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幼馴染を優先する婚約者に、最高の結婚式を贈りました。婚約者の全財産で。

作者: よみなぎ
掲載日:2026/11/07

「婚約を解消してほしい。僕はリリアと結婚する」


 婚約者のセドリック伯爵がそう告げたとき、私は思わず身を乗り出した。


「まあ! ご結婚なさるのですか!」


「あ、ああ。突然のことで申し訳ないが……」


「おめでとうございます! ぜひ結婚式は当商会にお任せください!」


「……商会?」


「はい! 王都一の結婚式をお約束いたします!」


 私はエレナ。侯爵家の娘にして、王都で高級品を扱う商会を経営している。


 そして最近、婚礼事業を始めたところだった。


 セドリック様は三百年続く伯爵家の若き当主。莫大な資産を持ち、幼馴染のリリア様を何よりも優先する方である。


 私との食事中でも、リリア様が呼べば席を立つ。私の誕生日でも、彼女が寂しいと言えば駆けつける。


 その彼が、ついに幼馴染との結婚を決意したのだ。


 なんと素晴らしい。


 しかも、結婚式の依頼までいただけるかもしれない。


 私は早速、二人を商会の応接室へ案内した。


◇


「まずは花嫁衣装から参りましょう」


 私は見本帳を開いた。


 リリア様が目を輝かせる。


「これが素敵!」


「王宮御用達の仕立屋による特注品です。最高級の絹に真珠を縫い付けます。金貨三百枚となります」


「三百枚!?」


「こちらには金貨八十枚の品もございますが……」


「いや、最初のドレスにしよう」


 セドリック様が即答した。


「リリアには最高のものを着せてやりたい」


「まあ、セドリック! ありがとう!」


「かしこまりました!」


 私は注文書に記入した。


「こちらの南海真珠の首飾りはいかがでしょう? 金貨百五十枚です」


「素敵!」


「耳飾りが八十枚、髪飾りが六十枚となります」


「全部欲しいわ!」


「全部だ」


「ありがとうございます!」


 実に順調である。


「続いて、式場はいかがいたしましょう?」


「王都で一番立派な場所がいいわ!」


「でしたら王立大聖堂ですね。特別使用料は金貨五百枚です」


「王族と同じ場所!」


 リリア様が歓声を上げる。


「セドリック、ここがいい!」


「よし、ここにしよう」


「ありがとうございます!」


 最初の商談だけで、金貨千九十枚。


 普通の貴族なら、これだけで十分に豪華な結婚式が挙げられる。


 だが、お二人の希望はまだまだ続いた。


◇


「王宮料理長の出張料理が手配できました!」


「本当か!」


「王族の晩餐会と同じ料理をご提供できます。金貨八百枚となります」


「八百枚か……」


「通常の披露宴料理でしたら、百枚ほどで……」


「いや、王宮料理長に頼もう」


「かしこまりました!」


 リリア様が手を叩いた。


「ねえ、王族の結婚式って、ほかにどんなことをするの?」


「白馬六頭立ての黄金装飾馬車で、王都を巡ることもございます」


「見たい!」


 私は馬車の絵を広げた。


「こちらは特注品で、金貨千二百枚です」


「まあ! これがいいわ!」


 セドリック様が黙り込んだ。


「既存の豪華馬車を借りるなら、金貨五十枚ほどですが」


「でも、借り物なの?」


 リリア様が唇を尖らせる。


「私、結婚式の馬車をずっと残しておきたいわ。いつか子供にも見せたいもの」


「……わかった。作ってもらおう」


「ありがとうございます!」


 私は注文書を差し出した。


 すべて金額を明示し、ご本人に署名をいただく。


 商売の基本である。


◇


 三日後。


 セドリック様から相談を受けた。


「エレナ。少し資金を用意したいんだが」


「どのくらいでしょう?」


「金貨三千枚ほどだ。資産はあるんだが、現金が足りなくてね」


