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【15話】麗華が家に来る


 その日の夜。

 武と麗華は、個室居酒屋へ来ていた。


「ここのお店、今度からランチ始めるらしいですよ」

「料理おいしいですし、人気出そうですね」

「そういえば黒崎さんって、お昼はいつもどうしているんですか?」

「だいたいはお弁当ですね」

「コンビニ弁当ですか?」

「いえ、自作です」

「黒崎さんって料理できる人なんですね!」


 感心する麗華に、武は苦笑いを浮かべる。


「大したものは作れませんよ。でも、そうですね……普通くらいにはできると思います」


 食事はほとんど自炊しているということもあって、経験自体は豊富。

 プロレベルの腕前とはいかないが、そこそこには作れる自信がある。


「黒崎さんの作った料理、食べてみたいです!」

「もしよかったら家に食べに来ます?」

「ぜひ行きたいです!」


 腰を浮かした麗華は、興奮気味に身を乗り出した。

 瞳をキラキラ光らせる。


(お家へお呼ばれしちゃった! 嬉しいわ!)

 

 

(俺の作った料理を、そんなにも楽しみにしてくれているんだな! よーし、それなら頑張らないと!)


 拳を握りしめた武は、たっぷりと気合を注入する。

 麗華の思惑など、これっぽっちも理解していなかった。

 




 土曜日、正午。

 

 以前約束した通り、麗華が昼食を食べに武の家へやってきた。

 手には大きなハンドバッグを持っている。

 

「わぁ……! とっても綺麗なお部屋ですね!」

 

 リビングを見た麗華は、感心したように声を上げた。


 お客さんが来るということで、今日はいつもより丁寧に掃除した。

 さっそくその成果が出てくれたようで嬉しい。

 

「今から料理を作るので、水島さんはその辺で遠慮なくくつろいでいてください」

「お気遣いありがとうございます」


 丁寧に頭をさげた麗華は、ソファーへ腰かけた。

 お上品に座る姿は、まるでどこかのお姫様みたいだ。

 

(やっぱり綺麗だな……って、そうじゃない! 料理しないと!)

 

 パンパンと軽く頬を叩いた武は、キッチンで料理を始める。

 

 メニューはカルボナーラ。

 武の一番の得意料理だ。

 

 

「お待たせしました」


 麗華へ声をかけた武は、出来上がったカルボナーラを二つ、テーブルに乗せた。

 いつも通り、そこそこのクオリティーに仕上がっていると思う。

 

「はわぁ……!」

 

 テーブルへやってきた麗華は、カルボナーラを見て感嘆の声を漏らした。

 

「絶対おいしいやつですよ、これ! 食べる前からわかります!」

 

 自信たっぷりに語った麗華は、ウキウキで席へ座った。

 早く食べたくて待ちきれない、そんな顔をしている。

 

 麗華の対面に腰を下ろした武は、スッと手を差し出した。


「冷めないうちに食べてください」

「いただきます!」

 

 フォークを手に取った麗華は、パスタをくるくる。

 そして、ぱくり。


「おいしー!!」


 片手を頬に添えた麗華は、満面の笑みを浮かべた。

 

(気に入ってもらえてよかった)

 

 麗華はものすごく喜んでくれている。

 そういう顔をしてくれるなら、料理を作った甲斐があるというものだ。


「お口に合ったみたいでよかったです」

「今まで食べたカルボナーラ史上、間違いなくナンバーワンです! お店のよりもずっとおいしいです!」

「あはは、それは褒めすぎですよ」

「本気ですって! 毎日食べたいくらいですよ!」


 大興奮でべた褒めしてくれる麗華に、武は照れ笑い。

 お世辞でそう言ってくれているだけだろうが、そんなにも褒められるとくすぐったくなってしまう。

 

「黒崎さんって、すごい料理テクニックを持っていらっしゃるんですね! ……私も教えてもらおうかな」


 チラッ。

 麗華は反応を伺うかのような目で見つめてくる。


「構いませんよ」

「ほんとですか! 嬉しいです!」


(家に通う口実、ゲットだぜ!)


 麗華はテーブルの下でガッツポーズ。

 これで香奈に、大きく差をつけることができた。

 

「あ、そのとき香奈ちゃんも一緒に呼んでいいですか?」

「…………はい?」

「実は香奈ちゃんにも、『料理を教えてほしい』って頼まれているんですよね。たぶん、先輩に作ってあげるんだろうなぁ。ああいう健気な子って、なんだか応援してあげたくなっちゃいますよね!」


 仕事にも恋にも、香奈は常に全力。一生懸命だ。

 

 もう一年ほど香奈のことを間近で見ていた武は、それをよく知っている。

 こんなにも親身になってしまうのも、当然といえた。

 

 優しい性格をしている麗華なら、この気持ちを分かってくれるはず。

 そう思ったのだが、

 

「やっぱりいいです。急に料理する気なくなりました」


 返ってきたのは予想外のものだった。

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