始まり
まだ、前の作品完結させてないじゃんとか言われそうですが、どうにも前の作品がちょっと行き詰って、こちらの設定ばかり考えついてしまい、もうどうにもらならなくなってしまったのでちょっとこっちを投稿したいと思います。
もちろん他の作品も完結させるようにするので、生暖かい眼で見ていてください。
注意
この小説の主人公は善人でもなければ悪人でもなく、自己中心的な求道者です。至高の斬撃しか興味がないため、時には外道行為すら行います。
それでも良い方のみお読み下さい。
神谷志朗という人間の一生は酷いものであったと彼を知る者は5人以外は言うだろう。事故により両親と死別。その後、姉と共に祖父に引き取られ、小学校の修学旅行に新幹線の事故により友人を失う。
これだけならばまだよかった。まだ姉がいた。
だが、世界は彼に全てを失わせる。住んでいた町がガス漏れ事故によって壊滅。その結果、彼は友人も何もかもを最愛の姉すら失い、果てに彼は己の心すらも失う。
事故によって、ただ1人だけ生き残ってしまった彼は心を壊さればらばらにされた。
「焼き入れは終わった。次は、鍛錬だ」
そんな志朗を変えたのは、彼が師匠と呼ぶ者である。他称狂人たち、彼の祖父と4人の友人、師匠たちである。
自称神を殺す使命を帯びた選ばれし者である祖父。
超絶肉体派ボディービルダー魔法少女(男)。
自称美少女天才解剖医ドSロリババア。
全世界頂点級超絶美少女従順戦闘系自動人形。
ウサ耳鬼畜外道駄目人間生臭神父。
この5人は心を失った彼に修行を施した。はたから見れば拷問にしか見えないような修行を。それはまるで刀を鍛え上げるような行為に似ていた。全てを斬る刀を作る。そういう行為に。
それがなぜだったのか、今や誰一人として彼らの真意を知ることはない。志朗ですら知らない。ただ言葉に従うだけになっていた当時の志朗は彼らに疑問なく従った。
「まずは、私との精神修行だ。さあ、行くぞ。なに、人間必死になれば死にはしないさ。HAHAHAHAHA」
まず行われたのは超絶肉体派ボディービルダー魔法少女(男)による裸で猛獣溢れる孤島や秘境、危険地帯に置き去りにしての精神改造。
ありえないほどのインパクトによって志郎の壊れた心をつなぎ合わせ、無人島に放り込みその上でサバイバル技術や生き残る術を学ばせる。
志郎はその果てにいかなるものにも屈せず、ただ前を向き続けひたむきに進み続ける不屈の精神を作り上げられた。
「次はボクね。んふふ、安心して、最強の肉体にしてあ・げ・る♥」
次に自称美少女天才解剖医ドSロリババアによる破壊と治癒による骨格から作り変える肉体改造。文字通り骨格レベルでの改造を志郎は施された。
柔軟にして剛健。柔よく剛を制し、剛よく柔を絶つ。剛の中にある柔であり、柔の中にある剛。至高の肉体。
力に偏れば速度は落ち、速度に偏れば力は落ちるという摂理ををも覆す。その結果、速度と力、両方を有する黄金の肉体、矛盾を孕みながら完成した肉体が出来上がった。
「――神は言っている。森羅万象、三千世界、遍く全てを斬れと。ゆえに、斬れ。それが刀であるお前の使命だ」
精神に肉体が出来上がれば、神を殺す使命を帯びた選ばれし者である祖父によるただ斬るという修行。森羅万象を斬らんと、ただ刀を振るい斬り続けるだけの修行が行われた。
本当にただただ、ありとあらゆるものを斬るのみ。作業のように、されど作業のようではなく。一振り一振りに魂をかける。
斬れない物があれば容赦なく祖父に斬られた。次第に志朗は万象の全てを斬りたいという願いを持つに至る。遍く三千世界、その尽くを斬りたいと願って、その果ての斬撃の極致を視た。
「では、勉強の時間です。残念ながら逃がしはいたしません。どうかご容赦ください。間違えれば斬ります。これもご命令ゆえご容赦ください」