「でしたら、売却をお手伝いいたしましょうか?」


 伯爵家には、先祖代々の絵画や宝石、別荘がある。


 私は手数料表を差し出した。


「売買成立額の五パーセントを仲介手数料としていただきます」


「構わない。頼むよ」


「ありがとうございます!」


 早速、王都の富裕層に声をかけた。


 先々代の伯爵が収集した絵画。宝石を散りばめた燭台。使われていない別荘の調度品。


 どれも一級品で、買い手はすぐに見つかった。


 売却代金は伯爵家へ。


 仲介手数料は当商会へ。


 そして伯爵家へ渡った売却代金は、結婚式の費用として再び当商会へ。


 なんと美しいお金の流れだろう。


 私は帳簿を眺めながら、しばらく感動してしまった。


◇


 結婚式の準備は、さらに華やかになっていった。


「エレナ様! 披露宴で花火を上げたいの!」


「王都一の花火職人をご紹介します! 金貨四百枚です!」


「庭園を全部白い薔薇で飾りたいわ!」


「温室栽培の薔薇を取り寄せましょう! 三百枚です!」


「招待客全員に記念品を贈りたいの!」


「銀細工はいかがでしょう? 六百枚です!」


 リリア様が望み、セドリック様が承諾する。


 私は見積書を作り、契約を結び、最高の職人を手配する。


 お二人が幸せになるほど、当商会も繁盛した。


 実に素晴らしい関係である。


 ところが結婚式まで一か月となった頃、セドリック様が再び資金の相談にいらした。


「エレナ。残りの支払いのために、もう少し資産を売りたい」


「承知いたしました」


 私は資産目録を広げた。


「王都別邸はいかがでしょう? 現在は使用されていないと伺っております」


「祖父が建てた屋敷か……」


「立地も良く、かなりの高値が期待できます」


「……そうだね。使っていない屋敷を持っていても仕方ない」


「では、売却を手配いたします」


 私は書類を整えた。


「ところで、今の結婚式の総額はいくらになっている?」


「現在、金貨七千八百枚でございます」


「……ずいぶん増えたものだね」


「おかげさまで、たいへん豪華な式になります」


 セドリック様は少し考え込んだ。


「規模を縮小したほうがいいだろうか……」


「まだ変更可能な項目もございます。花火や記念品でしたら、減額できますよ」


 そのとき、応接室の扉が開いた。


「セドリック!」


 リリア様だった。


「エレナ様! 隣国の王女様の結婚式では、空から花びらが降ったんですって!」


「まあ、素敵ですね!」


「私もやりたいわ!」


「魔法師に依頼すれば可能です。金貨二百五十枚ほどになります」


「セドリック、お願い!」


 セドリック様はしばらく黙っていた。


 そして微笑んだ。


「……ああ。リリアが望むなら」


「ありがとう!」


「かしこまりました!」


 私は見積書を書き直した。


「総額は金貨八千五十枚となります。よろしいでしょうか?」


「ああ。構わない」


「ありがとうございます!」


 署名をいただいた。


 これで正式な契約成立である。


◇


 王都別邸は金貨二千枚。


 狩猟館は千二百枚。


 農地の一部は千五百枚。


 伯爵家の資産は、次々と買い手がついた。


 どれも適正な査定額であり、売却は順調だった。


 そして結婚式の一週間前。


 セドリック様が最後の支払いを済ませた。


「これで全部だね」


「はい。ありがとうございます」


 私は受領書を差し出した。


 未払い金、なし。


 すべて完全決済である。


「ずいぶん財産を売ったな」


 セドリック様が笑った。


「先祖が残したものを、こんなに使うとは思わなかった」


「ですが、素晴らしい結婚式になりますよ」


「ああ。リリアの喜ぶ顔が楽しみだ」


「きっと、一生忘れられない日になります」


 私は心からそう思った。


 セドリック様を見送ったあと、帳簿を開く。


