【20話】実来と街へ
武と実来は、街中へやってきた。
休日ということもあり、人通りはそれなりに多い。
二人はそこを、横並びになって歩いていく。
(実来ちゃん、いつもと雰囲気が違うな)
横にいる実来は、いつもの見慣れたブラウス姿ではない。
薄手の白シャツに、デニムショートパンツを穿いている。
いつもの社会人スタイルもいいが、こっちもいい。
ものすごく似合っている。
「ねぇクロちゃん。もっとデートっぽくしようよ!」
「……どういう意味?」
「それはねぇ……こうするんだよ!」
実来は武の左腕に両腕を回して、ガッチリとホールド。
体をぴったりくっつけてきた。
「おい、見てみろよ! あの女の子めっちゃかわいくね! タイプだわ~」
「おっさんとすげぇくっつきようだな」
「羨ましいおっさんだぜ」
通行人の男性グループから、羨ましがる声が上がった。
「実来ちゃん……みんな見てるし、離れてよ」
武だって男だ。
めちゃくちゃかわいい子に体をくっつけられているというこのシチュエーションを、もちろん嬉しいと感じている。
でもそれと同じくらいに、注目されて恥ずかしいという気持ちもある。
武の脳内で嬉しさと恥ずかしさが勝負したところ、今回は僅差で恥ずかしさが勝った。
「ダメだよ!」
しかし実来は、断固拒否
立ち止まって、クワッと目を見開いた。
「そういうリアルな感情が、クロちゃんの小説には足りないんだから!」
「おぉ! 確かにそうかも」
かわいい女の子と腕を組んで、恥ずかしい気持ちになる――デート未経験の武にとって、こんな経験は初めてだ。
今まで知らなかった。
きっとこういう体験が、小説のリアリティを高めてくれるに違いない。
「ありがとう実来ちゃん! さっそく大事なことに気付けた気がするよ!」
「ふふーん。もっと褒めてもいいんだよ~! てかさ、これからどこ行くの?」
「うん。それなんだけど、最初は服を見に行こうかなって。ほら、色々な服に着替えるヒロインを主人公が褒めるシーンって、結構定番でしょ?」
「アニメとかドラマでよく見るやつだね」
「そうそう! あれを体験してみたいんだよね!」
「いいじゃん! 楽しみ~」
武と実来は再び歩き出す。
そうしたら、ムニっ。
実来がさらに体を寄せてきた。
胸がおもいっきり腕に当たってしまう。
(……気づいてないのかな)
「実来ちゃん……その、胸が」
「……」
「俺の腕に、あの……胸がおもいっきり」
「……」
注意してみるも、実来はなにも答えない。
こういうことは言いづらいから言葉を濁していたが、もっとはっきり言わないとダメみたいだ。
(……いや、待て)
しかしここで、ある可能性に気付く。
武にリアルな体験をさせたくて、あえて実来はやってくれているのではないか――と。
きっと実来だって、恥ずかしいはずだ。
それでも、武のために我慢して頑張ってくれている。
(なんていい子なんだ!)
だったらここは、実来の頑張りに応えるべきだ。
余計なことなんて言うものか。
ちなみに実来はというと、
(せっかくのデートなんだし、ちょっとくらい大胆になってもいいよね……)
武の予想とはまったく別の考えで動いていた。
 




