは自分は王国の外から来たと説明すると、レオンは驚きのあまり一瞬意識が何処かに飛んだが、すぐに戻ってきた。

「お、王国の外から……魔法も使えないのに?」

「そう。魔法が使えないから剣だけで魔物を斬ってここまで来た。本当は王国周りをうろちょろしてたけど。」

剣で魔物を斬ったという言葉にさらにレオンが驚く。

流石に冗談だろうとは思うが、トウカの事実ですけど何か?みたいな表情に冗談だろ。とか言えない。

信じきれないが、現に王国の外から魔力のない人間が来たのだから、自己防衛手段は自分の剣で切り倒すしかない。だから、とても納得は出来ないが、その心を抑えつけて無理矢理納得させる。

「あ、そういえば昨日、あの悪さしてたガミルが剣を持った人にやられたって聞いたけど……まさか、」

「……あの水使い?それなら私がやった。あんまり強くなかった。」

魔法使いを剣で倒したという言葉にさらに驚きかけたが、そりゃあ銅バッチの魔法使い一人、魔物を斬れる人なら倒せるだろう。と思いなおすとあんまり驚かなかった。

「そっか……あいつ、俺達がアジト突き止めてとっちめようとしてもいつも捕まれられないから……代わりにとっちめてくれてありがとう。」

「礼を言われるほどじゃない。それに、邪魔だったから蹴り飛ばしただけ。」

あのガミル一行はどうも王国の騎士も中々捕まえられないほどすばしっこいらしい。

「まぁ、何はともあれ。あいつらは結構根に持つタイプだから、気を付けてね。何か仕返しを企んでるかも。」

「構わない。また蹴飛ばすだけ。」

「そっか。でも、万が一って事もあるし君は女の子だ。気を付けてね。」

「警戒する事に越したことはない。しっかりとしておく。」

トウカが箒についた埃が飛ばない程度に箒を振るう。

「僕達もなるべく早くあいつ等を達をとっちめるようにするから。」

レオンはそう言うと、モモカに向き直った。

「それじゃあモモカちゃん。早速買い物していいかな?」

「はい!」

モモカにそう言うと、レオンは早速並べられたパンを物色し始めた。

そして数個のパンを選ぶと、レオンは勘定をして最後に気を付けて。と言うと去っていった。

レオンに話しかけられているモモカはずっと頬をほんのりと赤くしていた。

「……モモカ、レオンの事、好き?」

「うぇっ!?そ、そんな事ないよ!!な、何言ってるの!?」

大慌てで否定するが、顔を赤くしながら言われてもただ図星を突かれて恥ずかしがってるだけにしか見えない。

「もういい。皆まで言うな。」

「ち、違うんだってば~!」

「なら何で顔赤いの?」

「えっ!?そんなに赤い!?」

「真っ赤」

「うっ…………あぅぅ……」

反論する事を諦めたモモカをトウカは軽く呆れた目で見るのであった。

その後、お客さんは十分に一人ペースで来店し、パンを買っていった。

どうもその人達は常連らしく、トウカを見ると少し驚いたような顔をした後、頑張ってね。と声をかけてくれていた。

そしてまた一人、来店する。

「いらっしゃいませ~」

「いらっしゃい……」

「おやっ、見ない顔だねぇ……バイトの子かい?」

「居候ついでに手伝ってる……」

「そうかいそうかい。頑張るんだよ。」

その人はそう言うと、パンを物色し、幾つかを購入してからまた来るよ。と言って帰っていった。

ちなみに、モモカの店は知る人ぞ知るという店なので、常連客が多く、初めて来る人よりも常連客の方が遥かに多い。

レオンもその常連客の一人であり、パトロール中に店が開いてるのを見ると何時もパンを買って帰る。

そして数人の客の接客をして、太陽が真上に行ったであろう時間の時。

「そろそろかな?『クロック』。」

手を掲げて魔法を発動するモモカ。目の前に現れた魔法陣には、この世界の言語で秒単位での時間が移されていた。

「うん、丁度お昼だね。そろそろ閉店しようか。」

「分かった。」

魔法を止めたモモカは外に出てかけてあるプレートをひっくり返し二階の自宅に上がる。玄関に入ってから、裏口から出てきた脱がされた服を持ったトウカが階段を上がってきた。

