僕は、大きなキノコだったんだね
要約
"僕が息をするのは、脈絡のない頭の中の不可解が乖離した、意味のない一人芝居の世界でのことでした"というお話。
学校生活にはいい思い出も、トラウマもあるけど、今は、今は楽しいな。
「ほらっ!ケイタっ!」
「お、おぅ...!」
こんなに優しくて可愛いリンちゃんが僕の彼女だなんて、いまだに信じられないよ。
「ひゅーひゅー!ケータお熱いな~!」
「う、うるせぇ!」
なんだか"青春"って感じがするな。
僕も"普通"の高校生、やれてるかな?
「それで、今日はうち、親帰ってこないんだけど...//」
「そ、それじゃあさ......!」
いや、普通よりも幸せなのかも。
・・・
「いや~まさかリンちゃんの妹さんがいるとは知らなかったよ」
「ごめんっ!私からあんなこと言って期待させちゃったのに!」
「いいんだよ、妹さん、熱があったんだから」
「ケイタは優しいんだね」
「そ、そんなことねぇよ!
当たり前だろこんなこと
その、か、彼氏として?」
「ふふっ笑
そうだねっ♪」
だけど、人生、なにもかもが順風満帆にとはいかないみたいなんだ。
ヨットに追い風が吹くこともあればもちろん、横からの突風になぎ倒されそうになることもあるって話、前に本ばかり読んでるマサト君が言っていたのが分かった気がするよ。
「おいケイタ!ちょっと付き合えよ」
「あ、ミツキ君...」
「ほらケイタ、ミツキ様の時間は貴重なんだぞ!さっさとついて来いよ!」
「フトシ君...」
こいつらは入学当初から僕にちょっかいをかけてくるんだ。
最近、リンちゃんとお、お付き合い?を始めてからはさらに面倒くさくなった。
「それでなんの用かな...?」
「別に?用なんてないけど?」
「えっ...じゃあなんで...」
ピラッ
「これじゃあリンちゃんも親に叱られちゃうかもね~」
「そ、それはリンちゃんの解答用紙!なんでミツキ君たちが!」
「さぁ?し~らない!」
ドダダダダダダ
「あんたらやめなさ~~い!!!」
「チッ」
「委員長!」
「もう!ミツキ君もフトシ君もケイタ君をいじめないの!」
「はーい分かりました~」
「分かったらさっさと行く!」
「ちぇ~」
ストスト...
「ごめんね、大丈夫?ケイタ君...」
「うん...ありがとう...」
「ケイタ君...」
「...委員長?」
チュッ
「んん゛っ??」
ジュルッ
「ん゛ん゛!!!!!」
「プハッ!!
ご、ごめんね!ケイタ君!
あたしったらいきなりケイタ君にあんなこと...」
「い、いえ......」
「それじゃあたし行かなきゃだから!!」
「え、あ、うん...」
ぽーー......
「あれが...キス...
リンちゃんともまだなのに...」
でもなんでだろう。
気持ち悪くはないんだな。
「も~~!ケイタこんなとこで道草食って!」
「ご、ごめんちょっと先生に用があって」
「そう?それならいいんだけど」
ほっ...
見られてはなかったんだな。
「そ、それでなんだけど...//」
。。。
「お、おじゃましま~す...」
「あっ!いらっしゃい!」
「ケイタと言います...」
「お話はリンから聞いてるわよ♪
ほら、上がって上がって」
「し、失礼します!」
「うふふふっ、可愛いわね」
「お母さん、私先にシャワー浴びてくるから」
「りょ~か~い♪」
ジャーー
「それで、ケイタ君は今日するの?」
「な、なにをですか?」
「なにってエッチなことよ」
「エッ...!!」
「なにを慌ててるのよ、もう高校生なんだしそれくらいは普通でしょ」
「で、でも...」
「なにをビビってるの~
男なんだからシャキッとしなさい」
「ほら、練習してみる?」
「れ、練習!?」
ミシッミシッ...
ガラララ
「い、委員長!!?」
「あら?お知り合いだった?」
「同じクラスなんです...じゃなくてこの首輪と手錠はなんなんですか!!
今すぐ外してあげないと!」
パシッ
「あら、ケイタ君、人のペットに勝手に触らないでくれる?」
「ぺ、ペットって!あんたなに考えてるんですか!」
「別に普通のことじゃないかしら?」
「普通?これのどこが普通なんだ!」
ピチョッ...ピチョッ...
「あれ?ケイタ?」
「あっ!リンちゃん!大変なんだ!委員長が!」
「それがどうかしたの?なにも普通のことじゃない」
普通?これが?これが普通だって?
