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【22話】やりすぎな取材


「ありがとうね実来ちゃん。おかげで色々勉強になったよ」

「それならよかったよ」

「いい時間だし、そろそろお昼にしようか」

「うん! それじゃあパスタにしよ! 近くにおいしい店があるの!」


 アパレルショップを出た二人は、実来おすすめのパスタ屋へ向けて歩いていく。


 その途中。

 

 実来が急に足を止めた。

 真剣な顔をしている。


「急にどうしたの?」

「……ここは取材しなくていいの?」


 実来の視線の先。

 そこには、ラブがつく大人のホテルがあった。


「私、クロちゃんとなら…………いいよ?」


 実来が上目遣いで見つめてきた。

 

「え!? いや……いいって、え、あの……なにが!」

「……そんなこと私に言わせないでよ。いじわる」

「でも……えっ」


 唐突な展開に、どうしようもなく困惑してしまう。

 うまく言葉が出てこない。

 

 しかしそうなりながらも、武はなんとか頭を動かしていく。

 

(ほ、本気なのか!?)


 実来はしおらしい。

 つまりそれは、もうそういうことをする準備はできているということだ。

 

 据え膳食わぬは男の恥――そんな言葉が浮かんできてしまう。

 

(いやいやいや! だからって、ダメだろ! 取材だからってそれはさすがにやりすぎだ!)


 頭をぶんぶんと横に振る。

 

 そうしたら、

 

「あははははは!」


 実来が大きな声で笑ってきた。

 さっきまであんなにもしおらしかったのに、お腹を抱えて大爆笑。涙まで流している。

 

「クロちゃんかわいい~」


 つまりそう、武はからかわれてしまったのだ。

 

(なにやってんだ……俺)

 

 実来は武をからかうのが好きだ。

 少し考えれば、すぐに冗談だと分かったはず。それなのに、本気になってしまった。

 

 そんな自分が哀れで惨めで、情けなかった。

 

******


 街中へ買い物に来ていた麗華は、足を止める。


「クロちゃんかわいい~」


 聞き覚えのあるその声が、前方から聞こえてきたからだ。


「……桃川さんね」


 声の主――桃川実来のことを、麗華は知っていた。

 

 麗華と実来は同じ会社で働いている同僚だ。

 しかも、会社だけでなく部署も同じ。

 

 新卒の実来より一年先輩の麗華は、彼女の教育係を担当している。

 かなり密接な関係にあるといえるだろう。

 

 そんな二人の仲は、非常に険悪。

 ギスギスしていた。


 要は、実来は仕事の出来が甘いのだ。

 

 特別仕事ができないという訳ではないが、完璧にこなす麗華したらダメダメ。

 改善すべきところばかりなので、毎日注意をしている。

 

 しかしそれに対して実来は、反抗的な態度を取ってくる。

 

『麗華先輩は細かすぎるんですよ!』

 

 そう言って、ぜんぜん素直に聞いてくれない。

 

 実来はものすごく生意気だ。

 毎日イラついてしょうがない。

 

 それについて、何度武に愚痴ったことか。

 

 ここからでは後ろ姿しか見えないが、あれは実来だ。

 さっき聞いた、あのきゃぴきゃぴと煩わしい声。

 麗華は毎日、あれを会社で聞かされている。間違えようがない。

 

「隣にいるのは……男の人ね?」


 実来と同様に後ろ姿しか見えないが、男性っぽい。

 彼氏だろうか。


「真っ昼間からラブホテルの前で、なにやってるのよ。そんなことだから変な噂をされるんだわ」


『桃川実来は遊び好きで、いつも男をとっかえひっかえしている』

 会社ではそんな噂が流れている。

 

 それが真実かはどうだっていいが、彼女ならやっていたとしても別に驚かない。

 派手な見た目通りだ。

 

「せっかくのお休みの日なのに、嫌なもの見ちゃったわね。早く帰りましょう」


 クルっと背を向けた麗華は、実来とは反対方向に早足で歩いていった。

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