ドアを開けたままにしておいて靴を脱いで自室に入り、着替え始める。

暫くしてからドアを閉める音が二回聞こえた。トウカが家に入ってから自室に入ったのだろう。

取り敢えずモモカは私服へと着替え、居間に行った。暫くしてから私服に着替えたトウカも来た。二人で椅子に座る。

「今日はこれからどうする?夕方まではお店は閉めておくけど。」

「何でもいい。モモカのやりたい事でいい。」

「そう言われても……そうだ!お昼ご飯食べてから城下町を案内するよ。トウカ、ここに来たばかりでしょ?」

「……なら、そうする。」

その後は二人で昼食を食べ、外出の準備をした。もちろん、昼食はパンだ。

「トウカ~、行くよ~?」

「分かった。先に外に出ておいて。」

部屋で何やらやってるトウカを置いて、一先ず外に出て待機する。

天気は快晴。まだ太陽は真上を少し通り過ぎた程度だ。

暫くしてトウカが降りてきた。マントを羽織り、刀を腰に吊るして。

「と、トウカ!?」

「気にしないで。このマントと刀があると落ち着くから。」

それなりに洗って汚れは落ちているが、流石に城下町をマントでは……と、思ったがまぁいいや。と自己完結した。

そんなトウカを引き連れてモモカは城下町の案内を始めた。

暫く歩いて、

「ここが公園。昨日通ったよね。」

「結構広い……少しなら訓練できる。」

「訓練?」

「素振りとか。毎日やらないと腕が鈍る。」

「へぇ~……じゃあちょっとやっていく?トウカの訓練、見てみたいな~」

「……分かった。少しだけなら。」

まだ昼飯時で子供のいない公園に入って、モモカはベンチに。トウカは刀に手を掛けた。

「……シッ!」

大勢を低くし、トウカが少しだけ力を入れたと思った瞬間、刀は高速で抜刀され、風を引き裂いた。

ヒュンッ!!と風を引き裂く音。刀が光を反射し、銀色に煌めく。

暫くの残心。数十秒経ってから構えを解き、刀を両手で持ち、正面に見据える。

刀を持ち上げ、全力で振るう。再び風切り音。休む暇なく刀を持ち上げ、振るう。

それだけの動作を何十分と続ける。トウカの額には汗が浮かんでいた。

「モモカ。」

「ひゃいっ!?」

いきなり話しかけられ、びっくりするモモカ。

そんなモモカに苦笑しつつも、トウカは話しかける。

「地面の小石、わたしに向かって投げて。」

「え?」

「反射神経を鍛えるから。普段は落ちてくる葉っぱでやってるけど。」

そういうトウカに、でも……と口篭るが、大丈夫だから。と言われて渋々小石を拾う。

「一回でいいから。思いっきり投げて。」

「で、でも外れるかも……」

「魔法使ってもいい。」

「……ど、どうなっても知らないよ!?」

トウカから距離を取るモモカ。刀を鞘に収め、集中するトウカ。

「い、行くよ!」

「……」

無言の肯定。モモカが石を握った手を振りかぶる。

「『スロウ』!!」

目の前に魔法陣が現れる。それに向かってモモカが思いっきり石を投げる。

ちなみに、魔法は故意で人を傷つけようとして使えば犯罪だが、決闘や特訓など、両者の同意の上ならば犯罪にはならない。

魔法陣を通過した石は軌道を修正され、速さをまして一直線にトウカへと突き進んでいく。

「…………ハッ!!」

トウカと石が交わるその数瞬前。振るわれたトウカの刀が石を真上に弾いた。

抜刀された刀には傷はなく、ポトリと弾かれた石がトウカの目の前に落ちた。

数秒の残心。すぐに構えをとき、癖なのか血払いをしてから鞘に刀を収めた。

