【8話】邪魔者
武がいなくなったことで、テーブルには麗華と香奈の二人だけとなる。
(……どうしてこんなことになったのよ)
麗華は小さくため息を吐く。
武と二人で話したかったのに、余計なものがひっついてきた。
邪魔で邪魔でしょうがない。とっととご退場願いたいところだ。
そんなことを思っている麗華の隣では、香奈が得意げな顔をしていた。
ニヤニヤしながらこっちを見てくる。
「私になにか用? 言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ」
「さっきの聞きました? 武さん私のこと『かわいい』って、そう言ってくれたんですよ! ふふふ!」
それはもう嬉しそうに笑う。
あなたよりも私の方がかわいい、とでも言いたいのだろう。
つまり、喧嘩を売ってきた。
「あんなのただのお世辞に決まってるでしょ。それをいちいち真に受けるなんて、あなたって相当頭が悪いのね」
「……ッ!」
香奈が睨んできた。
客観的事実を述べただけなのだが、頭にきたらしい。
「ずっと気になってたんですけど、あなたは武さんとどういう関係なんですか?」
「飲み友達よ。そういうあなたは?」
「同僚です。それから、週に数回ファミレスで話す親しき間柄です!」
あなたよりもずっとです! 、とさらに付け加える。
この女子高生は、いちいち喧嘩を売らないと済まない性格をしているらしい。
(いいわよ……付き合ってあげるわ!)
「あなた、先輩に恋しているんでしょ? それなのに黒崎さんのことが好きなの? ちょっとおかしくないかしら?」
「そ、そういう水島さんはどうなんですか! 武さんのこと好きなんですか!」
「私は……」
武はとても聞き上手。
彼と会話をするのはとても楽しくて、毎回時間を忘れてしまう。
毎日でも会いたいと思っている。
それくらいに、麗華は熱中していた。
でもそれが恋愛感情なのかは、よく分からない。
「私、あなたのこと嫌いです! 大っ嫌いです!」
「奇遇ね。私もあなたと同じ意見よ」
恋愛感情はさておき、香奈が嫌いのは確かだ。
二人は再び、互いに顔を見合う。
めいっぱいの笑顔で笑い合った。
家族との電話を終えた武は、席に戻ってくる。
(おぉ!)
テーブルの様子を見た武は、口元に微笑みを浮かべた。
麗華と香奈は互いに顔を見合わせ、笑い合っている。
席を立つ前とは、大きく状況が変わっていた。
(俺がいない間に、二人は仲良くなったんだな)
緊張している二人を残していくのは、ちょっと不安だった。
でも、結果的にそれは正解だったようだ。
「よかった。二人とも仲良しになれたんだね」
「「違います!!」」
二人からいっせいに否定の声が上げる。
タイミングはバッチリ。
仲が良くないと、こうはいかないだろう。
否定の声を上げたのはきっと、照れ隠しをしているだけだ。