 売上、原価、職人への支払い、輸送費、会場費。


 そして資産売却の仲介手数料。


 計算を終えた私は、思わず椅子から立ち上がった。


「……まあ!」


 何度確認しても、数字は変わらない。


 当商会の婚礼事業が過去三年間で稼いだ利益。


 その総額を、今回の一件だけで上回っていた。


 私は静かに両手を合わせた。


「商売の神様……!」


 感謝せずにはいられなかった。


◇


 結婚式当日。


 王都は朝から華やかな空気に包まれていた。


 大聖堂の鐘が鳴り響く。


 黄金装飾の馬車を引く六頭の白馬。


 沿道には見物人が詰めかけている。


「王族の結婚式みたい!」


「伯爵家って、あんなにお金持ちだったのね!」


 私は大聖堂の入口で、最後の確認をしていた。


「花びらの魔法は?」


「準備完了です!」


「料理は?」


「すべて整っております!」


「素晴らしいわ!」


 やがて花嫁が姿を現した。


 純白の絹のドレス。


 真珠を散りばめた長い裾。


 南海真珠の首飾り。


 宝石の髪飾り。


 リリア様は、まるで物語のお姫様だった。


「エレナ様! 見て! どうかしら!」


「まあ、本当にお美しいです!」


「私、こんなに幸せなの初めて!」


「それは何よりでございます!」


 リリア様は満面の笑みを浮かべた。


「本当にありがとう! あなたがいなかったら、こんな結婚式はできなかったわ!」


「こちらこそ、ありがとうございます!」


 それは本心だった。


 こんな結婚式は、私も初めてである。


◇


 挙式は完璧だった。


 大聖堂の巨大な扉が開き、リリア様が純白の絨毯を歩く。


 祭壇ではセドリック様が待っていた。


 誓いの言葉。


 指輪の交換。


 鳴り響く鐘。


 大聖堂の外では、白薔薇の花びらが空から降り注いだ。


 披露宴も大成功だった。


 王宮料理長による豪華な料理。


 最高級の葡萄酒。


 銀細工の記念品。


 庭園を埋め尽くす白薔薇。


 そして夜空いっぱいの花火。


 招待客たちは口々に称賛した。


「こんな結婚式は見たことがない!」


「まるで王族の婚礼だ!」


 セドリック様は誇らしげだった。


 リリア様は幸せそうだった。


 そして私も、たいへん幸せだった。


◇


 夜。


 最後の花火が消えた頃、私は帳簿を閉じた。


 婚礼代金、金貨八千五十枚。全額入金済み。


 さらに、伯爵家の資産売却による仲介手数料。


 経費をすべて差し引いても、当商会の過去最高益である。


「会長……伯爵家三百年の財産が、たった一日の結婚式に消えたんですね」


 番頭が呆然と呟いた。


「ええ。そして、お二人には最高の一日をお届けできたわ」


 私は満足して頷いた。


 そこへ、幸せいっぱいの新郎新婦がやってきた。


「エレナ! 今日は本当にありがとう!」


「エレナ様! 私、一生忘れないわ!」


「こちらこそ、ありがとうございました!」


 私は深々と頭を下げた。


「どうぞ、末永くお幸せに!」


 二人に見送られ、私は大聖堂を後にした。


 伯爵家三百年の蓄財を、最高の結婚式に変えた。


 お客様は大満足。


 職人たちにも十分な報酬を支払った。


 そして私の商会には、莫大な利益が残った。


 私は帳簿を胸に抱き、満面の笑みで馬車に乗り込んだ。


 ああ、本当に。


 結婚式というものは、なんて素晴らしいものなのだろう!

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― 新着の感想 ―
えーと。このあと、新婚さんは、帰る家あるのかな? ウエディングドレス着て、普段過ごせないよねえ。あとで売るのかな。あ、余った料理は持って帰った方がいいかも。 未収金なし、おめでとうございます。
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