チンッ。と刀が鞘に収められた音が響いた。

「……す、凄い!!」

「あれくらいなら、簡単。」

モモカが落ちた石を拾うと、刃がくい込んでいたのか、石は真ん中あたりまで不自然に切り込みが入っていた。

魔法でもかなり苦戦するであろう石をたった刀一振りで半分まで割るトウカを目上の人を見る目で見てると、落ち着かないから止めて。と言われた。

「それじゃあ次に行く?」

「そうする。でもちょっと疲れた。」

「あれでちょっとなんだ……」

「何時もはもっと厳しめ…………伏せて。」

「えっ?」

いきなりモモカの後ろ側を見たトウカがモモカにそう言う。次の瞬間、トウカがモモカの頭に手を置き、無理矢理下へと下げる。

あだっ!?とモモカの女の子らしくない悲鳴が響くと同時にモモカの両肩に手を置き、台にして体を横にしてモモカの後ろへと飛ぶ。

その最中、猛スピードで飛んできた石を側面から蹴って軌道を逸らす。

トウカが着地すると共にモモカがへぶっ!?と声を出して顔面から地面へ。

「痛たっ……な、何するの!?」

「伏せて……まだ来る。」

トウカが刀に手をかけ、姿勢を低くするのと同時に、猛スピードで五個の石が飛んできた。

(これ……風魔法の『ブースト』!?な、何で!?)

「……決めるッ!」

トウカが力を込めた瞬間。閃光が五回走った。ガキキキン!!と鉄に硬いものが当たる音が四回響いた。

「……ッ、油断した……」

トウカが刀を持った手で左肩を抑える。

どうやら、一つ斬り逃してしまったようだ。痛みで顔をしかめるトウカだが、視線はある一点を向いている。

「気絶させる気でやったが……運がいいらしいなぁ?」

視線の先の曲がり角から出てきたのは一人の男。その後ろから昨日、打ちのめしたガミル一行が出てきた。

「……復讐?」

「正直よ、俺はどうでもいいんだが、こいつらがどうしてもって言うからな。ぶっ飛ばさせてもらうぜ?」

「あ、あの人は……」

「知ってる?」

「風魔法使いの不良の人だよ……しかも銀バッチだから捕まえることも反撃する事も難しくて……」

「良く知ってるな。俺はクラウス。ちょっとした裏での何でも屋だ。」

「……トウカ。」

「トウカか。ならば一つ、決闘を申し込もう。お前が負けた場合はこいつらの指示に従ってもらう。」

クラウスが指をさした方には、ニヤニヤしたガミル一行が。

いきなり不意打ちしておいて。とモモカの心の中に怒りの炎が灯るが、トウカは怒っているモモカを手で制す。

「構わない。わたしが勝ったら肩の治療して。」

「安いな。まぁ、構わん。勝つのは俺だからな!!『ブースト』!」

クラウスが公園に走って入りながら、手に持っていた石を投げる。

「モモカ!逃げて!」

「う、うん!」

珍しくトウカが叫び、懐から鞘を取り出す。クラウスの手のひらから打ち出された石は七。どれも猛スピードで飛んでくる。

十分太刀打ちが出来る速さでさっきは油断したが、今度はそんな事はしない。鞘と刀の二刀流で全ての石を叩き落とす。瞬間、トウカが走る。

「いっつ……」

だが、負傷した左手も使ってしまい、鈍痛が走る。が、その痛みを無視して鞘を腰に戻し、片手で刀を構えて走り出す。

この時点でクラウスは浮かび上がる笑みをこらえられなかった。最初は『ブースト』で打ち出された石を弾けたのはまぐれだと思い、今回もまたチンピラ絡みの楽な仕事か。と思っていたが、コイツは違う。強い。魔法を使ってない今でも十分に強い。と

