【33話】香奈と合流
駅前では、香奈が既に待っていた。
武は背中越しに声をかける。
「ギリギリでごめんね。待たせちゃったかな」
「ダメですよ武さん! 女の子に会うときはもっと余裕を――え」
喋りながら振り向いた香奈は、言葉を止める。
手を握り合っている二人を見て、大きく目を見開いた。
「……誰、ですか?」
「昨日連絡した子だよ」
「女の人だなんて聞いてませんけど!」
「そうだけど……でも、麗華さんじゃなければいいんだよね?」
「そんなこと言ってませんけど!!」
香奈の全身から怒りの炎が、ぶわーっと噴き上がる。
(いや絶対言ったよね?)
それは確実だ。
トインを開けば証拠だって残っている。
しかしそれを言っても、怒りの炎にガソリンをまくようなもの。
ここはきっと黙っておくのが正解だ。
「私、桃川実来。よろしくね、香奈ちゃん」
「赤上香奈です。あの……武さんとはどういう関係ですか!!」
「答えてもいいけど……うーん」
実来はピンと指を立てると、ポールにくっついた屋外時計へそれを向ける。
「今は先に映画館行った方がいいんじゃないかな? 映画始まっちゃうよ」
遅れる原因を作った張本人がそれを言うのはどうかと思うが、言っていることは正しい。
ここで話していたら、映画に遅れてしまうかもしれない。
「それもそうだね。話をするのは映画のあとにしようよ」
「武さんがそう言うなら……分かりました」
小さく呟く香奈は不満そうだ。
しかし渋々といった感じではあるものの、なんとか納得してくれた。
「……いつまで武さんと手を繋いでいるんですか?」
映画館へ向けて歩ている途中。
武と手を繋いでいる実来へ、香奈がイラついた声を飛ばした。
「別にいいじゃん」
「よくないです!」
頬を膨らませた香奈が、自由になっている方の武の手に両腕を回す。
体をおもいっきりくっつけてきた。
「……ふーん。そういうことするんだ」
実来は小さく笑うと、握っている武の手に両腕を回した。
香奈と同じようにして、体をくっつける。
「なんだあれ?」
「おっさんの取り合いか?」
「それにしても、二人ともすっげぇかわいいな」
通行人たちの視線が、三人へ向けていっせいに集まった。
そりゃそうだ。
それぞれの腕を美少女に組まれているおっさんなんて、なかなか見れるものではない。
注目の的になってもしょうがなかった。
「恥ずかしいから離れてくれないかな?」
両手に花というこの状況は、当然として嬉しい。
嬉しいのだが、それはもちろん最高なのだが、しかしやっぱり恥ずかしい。
「……だってさ。言われてるよ香奈ちゃん? クロちゃん困ってるみたいだし、早く離れなよ」
「どうして私だけ! というか、あなたの方こそ離れてくださいよ!」
「いや、二人に言っているんだけど……」
「……」
「……」
しかし二人はこれを、完全にスルー。
まったくもって離れてくれない。
結局、映画館に着くまでこの状態はキープ。
その間衆目に晒され続けた武は、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。