その合間には全世界頂点級超絶美少女従順戦闘系自動人形による休む間もない知識、戦術指導が行われる。
日常を乗り切るための勉学から、戦の定石に至るまで全ての知識を教わった。読みあい、斬り合い、心理戦。ひとたび間違えれば、敗れれば物理的に斬られる。幾度となくあった死に覚えの末に、ありとあらゆる知識をその魂に刻み込む。
「さて、ほら、勝手にやれ。ああ、ただし生き残れよ。オレは面倒が嫌いだ」
それから紫煙を吐き出すウサ耳鬼畜外道駄目人間生臭神父によるありとあらゆる状況を想定した実戦。
決闘、集団戦、多対一、一対多、夜戦、奇襲、電撃戦、撤退戦、殲滅戦。神父は志郎にありとあらゆる状況でありとあらゆる戦いを経験させた。2人でありとあらゆる戦場を渡り歩いた。得たのは実戦経験。
『さあ、俺たちを斬ってみろ』
そして、最後に行われたのは死合い。5人の師匠と志郎との戦い。その果ては、ただ1人の勝者だけが立っていた。
そんな拷問、虐待紛いの所業、優しく言って地獄の日々が彼の一生。ただ森羅万象を斬らんとする剣の鬼としての一生。いや、刀としての一生か。
それが神谷志郎の一生であった。肉親と変わらぬ情を持った師匠をも斬って、彼に斬れぬものは何もない。
その最後は、己を斬るという行為、有体な言葉で言ってしまえば自殺であった。
愛した全ては失い既に斬り捨てたあと、その最後に己を斬った。病魔に侵され、老衰もままならぬ死ぬ間際に己と斬り合い。
そうして誰にも看取られることもなくただ1人、神谷志郎はその壮絶な人生に終わりと告げた。
あえて言おう、神谷志郎とその師匠たちは生まれる時代を、いや、世界を甚だしく間違えたのだ。
世界は間違いを許さない。何があろうとも間違いを許してはならないのだ。それこそ至高なる存在が敷いた絶対の法。それこそが理であり摂理であるのだから。
ゆえに、間違いは正されねばならない――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「さて――」
そこは、正しく立方体の部屋。
真っ白な漆黒の無色の部屋。
壁という壁は、等しく純白で漆黒で無色。
白く、黒く、赤く、青く、黄色く、白銀色で黄金色な無色。
窓もなく、扉もない。
完全に閉じた世界。
正しく立方体の部屋。
この場所を知るような者からは、
「全知の特異点」
「全能の願望機」
「真理の終着点」
「万能の立方体」
「叡智の蒐集地」
「奇跡の六面体」
「世界の中心部」
「黄昏の箱部屋」
あるいはただの「箱」と、呼ばれる。
ここは、正しく立方体の部屋。
この場所を知る者は、世界の理を超えた超越者であったり世界を傍観する高次の傍観者であったり、とある組織の幹部であったり、神の使徒であったりする。
一様に、裏側や天上を知る者。そんな者しか知れない場所。
ここは、正しく立方体の部屋。
「おや、珍しい。斯様な場所にお客様がお見えになるとは。いやはや、どれくらいぶりでしょうな」
そこにいるのはただ1人。
唯一の調度品である古めかしい豪奢で質素な白く、黒く、赤く、青く、黄色く、白銀色で黄金色な無色の長安楽椅子にふんぞり返るような低姿勢で座る奇妙な男のみ。
男のようで、女のようにも見え、どちらにもとれる曖昧な男。
漆黒の白く、黒く、赤く、青く、黄色く、白銀色で黄金色な無色の夜間用略式礼服のようにも見える燕尾服を身に纏い、白く、黒く、赤く、青く、黄色く、白銀色で黄金色な無色の純白の手袋をした姿は、執事か従僕のよう。
だが、顔面に収まった口元以外を覆う、白く、黒く、赤く、青く、黄色く、白銀色で黄金色な無色の奇妙な仮面が異質さを物語る。
奇妙奇天烈。
正確で奇怪。
