【17話】二人を仲直りさせるために
昼食を振る舞っている途中で麗華に帰られてしまったあの日から、二日後。
武、麗華、香奈の三人はファミレスに来ていた。
「二人とも来てくれてありがとうね」
対面に座っている麗華と香奈へ、武は感謝を伝える。
今回の場を企画したのは武だ。
麗華が機嫌を悪くしたのは、香奈と喧嘩しているから。
そう思った武は二人を仲直りさせるために、今日の場を設けたのだ。
(やっぱり俺の思っていた通りだ)
麗華と香奈は、互いに睨み合っている。
次の瞬間にも掴み合いが始まってしまいそうな、一触即発な危険な雰囲気。
武の想像通り、二人はおもいっきり喧嘩していた。
(それにしても、かなり怒っているな)
睨み合っている二人は、互いにありったけの敵意をむき出しにしている。
これを仲裁するのは簡単なことではないだろう。
香奈を睨む麗華は、それはもうありえないくらいにイライラしていた。
(どうしてこの子までいるのよ!)
『明日の夜、ファミレスに行きませんか?』
昨日、武からそんなトインが来た。
「やったわ!」
スマホを見た瞬間、麗華は歓喜。
急に帰ったことをちゃんと謝りたかったし、それにだ。
武から誘ってくれたのは、今回が初めてだったのだ。
(黒崎さんとの距離が縮まったわ!)
麗華はおもいっきり舞い上がっていた。
ここへ来るのが楽しみでしょうがなくて、今日の仕事は手につかなかった。
それなのに、余計な女がいる。
(二人きりだと思っていたのに、なによこれ!)
しかもその相手は、麗華が家を飛び出す原因となった憎き女。
台無しにもほどがある。イライラしてしょうがない。
そうなっているのは麗華だけではない。
香奈も同じだ。
怒りに歪みきったその顔を見れば分かる。
きっと麗華と同じようなことを思っているに違いない。
「俺さ、二人には前みたく仲良くしてほしいんだ。だから喧嘩の原因を、話してくれないかな? おせっかいかもしれないけど、力になりたいんだ!」
「「え?」」
麗華と香奈は、同時に疑問の声を上げる。
(……もしかして黒崎さん、勘違いしているのかしら?)
麗華が急に帰ってしまった原因は、香奈と喧嘩しているから。
そう考えた武は二人を仲直りさせるために、今日の場を企画してここへ呼んだ。
たぶん、そんなところだろう。
原因が香奈という部分は合っているが、根本が間違えている。
香奈とは仲良くない。初めて会ったときからずっと嫌いだし、向こうもそうだ。
修復する仲がそもそもない以上、仲直りはできないのだ。
「黒崎さん、それは――」
勘違いですよ――そう言おうとしたところで、麗華は言葉を止める。
正直に言うのもいいが、もっといいことを思いついた。
「お気遣いありがとうございます。でも、安心してください。香奈ちゃんとはもう仲直りしましたから」
「は?」
横から威圧的な声が聞こえてくるが、そんなノイズは笑顔でスルー。
「香奈ちゃんがあまりにもワガママだから、つい喧嘩しちゃったんです。でも私の方から折れて謝ったら、許してくれました。おかげで今はもう仲良しです!」
余裕のある大人アピールを披露。
これできっと、武の評価は上がったはずだ。
ついでに、香奈の評価を下げておく。
一石二鳥のいいとこ取り作戦だ。
「そうなんですね。いやぁ、それを聞けて安心しましたよ。水島さん、折れてくれてありがとうございます。香奈ちゃんも仲直りできてよかったね」
(よし! うまくいったわ!)
麗華は上がり、香奈は下がった。
作戦は大成功。
麗華は優雅に微笑んでいるが、その実はドヤ顔したくてたまらない。
(ダメ……耐えるのよ)
ここでそれをすれば台無しだ。
必死に我慢する。
チラリと横へ視線を向けると、香奈は唇を噛んでいた。
だしに使われたのが悔しくてたまらない、そんな顔をしている。
(いい顔してるわね。それなら……!)
「黒崎さん。先日は私をお家へ呼んでくださって、ありがとうございました! お料理とってもおいしかったです!」
さらに仕掛けてみる。
(もっと悔しがるといいわ!)
悔しさに磨きがかかっていることを期待して、麗華は横を見る。
「……え」
瞳に映る光景は、予想していたものとは大違い。
大いに悔しがっているはずの香奈は、なぜか不敵に笑っていた。
 