絶対に違う!
そんなことは僕にだって分かる!
「ペットの犬を息子のように扱って、家族だと言って聞かない人がいる
じゃあ、養子の子を犬のように扱ってペットだって言い張ってもいいんじゃないの?」
「え...いやでもそれは!」
「それはいけないことなの?」
「そ、それはもちろんダメだろ!いますぐ警察に...!」
「本当に?本当にその行動は正しいの?
"普通"で"正常"なこと?」
本当にって言われても...。
これはいくらなんでもおかしい。
だって委員長も......
「ほら、なにやってるの?ケイタくぅん
あたしとエッチの練習するんでしょ~♡」
「い、委員長!!?」
「も~お母さんいつも話が早すぎだって~」
「リンちゃん!?
リンちゃんはいいの!!?こんなこと僕がして...」
「いいってそりゃあ...」
「「 ねぇ? 」」
...おかしいのは僕の方なのか?
本当にこれが"普通"なのか?
一般的な高校生はここで委員長とその...エッチなことをするものなのか?
「う~ん...ケイタ君は自分のモノに自信がないのかなぁ...」
「違うよお母さん
ケイタは中学まで不登校だったから、世間の習わしとか、常識を分かっていない部分があるだけなの」
「あら!そうだったのね!」
「そうそう!それにケイタのケイタは意外とおっきかったよ!
まだ被ってたけどね笑」
「あれまかわいっ♡」
ジャラ
「は、はやくぅ!ケイタく〜ん♡」
「い、委員長...」
「ほら、ケイタ!早くっ!」
「ケイタ君、遠慮はいらないのよ」
「けぇたぁ!!」
ケイタ、ケイタ、ケイタ、ケイタ、ケイタ...って!
僕は...。
俺は俺は...。
「俺はケイタじゃね~~~~!!!!!!」
「あっ!ちょっとケイタ!」
タタタタタタタタタタ
「はあ...はあ...はあ...」
気が付いたら来てしまった...。
幼馴染のユウコちゃんの家...。
それにしてもさっき俺はなんであんなこと...。
ピーンポーン
「あれ?ケイタ?」
「夜遅くにごめん!今日だけ泊めてくれないかな!」
「...リンさんと2人で?同級生の女の家に?」
「リンさん?2人?ユウコちゃんなに言って...」
「だって......ケイタ今、リンさんと一緒じゃない」
「...は?」
「ちょっと待っててね」
カシャッ
「ほらっ」
「う゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!!!!!!!!ッッッ!!!!」
ダッッ!!
「あ、ちょっと!ケイタ!どこ行くの!
ケイタ!ケイタ!」
ダッダッダッダ...
「はあ...はあ...俺は...俺はケイタじゃ...」
なんで皆して俺をケイタって...。
「いらっしゃいませ~」
「明日の朝までで...」
「かしこりました~料金は...」
結局またネカフェに来てしまった...。
ここは落ち着く...だけどここに安らぎを求める俺の心が許せない。
普通の高校1年生はこんなことしないはずだから。
スゥ...スゥ...
誰が座ったのかも、なにをしたのかも分からない椅子ってなんでこんなにも惹かれるものなんだろう。
匂いってさ、いや、そもそも人間の体っていうのはさ、皆同じ素材で出来ているんだろ?
なのになんでこう、100人いたら100通りっていうのかな。
「っと、トイレトイレっと...」
ッッ!!!!
「は......な...んだこれ...」
俺が...俺じゃない......。
いや!そんなわけないだろ!俺!
ごしごし
「ははっ...」
服が違く見えるだけ、きっとそうだよな。
そうだ!ここは少しくらいから色味が違って見えているんだ!
そうに違いない!
「はっ...ははっ...」
どうしてだろう。
ここにいるのが皆、同じ人みたいだ。
受付のお姉さんも、デブで臭いおじさんも、髪がカラフルなお姉さんも...。
服は違う、身長も違う、年も違う...きっと...。
でもなんだろう...。
組成は俺と同じ...なんだよな。
人間って...。
俺というのはなんなんだ?
俺を俺たらしめる要因はなんだ?
門田家の長男で、16歳で、リンさんを彼女にもつ俺は...他の人とどこが違う?
バッ
「お客様!!?」
タッタッタッタ...
例えば新潟に、門田圭太という人がいて、16歳で、吾妻リンという彼女がいれば、それは俺なのか?
俺は2人いるのか?
あそこの門田というおじさんは実は俺のお父さんなんじゃないのか?
