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【19話】デートの取材


 実来が武の家に不法侵入してきたときから、一か月半。

 金曜と土曜の夜になると、彼女はほとんど毎回武の家へ来るようになった。

 

「お邪魔しまーす。クロちゃん、今日もいっぱい話そうね!」

 

 金曜日の夜。

 今日も実来は、武の家にやってきた。


「いらっしゃい」


 玄関に向かうと、実来がニコリと笑った。

 手にはコンビニのレジ袋を持っていて、その中には大量の缶チューハイが入っている。

 

(今日もいっぱい飲む気だな!)


 あの豪快な飲みっぷりが見られるのは嬉しい。

 さっそくワクワクしてきた。

 

 二人は寝室へ移動。

 ベッドに横並びで座って、会話をしていく。

 

 

 そして三時間くらいしたところで、

 

「おやすみー」

 

 実来は武のベッドで寝てしまった。

 このまま昼過ぎまで爆睡しているのだろう。

 

 ベッドを取られてしまった武だったが、驚きはしない。

 実来が来ると、いつもこんな感じになるからだ。もう慣れた。

 

 時間とベッドを奪われている武ではあったが、一度も文句を言ったことはない。

 

 実来の雰囲気は、どことなく麗華に似ている。

 それだからか、話をしていて楽しい。

 なにを考えているのかいまいちよく分からない女の子ではあるが、一緒にいることを心地いいと感じている。

 

 いつ家に入ってきてもいいようにと、合鍵を渡しているくらいだ。

 つまり武はそれくらい、彼女のことを気に入っていた。

 

 


 翌朝。

 リビングの敷布団の上で、武は目を覚ました。


 いつもはベッドで寝ているのだが、今は実来に使われてしまっている。

 彼女はまだ、ベッドで爆睡しているだろう。

 

 この敷布団を武が買ったのは、つい最近のことだ。

 用途は、実来が来たときの寝床。


 まさか一緒のベッドで寝る訳にもいかないので、武は敷布団を使っている。


 ちなみに実来は、「クロちゃんが一緒のベッドで寝てても気にしないよ~」なんて言っていたが、たぶん冗談だろう。

 それにもし本気だとしても、武にそんなことをする勇気はない。

 

 女の子と一緒のベッドで寝るなんて無理だ。

 心臓がバクバクして一睡もできないと思う。


「よいしょっと」


 体にかけていたブランケットを払って、武は立ち上がる。

 敷布団とブランケットを、クローゼットへしまった。

 

 それから洗面を済まして、キッチンへ。

 朝食を作り始める。

 

 もちろんそのときには、実来の分も作る。

 まだ起きないであろう彼女の分は、ラップをかけて冷蔵庫へ入れた。

 

 実来が来るたびにこうしているので、もうすっかり慣れたものだ。

 

「ごちそうさま」

 

 朝食を食べ終わった武は、リビングの隅にある小さなテーブルへ向かった。

 そこの上にある、パソコンを起動する。

 

 今日は土曜日なので、丸一日休み。

 ということで、趣味である小説執筆をしていくことにした。


 ちなみに、書くだけでは終わらない。

 書いた作品を、インターネットの小説投稿サイトへ投稿している。

 

 かれこれもう十年ほど、武はそういう活動を続けていた。

 

「おはよークロちゃん」

 

 実来があくびをしながら近づいてきた。

 いつもは昼過ぎまで寝ているというのに、今日はずいぶんと早いお目覚めだ。

 

 手にはサンドイッチを持っている。

 冷蔵庫へ入れておいた実来の朝食だ。

 

「なにしてんの?」

「小説を書いてるんだよ」

「そんなことしてるんだ! みせてみせて!」

「うん」


 立ち上がった武は横にずれて、イスを実来に譲った。

 

 実来はサンドイッチを食べながら、小説を見ていく。

 

 その眼差しは、いたって真剣。

 一言も喋らず、視線とマウスを操作する手を動かしていく。

 

「どうかな?」

 

 十分ほどして、背中越しに声をかける。

 集中して見ているところを悪いとは思うが、そろそろなにかしらの反応が欲しかった。

 

 振り向いた実来が、武を見上げた。

 少し難しい顔をしている。

 

「難しい言葉が多くて読みづらいかも。わざとそうしてるでしょ? せっかくストーリーは面白いのに、もったいないよ」


 実来のご指摘はごもっとも。

 投稿サイトの読者感想欄にも、『厨二すぎて無理でした』『まともに読ませる気がない』『読んでいて疲れる』といった声を何度かいただいている。

 

 そのせいか、武の小説はまったくといっていいほど人気がなかった。

 今の厨二スタイルをやめれば、少しは人気が出るのかもしれない。

 

 しかし武は、やめる気がなかった。

 

 まったくといっていいほど人気がない武にも、話を更新するたびに毎回長文で感想を送ってくれる熱心なファンがたった一人だけいる。

 そういう人が一人でもいる限り、今の厨二スタイルを崩す気はなかった。


「あと気になったんだけどさ、どうしてデートシーンの描写だけ薄いの? 戦うシーンとか無駄に長いのに、デートのところだけ文字数少ないじゃん。なんで?」

「それは……俺に経験がないから」

「え、なんの?」

「だから……デートのだよ。俺はデートしたことがないんだ!」


(こんなこと言わせるなよ!)


 年下の女の子にデート未経験を告白するとは、なんたる羞恥プレイだろうか。

 穴があったら入りたい。


「へ~~~え。クロちゃんって女の子とデートしたことないんだ」


 立ち上がった実来は、武の顔を覗き込むようにして近づけてきた。

 口元はニヤニヤしている。


(すごい嬉しそうだけど……これってバカにされてるんだよね?)


 その歳までデートしたことないとかウケるんですけど!

 とか、思われているのだろう。


「じゃあ今から取材に行こうよ! 今日一日だけ、私がクロちゃんの彼女になってあげる!」


 武は目を白黒させる。

 実来がなにを言っているのか、さっぱりわからない。


「私、一度戻って着替えてくる! それまでに準備しておいてね!」


 実来は弾んだ足取りで帰っていってしまった。

 愕然としている武は、リビングに置き去りにされてしまう。


「……ほんと、なに考えているんだか分からない子だな」


 実来の行動は読めない。

 一度でいいから頭の中を覗いてみたいものだ。

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