【16話】不機嫌になった理由
「私は一生コンビニ弁当で生きていきます。コンビニ女になります」
さっきまであんなにも高かった麗華のテンションが、ガクンと急降下。
声色は鋭く尖って、冷え切っている。
(怒ってる……よな? でも、なんでだ?)
地雷を踏んでしまったようだが、どれか分からない。
武はひたすらに困惑する。
「黒崎さん、一つアドバイスをしてあげましょう。女性といるときは、他の女性の話をしない方がいいですよ」
席を立ち上がった麗華は、肩にかかる黒髪を手でバサリと払った。
細めた瞳で、ほとんど睨みつけるようにして武を見る。
「お料理ごちそうさまでした。それでは失礼します」
頭を下げた麗華は、不機嫌そうに足音を鳴らしながらソファーへ向かう。
ソファーの上に乗せていた大きなハンドバッグをぶん取ると、家から出ていってしまった。
「水島さん、急に機嫌悪くなっちゃったな……。どうしたんだろう?」
うーん、と考えてみる。
(あ、香奈ちゃんか!)
麗華の機嫌が悪くなったタイミング。
それは、香奈の名前を出したあとだ。
「きっと二人は喧嘩中なんだな! 仲直りさせないと!」
二人は仲良し。
しかしだからこそ、喧嘩することだってあるだろう。
(こういうときこそ、俺の出番だな!)
二人の仲を仲裁できるのは、共通の知り合いである武だけだ。
******
「……やってしまったわ」
帰りの電車に揺られている麗華は、がっくりと肩を落としていた。
死んだ顔で、それはもう深く深く落ち込んでいた。
手に持っている大きなハンドバッグをギュッと握る。
この中に入っているのは、お泊まりセット。
武の家に泊まる気満々だった麗華は、昨日ウキウキで準備した。
しかし、それもすべて無駄となってしまった。
「黒崎さん、楽しそうだったな……」
香奈のことを話す武は生き生きとしていて、ものすごく楽しそうだった。
あんな顔を見たのは初めてだ。香奈のことを大切に思っていることが、よく伝わってきた。
それを見たら、黒い感情が湧き上がってきてしまった。
どうしようもなくイラついてムカついて、我慢できなくなった。
それでつい、冷たい態度を取って家を飛び出してきてしまったのだ。
「私、あの人のこと好きなのかな?」
分からない。
でも、独占欲のようなものはある。
他の女性の話をしないでほしい、見ないでほしい。
麗華のことだけを、ずっと考えていてほしい。
最近では、そんなことを思うようになっていた。
「これって恋愛感情なのかな? ……ダメ、分からないわ」
こんなにも強い独占欲を感じるのは初めてだ。
元カレのことは好きだったが、ここまでのものは抱いたことはなかった。
「でも、絶対変に思われたよね」
今日のことをちゃんと謝りたい。
でも、どんな顔をして会えばいいのか分からない。
麗華は深いため息をついた。
 




