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【27話】すっぽかしの謝罪


「この前は約束をすっぽかしてしまい、本当にすみませんでした!」


 個室居酒屋で、武は対面に座る麗華へ深く頭を下げる。

 

 今日はやらかして以降、麗華と初めて会う。

 しっかりと謝っておきたかった。


 しかし麗華は、これをスルー。

 メニュー表を手に取ると、それを開いて武へ見せてきた。

 

「私ビール頼みますけど……武さんもどうですか?」

「ごめん。アルコールは苦手なんだ」


(いつもはこんなこと聞かないのに、急にどうしたんだ?)


 麗華と初めて個室居酒屋に来たときに酒を勧められたが、アルコールが苦手ということを伝えて断わった。

 それ以降彼女は一度も、酒を勧めてこなくなった。


 しかし今日は、一転。

 武が酒を飲まないと知っているはずなのに、なぜか誘ってきた。


「そうですか。……私とは飲んでくれないんですね」

「え?」

「いえ。なんでもありません」


 麗華の雰囲気はいつもに比べてとげとげしい。

 怒っているような気がする。


「あの……怒ってる?」

「怒ってませんけど。どうしてそんなこと聞くんですか?」


 早口でまくし立てるような言葉は鋭く、とげがあった。

 やっぱり怒っている。

 

 しかし本人が怒っていないと言い張る以上、これ以上の謝罪をしても逆効果だろう。

 であれば、場の空気を変えるしかない。

 

 麗華が喜びそうな話題を提供して、怒りを鎮めてもらうしかなかった。


「そういえば、麗華さんと実来ちゃんって同じ会社に勤めていたんだね! いやー、実来ちゃんから聞いたときはびっくりしちゃったよ!」


 麗華とは仲が良い――実来はそう言っていた。

 仲良しな彼女の話をすれば、機嫌だって治るかもしれない。


 そう思ったのだが。


「私も驚きましたよ。まさか武さんが、あの女と知り合いだったなんて……!」


 麗華の片眉がピクリと上がった。

 こめかみに青筋が立つ。

 

(なんか余計にキレてないか? いや、気のせい……だよな)


 とはいえ現状の武には実来の話をする以外に、麗華の機嫌を治す方法が思いつかない。

 武器がひとつだけである以上、気のせいと信じて話をさらに広げていくしかなかった。

 

「実来ちゃんにも言ったんだけど、今度三人で食事に行かない?」

「普通に嫌です」

「え、どうして?」

「嫌なものは嫌、それだけです。他に理由はありません」


 どうやら、しっかりとした理由は喋りたくないらしい。

 特別な事情があるのだろう。


「そっか。実来ちゃんの言う通りだな」

「……はい?」

「実来ちゃんに今と同じことを言ったとき、『私は別にいいけど、麗華先輩は来ないんじゃないかな?』って言われたんですよ」



(あの子……!)


 実来のその言葉の真意は『麗華みたいな小物なんかどうだっていい。でも麗華は違う。私のことを意識しまくってるから、きっと来られない』と、たぶんこんな感じだ。

 つまりは、喧嘩を売られたのだ。

 

(いいわよ……受けてやるわ!)


 ここで引き下がる訳にはいかない。

 それは敗北を意味する。あんな生意気女には絶対負けたくない。


「気が変わりました。ぜひ行きましょう」


 麗華は涼し気な笑顔を浮かべる。

 しかし心の内では、メラメラと激しい炎を燃やしていた。

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