クラウスの性格は一言で言えばバトルジャンキーだ。戦うために裏での何でも屋を始めたと言っても過言ではない。

何度か騎士と戦った事もあるが、負けている。だが、楽しかったといつも思う。そして今も。

自分よりも少し年下程度の女の子がまさか剣で石を切り落とすとは思っても見なかった。だから、

「さぁ来いよ!俺を楽しませろ!!」

少し熱くなった。

発動されたのは初級魔法『エアバレット』。指先に風をあつめ、弾丸のように発射する技だが、使う人によってはそれはかなり凶悪になる魔法だ。

クラウスが撃てるのは三発までだが、それでも人一人を吹っ飛ばす程度の威力は持っている。

さぁどうする。内心ワクワクしながらエアバレットを発射する。

そしてトウカは、

(多分発射音から三発。十分避けれる。)

エアバレットには軽いトラウマがある。が、それは昔、無理矢理克服し、攻略法も考えている。

あの時は無様にやられたが、今回は違う。

エアバレットの強みは消費魔力が少ないのに速さが尋常ではない事。さらに、不可視という事だ。

しかも消費魔力を上乗せすれば威力だって何倍にもできる。魔法使いにとってはかなり使いやすい魔法だ。

だが、魔法使い相手なら防御魔法『シールド』や上位防御魔法、『イージス』。さらに風魔法を使えるのなら魔力で風の道を作って誘導したらエアバレットはさほど驚異ではない。が、トウカは違う。

使えるのは己の身と刀のみ。最も簡単なのは大雑把に横へ飛ぶ事だ。そうしたらエアバレットは簡単に避けられるが、それだと距離を詰められない。

距離を詰めながらエアバレットを回避する方法。それは、

(ここ!)

エアバレットと交差する瞬間、スライディングをしてエアバレットの下を通ること。

足を狙われたらこのやり方では自殺しに行くような物だが、エアバレットは指先から発射する。それ故に射線は一目で分かる。

足元を狙われたならジャンプしたらいい。少しでもタイミングがズレたらジ・エンドだが、そうならなように魔法を使ってくる魔物で何度も練習した。そうそうミスはしない。

「下を通っただと!?『エアバレット』!!」

驚くクラウス。だが、すぐにエアバレットを再発。スライディングして起き上がったばかりのトウカへ向けて頭、腹、足の順に狙いをつけてエアバレットを放つ。

が、トウカは今度は身の丈の二倍ほどまで跳躍した。

「なんだと!?化け物か!?」

普段は重い防具を装備してるため、跳躍力はかなり落ちている。が、今回は防具を装備していない。そのため身軽になったトウカはこれ程まで跳躍出来た。

ちなみに、身の丈程まで跳躍するつもりがその倍近く跳躍し驚いたのはトウカしか知らない。

ストっ。と軽い音を立てて着地。クラウスとの距離は五メートルも無い。エアバレットを撃つ前にやられる。

「『ソード』!!」

ここで選んだのは下位斬撃魔法『ソード』。

これも剣が使われないために誰もが使わなくなり、刃物がない時に刃物替わり程度に使う魔法だ。

手刀を作ると、手首から発生した魔法陣が指先に向けて移動し魔力を魔力の塊の刃へと変える。

刃渡りは包丁程度の魔力刀が出現する。その瞬間、トウカが常人では認識不可な速度で峰を向けた刀を振るう。

それを手のソードで何とか受け止める。が、ジリジリとトウカの剣はクラウスへと迫ってくる。

「楽しいなぁ!?おい!!」

「それは同感。でも、勝つのはわたし。」

「面白れぇ!!お互い全力で行こうや!!」

「……分かった。不正は無し。」

「ったりめぇだろうがよ!!『ブレイク』!!」

クラウスの手のソードが光を放ち、一瞬で爆発する。

魔力爆破系魔法『ブレイク』。ソードやシールド等、魔力固定化させるために使った魔力を爆発させるという魔法だ。これは間近で使えば自分も爆破のダメージを受ける諸刃の剣だ。

