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【28話】麗華と実来と居酒屋へ

 

 それから数日後。

 武、麗華、実来の三人は個室居酒屋へ来ていた。

 

「へぇ……麗華先輩来たんですね。てっきり来ないと思っていましたよ」

「どうしてそう思ったのかしら? この私が、あなたみたいな小物を意識するはずないでしょ?」


 武の対面では、麗華と実来が口喧嘩のようなものをおっぱじめた。

 言っている意味はよく分からないが、武はこう思う。

 

(二人とも仲が良いんだなぁ)


 もしかしたら二人は仲が悪いのでは。

 この前の麗華の反応からそんなことを思っていたが、それは武の勘違いだった。

 

 二人はやり取りには遠慮がない。

 仲が良いからこそ、できるものだろう。


「そういえば麗華さんと実来ちゃんって、どんな仕事をしてるの?」

「私も桃川さんも総務部所属です。主な仕事は給与関係の処理ですね。桃川さんは今年入ってきた新卒で、私が教育係を担当しているんです」

「へー、麗華さんが教育係してるんだ!」


(会社での麗華さんか……どんな感じなのかな?)


 厳しいところもたくさんあるが、部下のことを大切に思っている情に厚い人。

 武の知っている麗華から想像すると、そういう人物像が浮かび上がる。

 

 どこまでもついていきたいと思えるような、理想の上司だ。

 

「聞いてよクロちゃん! 麗華先輩ってめっちゃ細かい上に、ものすごく厳しいんだよ! 人の皮を被っている鬼だよ!」


 実来が武へ身を乗り出す。

 麗華を指さして、涙目で苦しみを訴えた。

 

「それはあなたの仕事の覚えが悪いからでしょ? 自分の能力が低いからって、私を極悪人みたいに言わないでくれる? 非常に不愉快だわ」

「……私は普通ですよ。麗華先輩が特別に細かすぎるだけです」


 麗華へ言い放った実来は、乗り出していた体を元の位置へ戻す。

 鋭い視線を麗華へと向けた。


「それと、注意のときの言い方がキツすぎるんですよ。もう少し優しく言ってくれたら私だって素直に言うこと聞くのに」

「これでも私、十分優しく言っているつもりだけど?」

「自覚ないんですね。ほんと傲慢な人なんだから……! はー、やだやだ!」

「口を開けば文句ばかり……もう少し謙虚になったらどうなの?」

「麗華先輩こそ傲慢なのを自覚してください」

「ほんと生意気ね。一緒に仕事したくないタイプの人間ナンバーワンだわ」

「私も同じ意見です。すぐにでも教育係を変えてほしいですよ」


 激しい口論の応酬を繰り広げる二人。

 それを見て、武は微笑みを浮かべていた。

 

(本当にいいコンビなんだな)

 

 ここまでボロクソに罵り合えるのは、やっぱり仲が良いからこそだ。

 二人とも口では悪く言っているが、きっと心の中では互いを認めて信頼し合っているに違いない。


(もし仲が悪ければ、そもそも悪口を言い合ったりなんてしないだろうしね)

 

 なんという美しい友情だろうか。

 それをこんなにも間近で見られたことが、武は嬉しかった。

 

 麗華と実来の争いは、まだまだそこでは終わらなかった。

 

 麗華はビール。

 実来はチューハイ。

 

 二人は酒を浴びるように飲みながら、終電までずっと口汚く罵り合い続けた。

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