【35話】若い女の子はよく分からない
(泣けるラストだなぁ……!)
怖い展開がずっと続いていたが、ラストはとても感動的。
間違いなく名作だ。
エンドロールが流れる中、武は少し涙しそうになっていた。
照明が灯り、劇場内が明るくなる。
「出ようか」
立ち上がった武は、両隣の二人に声をかける。
三人は揃って、劇場内から出た。
時刻は正午。
昼食を食べに、三人はファストフード店へ入った。
「かなり怖かったけど、すごいラストだったよね! つい泣きそうになっちゃったよ!」
テーブル席の対面に座る香奈と、隣に座る実来に興奮気味に話を振る。
素晴らしい映画の感想を、ぜひとも分かち合いたかった。
「そ、そうですね」
「……うん。感動……したかも」
しかし、女子二人の反応はぎこちない。
武は知らないが、最後までそっぽを向き合っていた二人は、まともに映画を見ていなかったのだ。
ラストがどうなったかなど知るはずもないので、テキトーな反応しかできなかった。
(二人ともあの終わり方は好きじゃなかったのかな……)
映画について語りたかった武は、わりとショックを受ける。
落ち込みながら、ジュースのストローに口をつける。
「それよりも!」
大きな声を上げた香奈が、実来を睨みつける。
「最初の話の続きです! あなたは武さんのなんなんですか!?」
「彼女だよ」
「はぁ!?」
香奈が驚きの声を上げると同時。
武もおもいっきりびっくりしていた。
飲んでいたジュースを、あやうく吹き出しそうになってしまう。
「……なんてね。ただの飲み友達だよ。ぷぷっ、香奈ちゃん騙されてるし~」
「それはほんとですか!」
けらけら笑う実来を無視して、香奈は武へ顔を向けた。
力がこもっているその表情には、強い圧を感じる。
「うん。彼女っていうのは嘘だよ。実来ちゃんは人をからかうのが好きなんだ」
「……良かったぁ」
「っていっても、何度もお泊まりして色々している仲だけどね。あんなことやこんなことをしてるんだよ~」
(え、なにそれは?)
そんな事実はない。
あんなこともこんなこともしていない。
どうやら実来は、香奈をからかうのにハマってしまったらしい。
「泊まったことはあるけど、別に変なことはしてないよ」
付き合ってもない女の子に手を出す男、なんて香奈に思われたら大変だ。
すかさず武はフォローを入れた。
「……泊まったこと、あるんですね」
肩を落とした香奈は、ガックリと俯いた。
小刻みに震えて、泣き出しそうになっている。
(どうしてそんな反応を……。……もしかして香奈ちゃんも、俺の家に泊まりたいのかな?)
「それなら今度、香奈ちゃんも泊まりに来る?」
「行きます!」
香奈がバッと顔を上げた。
泣き出しそうだった顔が、一気に晴れやかになっている。
(泣かれることはこれで回避できたな)
フォローできたかは分からないが、泣かれることを防げたのでよしとしよう。
「ちょっとクロちゃん!」
実来が耳たぶをつねってきた。
ぶー、とむくれて怒っている。
香奈が元気になったと思えば、今度は実来が不機嫌になってしまった。
(若い女の子ってなに考えてるんだろう……)
36歳のおっさんには、二人の気持ちがまったく分からないでいた。
 