爆煙からクラウスが後ろへと飛び出した。手は火傷をしたらしく、顔をしかめている。が、クラウスが着地する直前、爆煙の中からトウカがマントで体の全面を防ぎながら突っ込んできた。

「んなっ!?」

トウカのマントはあの時から一度も補修などはしていない。魔獣を狩ってる時期でも、このマントは火炎魔法を受けながらも、燃え尽きることはなかった。

道中一度だけ会った魔法使いに聞くと、マントには最上位のエンチャント魔法がかけられているらしく、その強度は最早布ではなく、最上位火炎魔法でも使わない限り燃えない程らしい。

このマントのおかげでトウカは何度も命を救われた事がある。そして、今回もトウカへのダメージを殆ど0に抑えてくれた。

マントを体の後ろへやり、片手で刀を斜め下へ向けて構える。

「『ブレード』!!」

上位斬撃魔法『ブレード』。ソード以上に使われる事の無い魔法だ。だが、耐久力、切れ味、刃渡りはソードの比ではない。

大きさは刀と包丁の中間。切れ味を全て耐久力に注ぎ込んだ。

ほぼ不可視の斬撃が放たれる。それをブレードで防ぐ。が、ガキンッ!!という音と共に斜め下から放たれた斬撃はブレードの発生させた腕を打ち上げさせた。

(腕力で負ける……だとぉ!?)

これでもクラウスはかなり肉体を鍛えている。だが、目の前の年下辺りの少女の一撃でこれである。

相手は最早人間ではない。化け物だ!と認識を改めると同時に振り上げられた刀が振り下げられる。

「『シールド』!!」

続いて下位防御魔法『シールド』。手のひらに発生したそれでトウカの斬撃を防ぐ。

だが、衝撃を抑える効果のあるシールドですら、手を打ち下げられた。

(しまった!)

ボディは完全にフリー。やられ放題だと思った瞬間、トウカがその場でサマーソルトをクラウスの顎にぶち込んだ。

顎を打ち上げられ、体が浮く。なんというキック力だと考える前に地面に体がぶつかる。だが、魔力で風を生み出し、一気に後退する。

「『エアブースト』!!」

クラウスが下位暴風魔法『エアブースト』を発動する。この魔法の上位版はトウカのトラウマの一つでもある『ストーム』となる。

トウカの足元に風が集まり、一瞬でトウカを空へと送り出す。

その間にトウカからなるべく距離を取るクラウス。トウカは高所で慣れたように体を操作し、体全体をバネのようにして着地。すぐさまクラウスへと斬りかかる。

「『エアバレット』!!」

今度は二発、頭と胴を狙ってエアバレットを放つ。トウカは同じようにエアバレットの下をくぐり抜ける。が、クラウスはそれを待っていた。

「トドメだ!」

そして撃ち込まれるラスト一発。狙いは姿勢を戻そうとしているトウカの頭。

だが、トウカはエアバレットが当たる寸前、刀の腹でエアバレットを受け、さらに吹き飛ばされかけた刀を何の苦もなく持ち続け、走ってきた。

このままでは蹴り続けられていずれは気絶する。そう考えたクラウスはまだ軽く安定しない上位魔法を使う事にした。そして、暴発しないために、

「我が力より生み出されし風よ!我を脅かす者への弾丸となれ!『エアシューター』!!」

詠唱。それを早口で済まし、エアバレットの上位互換魔法、『エアシューター』を発動させる。

エアシューターはその人の撃つエアバレットの数を三倍まで倍増させて放つことができる。そして、強みはその数を指からではなく、ノーモーションで体の半径一メートル以内から放てる事だ。