あそこの店員さんは俺の実の母親なんじゃないのか?
実は世界中が血の繋がった家族、そんなことは本当にあり得ないのか?
*****
「なあ、ケイタ、知ってるか?」
「なんだよマサト」
「世界で1番おっきい生き物ってキノコなんだぜ」
「キノコ?キリンじゃねえのかよ」
「キリン?ぷっは笑
せめてクジラとかにしておけよ」
「そんなにでっかいキノコがあれば何万人で食べてもなくならないんだろうな〜」
「違うんだケイタ、キノコの食べられる部分は実はキノコのほんの一部、それらは地下で菌糸でつながってるんだ
山何十個に渡って生えてるキノコは、全部同じなんだ」
「おい...どうした急にマジになって」
「昔の人は夢にも思わなかったと思うぜ」
「なにがだよ」
「隣町で取れたキノコが実は自分ちの庭に生えてるのと"同じ"だなんてな」
「同じ、同じってさっきからなんだよ
キノコっつても同じ松茸なら、どこに生えてたって松茸だろ」
「ははっ笑
ケイタはまだ子どもだな」
「あぁ??今なんつった!?」
「まあ、そのうちこのキノコに救われることがあるのかもしれないなってだけだ」
「へんっ、キノコは食べるもんなんだぜ」
「あー、言ってろ言ってろ」
*****
マサトが言っていたのはそういうことだったのか...。
俺達はキノコ。
笠が大きい、色がくすんでる、そんな些細な個性なんてのは、空から見ればイコールだって、そういうことか?
そういうことなのか?
俺達はキノコだって言うのか?
ガッチャ...
「ただい...ま...」
家に帰ったのは久しぶりだな...。
だってここには...。
「おう!お帰りケイタ!」
「ケイタ遅い!!こんな時間まで一体どこに行ってたの!」
「ゲームするぞケイタ!」
「ケイタお菓子買ってきたか~?」
俺が住んでいるから。
今でもなにかの悪い夢なんじゃないかと思ってる。
だから俺は、俺は、
ガチャ
俺は家には帰れない。
俺じゃない誰かが俺になって、俺が他人になってしまう。
そんな予感がするから。
。。。
ザクッ
「来てしまった...夜の学校...」
なんだかんだ言って、ここが1番なのかもしれない。
スンスン
「やっぱりリンさんの席からは俺の匂いがする」
それだけ俺と一緒にいる時間が長いってことなのかな。
なんだか嬉しいな。
チカッ...チカッ...
なんだ?なにか光って...。
ゴソゴソッ
「これは...カメラ...?
しかも録画中って......」
――小田山――
小田山って言えばあの、なに考えてるかよく分からないオタクのか?
このアングルだとリンさんを......。
クソ!こんなの消してやる!
ピッ
「ね、念のためだ、念のため中身を確認してからにしよう」
......。
......。
スルッ
バキッ
「な......んだ.........これ............」
そこに映っていたのは教室で1人で誰かと話す僕、喜ぶ僕、怒る僕、寝る僕。
「なんで僕......」
僕、こんな顔じゃ...。
でもなんで...この時間は、昨日は皆教室にいたはずなのに...。
僕の顔って......。
「僕の顔ってどんなだっけ...」
ああ、そうだったのか。
やっとわかったよマサト君。
僕らは、いや、僕は、キノコだったんだね。
大きな大きな。
多種多様な。
そしてとっても寂しい。
「ケイタ...」
「リンちゃん...
いや、君はリンちゃんじゃないんだね」
「...やっと気づいてくれたね、僕」
「うん、ありがとう」
僕の彼女になってくれてありがとうリンちゃん。
僕の映画を撮ってくれてありがとう、小田山君。
僕の家族だったあの人も、いつも絡んでくるミツキ君とフトシ君も、いつも僕を助けてくれる委員長も。
見知らぬ大勢の僕も。
そしてこれを読む僕も。
ありがとう。
さようなら。
僕はこの夢から醒めることにするよ。
・・・
「朝よ、ケイタ」
「ああ......そうか」
「どうかした?」
「いいや、なんでもないよ」
結局そうなのか。
「おはようお母さん」
おはよう。
今日も家から出ないけど。
今日も、今日からも世界をよろしくね。
僕ーー。
ーーー終わり。
僕らが生きる世界は、本当に、他人に囲まれた、他人の意思の集まった結果なんでしょうかね。
自分が作り上げた想像の世界(夢の中)という線は。
ないと思うのなら、うまく行かないのだって、当然だと、そうは思いませんか。