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【38話】麗華の家へ


 土曜日の夕方。

 舗装された道の上を歩いている武の心は、舞い上がっていた。

 

 今は麗華の家へ向かっている。

 先日会ったときに、お呼ばれしたのだ。

 

(女の子に家に遊びに行くなんて初めてだ!)

 

 人生初の体験に武のテンションはそれはもう上がりに上がって、上がりまくっていた。

 

 さらには、手作りの夕食までごちそうしてくれるという。

 楽しみでしょうがない。

 

 

 しかし武のテンションのピークは、出入り口の手前までだった。

 

「いらっしゃい武さん!」

 

 麗華がドアを開けた瞬間、武は顔をしかめる。

 

 夏場に生ゴミを一か月くらい放置したような、とてつもなく凶悪な悪臭。

 それが武を襲ってきた。

 

「どうぞ、上がってください」

 

 しかし、出迎えてくれた麗華は笑顔だ。

 悪臭漂う中にいるというのに、まったく平気そうだった。

 

(どうして普通にしていられるんだ……)

 

「武さん? 固まってますけど、どうしましたか?」

「ごめん……なんでもない。お、お邪魔します」

 

 異臭について指摘したら、麗華を傷つけてしまうかもしれない。

 顔を大いに引きつらせつつも、武は家に上がった。

 

(…………これはひどい)

 

 麗華についてリビング入った武は、唖然とした。

 

 広いリビングにはそこら中に、大量の空のビール缶と脱ぎ捨てられた服が散乱している。

 足の踏み場を探すのにも一苦労だ。

 

 隅の方には、パンパンになったゴミ袋が十個ほど放置されていた。

 ゴミの日に出し忘れて、そのままになっているのだろう。

 

 ライフスタイルは人それぞれだということは、分かっている。

 常に清潔でなければ気が済まない人もいれば、その逆にずぼらな人だっているだろう。

 

 それにしたってこれはひどい。ひどすぎる。

 ずぼらで済ませられるレベルを、遥かに超えていた。

 

「今日は武さんが来るから、いつもより張り切ってお掃除しちゃいました!」

 

(これで掃除しただって!?)


 武は耳を疑う。


 さすがにそれは冗談だろうと思ったのだが、麗華は本気だ。

 冗談を言っているようには見えない。

 

「テーブルへ座ってください。お夕飯はもうできているんです!」

「……ありがとう」


 ほこりまみれの食卓テーブルへ座る。

 今日の麗華の掃除には、テーブルの拭き掃除という項目がなかったらしい。

 

「はい、どうぞ。私の手作りご飯です!」

 

 武の前に皿が出てきた。

 

(…………なにこれ)

 

 皿の上に盛られたご飯。

 その上には、ドロッとした緑色の液体がかかっている。

 

 緑色の液体は、耐え難い腐敗臭を放っている。

 麗華の家に蔓延していた悪臭の原因は、間違いなくこれだ。

 

 それは、武が知らない料理――いや、料理と呼んでいいか分からない未知のなにかだった。

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