つまり、トウカが一メートル圏内に入った場合、一度に九発のエアバレットが全方向から放たれることとなる。

だが、エアシューターは待機中でも弾丸を維持するために魔力を消費していく。クラウスの魔力値は55。金バッチの基準が70のため、銀バッチの中でも平均的な魔力を持っている。しかし、この王国にいる銀バッチを持つ魔法使いの中ではクラウスが一番魔力を持っている。ちなみに、騎士の殆どは金バッチ並の魔力を持っている。

全王国の銀バッチの魔法使いの中でも、クラウスはそれなりに強い位置に属している。

エアシューターはその55の魔力をガリガリ削っていく。

トウカはエアシューターの事もちゃんと学んでいる。わざわざ飛んで火にいる夏の虫にはならない。

トウカがピタッと足を止める。その瞬間、クラウスが横一列に九発の弾丸を発射した。

それを風切り音等で察知したトウカがその場でしゃがむ。だが、クラウスは次の行動に移っていた。

「龍脈より引かれし我が力よ!眼前の敵に滅する力となれ!『エアブレイカー』!!」

上位風砲撃魔法『エアブレイカー』。下位の魔法は『エアバスター』。砲撃とある通り、風を圧縮し、一筋の砲撃として放つ魔法だ。

(こんな魔法が!?)

トウカはエアブレイカーを見て驚く。それもその筈、トウカは風砲撃魔法を見た事が無いからだ。

砲撃魔法そのものが難易度の高い上に暴発した時のリスクが高すぎるため、滅多に使われない魔法なのだ。

故に、トウカはそれを見た事が無かった。

魔力により色を持った砲撃が迫る。

迎え撃つ。そう決め、刀を砲撃へと振るう。が、刀が砲撃とぶつかった瞬間、刀は弾かれた。

「しまっ……!?」

瞬間、トウカを砲撃が包んだ。

クラウスは砲撃越しに手応えを感じた。勝ったと。

「直撃……勝った!!」

砲撃が止み、思わずガッツポーズをする。

人が死ぬほどの出力では撃っていない。だから、せめて賞賛の言葉でも送ろう。と思った時、背後でトスッ。という音がした。

それが何かが背後に落ちた音だと気づき、振り向いた瞬間、足を払われ、背中から地面に叩き付けられる。そして、次の瞬間には傷ひとつないトウカが刀の切っ先をクラウスの首へ向けていた。

「……死んでみる?」

「……降参。全く、化けもんかお前は。」

「人間やめないと勝てない相手もいる。」

「会ってみたいね。その人間に。」

トウカがクラウスの首から刀を退かせ、上をどいてから鞘にしまってからクラウスに向かって手を差し出す。

クラウスはすぐに笑いながらトウカの手を掴んで立ち上がった。

勝負は一分程度だった。が、クラウスには何十分にも感じ、トウカも久しぶりに骨のある相手と戦えた。と満足している。

「く、クラウスさん!なんで負けてんで……」

「うるせぇ!こいつは俺より強かった!だから負けた!分かったらとっととどっか行きやがれ!!」

『ひいっ!?』

ガミル一行が情けなく悲鳴を上げて逃げていく。クラウスは即頭部を掻きながら、

「すまんな。最初に不意打ちなんかしちまって。」

「構わない。あれはただの事故だった。」

「……じゃあ、約束通り治療をする。少しじっとしてろよ。」

クラウスが小さくヒール。と呟くとクラウスの手に緑色の光が灯る。クラウスがその光をトウカの肩につける。

下位回復魔法『ヒール』。骨折などしてない限りはこの魔法で大抵の傷は治せる。

「こんなもんか?」

クラウスが光を消す。グルグルと腕を回すが、痛みはない。

少し襟から肩を見てみたが、痣なども出来ていなかった。

「な、なんでもできるんですね……」

トウカの後ろからひょこっと怯えたモモカが出てきた。

「取って食おうってんじゃないんだ。そう縮こまるな。まぁ、回復魔法とかは全部一人でやんなくちゃならなかったから仕方なく覚えたって感じだ。」

さっきの正しく悪人という表情から一変して、クラウスの顔は清々しい顔だった。

「俺はただ戦いたかっただけだ。騎士にも喧嘩ふっかけてボロボロにされた事もある。だが、女の、しかもお飾りを武器として使う年下のやつに負けるなんて、悔しさなんて出てこずに相手への賞賛しか出てこなかった。」

