【9話】ムカつく女
「なんなのよあの子は!」
帰宅した麗華の第一声は『ただいま』ではなくて、それ。
怒りの叫びが、広い家の中に響く。
先ほどまで一緒にいた女子高生――赤上香奈に、麗華は心の底からムカついていた。
「なによあの態度!」
香奈は武との時間を邪魔しただけでなく、いちいち挑発的な態度を取って喧嘩を売ってきた。
思い出すだけでも腹が立ってしょうがない。
「あーもう!」
この家の冷蔵庫の中には、キンキンに冷えた缶ビールが大量に常備されている。
勢いよく冷蔵庫の扉を開けた麗華は、そのうちの一本を取り出した。
「飲まなきゃやってられないわよ!」
缶ビールのフタを開けて、中身を一気に腹の中へ流し込んでいく。
飲み終えるなり、グシャっ!
そのまま缶を握りつぶした。
「ダメだわ! まだムカつく!」
しかし麗華のイライラは、まだまだ治まらなかった。
一本では足りない。
このまま第二ラウンドに突入してしまおうか、というとき。
武の顔が頭に浮かんできた。
「黒崎さんはあの子のこと、どう思っているのかしら……」
親しい感じではあったが、恋愛感情は無さそうだった。
かわいい後輩、にくらいしか思っていないだろう。
だからといって、安心はできない。
認めたくはないが、香奈はかなりかわいい。
街で歩いていたら、確実に噂されるレベルだ。
もしあの子が本気で迫ったなら、武の気が変わってしまうかもしれない。
あの性悪女子高生のことだ。
もしそうなれば、麗華に会うことを許しはしないだろう。
(そんなの嫌よ……!)
武は大切な友達。
話していてあんなに楽しいと思える人は初めてだ。
もう会えなくなるなんて嫌だ。
絶対に手放したくない。
それに、だ。
個人的に、香奈だけには負けたくなかった。
真正面から『嫌い』と言ってきた相手に負けるのは、どうにも許せない。
「大丈夫……焦ることはないわ。あの子よりも私の方が上だもの」
自分でもこんなことを言うのもなんだが、麗華は美人だ。
顔もスタイルも香奈に勝っている。これは客観的事実。
しかし、唯一負けているものがある。
それは……。
「……」
麗華の視線は下へ。
…………ぺたん。
そこに広がるのは、まっ平らな水平線。
麗華の胸元は、悲しいほどにぺたんこだった。
対して、香奈の胸元はエベレスト。
それはもう、どどーんと特盛り。
スイカかメロンでも、詰まっているかのようだった。
麗華と比べたら雲泥の差だ。
というか、勝負にすらなっていない。
これもまた、客観的事実だった。
「やっぱりあの子、大嫌いだわ!!」
大声で叫んだ麗華は、第二ラウンド突入。
二本目の缶ビールを腹に流し込むのだった。