違和感を感じる正しさで、違和感を感じない奇妙な男がただ1人。まるで嘲るように、囁くように、戯けたことを口にする。
「ここは、
「全知の特異点」
「全能の願望機」
「真理の終着点」
「万能の立方体」
「叡智の蒐集地」
「奇跡の六面体」
「世界の中心部」
「黄昏の箱部屋」
あるいはただの「箱」と、呼ばれる正しく立方体の部屋。
何もありませんが、ここに来たということは、何か目的があるということですかな?」
男は、問う。
大仰な手振りをしながら、自身以外に誰もいない部屋の中で。まるで誰かがいるように。
目的を問う。
その様子は、物語の語り部のようで、狂言回しのようで、嘲り笑う道化のようでもあった。
「おや、違う?」
自身以外には、誰もいないはずの部屋で男は否定を受け取る。
ふざけた格好で、ふざけたように、まるで、玩具を与えられた子供のように、仮面で隠した顔に、笑みを張り付けながら男は考える体を見せる。
それは不気味。
考えることを知らぬ男故。
考えるという動作自体なんら、この場所では意味を成さないというのに、男は考えるフリをする。
まるで、居もしない誰かを嘲笑っているかのように。
「ふむ、では、貴方も一つこのような物語は如何でしょう?
なに、時間はたっぷりとあるのですから」
結論が出たのか男は、提案する。
もとより、結論など1つしかない。
これ以外に男は、とる気がない。
ここで行われること。
行うことができることはそれ以外にないのだから。
男は、大仰な手振りをしながら、自身以外に誰もいない部屋の中で。まるで誰かがいるように問う。
物語は如何かな? と大仰な手振りをしながら、男は、問う。
自身以外には、誰もいないはずの正しく立方体の部屋で、大仰な動作で頷くと、男は芝居がかった口調で語り始めた。
「では、語りましょう。これは、名も無き世界。愛おしき唾棄すべき神が作り上げた天球の1つであり上位世界に区分される世界の話。力、知、気に加え4つめの力であるところの第四力――魔力を有する世界の物語。
舞台は東の果て。大陸からは極東と呼ばれる八百万の神々がおわす神なる地。四季折々、風光明媚な美しき島国。
その名は神州。人だけでなく、神や亜人など数多くの人が暮らす美しき国。これはそんな異世界の物語に御座います」
部屋を声が満たす。
声が部屋を満たす。
正しく立方体の部屋を男の芝居がかった語り口調の不思議な声が部屋を満たす。
不思議な残響を残しながら、不可思議な残響を遺しながら、言葉は、部屋に染み渡っていく。
「これは斬ることに全てを捧げた刀の物語」
男は語る。
それにあわせて、部屋の外は、その姿を変える。
部屋の外には何もなく、全てがそこにある。
ここは、揺り籠。
不定形の楽人が踊り狂う、狂演の揺り籠。
下劣な太鼓が響く、深淵の揺り籠。
かぼそく単調なフルートの音色が鳴る、幻初の揺り籠。
そこは、世界の中心だとも、始まりだとも言われる場所。
万物の王であり盲目にして白痴、無限の中核に棲む原初の混沌が眠る場所。
男の語りは、混沌に夢を見せる。
漆黒にして純白にして七色にして無色の混沌は、それに合わせて次第に形を成して行く。
「今こそ語りましょう。在り来たりな脚本ではありましょうが、役者は揃えております。ゆえに、面白くなるでしょう。
――では、愛おしき人の皆々様方、どうかご照覧あれ。我らが偉大なる五賢人と、愛おしい唾棄すべき神を殺す刀の舞台を。そう全ては、1つの死から始まるのでございます」
読んでくださりありがとうございます。1時間遅れで次話投稿を予約してます。
私好みの和風ファンタジー小説がなかったのでなければ作ればいいじゃないと書いてしまいました。
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