「お飾りなんかじゃない……」

「そうだな。お前の腕は本物だ。だから、それはお飾りなんかじゃない。」

自分の剣の腕を初めて他人から褒められ、満足気味のトウカ。

「……バッチが見当たらんが、まさか魔法が使えないから剣を使ってるとか言わないよな?」

「その通り。」

「…………マジかよ。だが、魔法に負けないためにそこまで鍛え抜いたのなら負けたのにも納得いく。完敗だ。どうあがいても勝てなかった。」

「そんなことはない。遠距離攻撃ばかりされていたら負けていた。それに、何で途中で距離を取らずに打ち合った?」

「そのお飾り吹っ飛ばして魔法を使わせようと思っただけだ。まさか、魔法が使えないなんて思わないからな。」

クラウスの言う事は嘘だったが、その思惑もそれなりに混ざっていた。

咄嗟に出たのがソードというだけだ。

だが、手数では完全に自分の方が上なのに負けたのは、トウカが単純に強いからだ。

「まさか俺より強い女が出てくるとはな。惚れちまいそうだぜ。」

「冗談はいい。」

「バレたか。だが、また決闘してくれるか?」

「構わない。強い相手と戦うのは好き。」

「ったく、お世辞は要らないっての。」

クラウスはバツの悪そうにそう言うと、元来た道を帰っていった。

だが、その前にピタッと止まって、振り返った。

「そういえば、俺のエアブレイカーはどうやって受けたんだ?とてもじゃないが無傷でいられる出力じゃなかったぞ。」

あの戦いでの一番の疑問。それをトウカへ投げかけた。

トウカは無言でマントをとると、クラウスに渡した。

クラウスはそれを見て目を見開いた。

「な、なんだよこのエンチャント魔法……あ、ありえねぇほど耐久力が上がる上に素材自体もかなり壊れにくくなる程のエンチャント魔法……」

「家にあったやつを拝借してきた。あれはこれで防いだ。それと、爆発も。」

「……じゃあエアバレットは……」

「勘と風切り音。」

「……戦いなれてやがる。そりゃ勝てねぇわ。だが、次こそは勝つからな!!トウカ!!」

「負けない。」

クラウスは満面の笑みで元来た道を歩いていった。

「……トウカ、よく勝てたね?」

「風魔法使いとの相手は何度もイメージしてきた。それに、風魔法を使う魔獣とも戦った。」

「なんでイメージは人限定?」

「……わたしの目的がそれだから。」

「え、どういう……」

「気にしないでいい。行こう。」

「え、ちょっと!?」

その時のトウカの目は、驚くほど冷たかった。さっきまでの目とは、全く違った、恐ろしく冷たい目を。


****


「まさか負けちまうとはな。連勝記録を軽く塗り潰されたぜ。」

クラウスは人気のない路地裏を一人で歩く。

隠れ家へ向かっているのだが、その間はずっとさっきの勝負について考えていた。

「……次は絶対に勝ってやる。そのためには……開発するか。」

クラウスは所持金を確認すると、魔法書を発売している店へと足を運び、一つの魔法書を購入した。

その本は、オリジナル魔法を開発するための方法や、コツが書かれた本だった。

クラウスは気持ち悪いほど満面の笑みで隠れ家へと向かった。打倒トウカを胸に誓って。

しかし、依頼をこなした事によってちゃくちゃくと真夏になっていった財布は一瞬で冬を迎えたのは余計な話だろう

魔法の説明ですが、戦闘中は初めて出る魔法は地の文で解説、日常で使われる魔法は基本的には説明なしで行かせてもらいます


それと、二話を投稿した時に百名以上の方にこの小説もどきを見てもらいました。感謝の極みです

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