第9話:夏の陣!征夷大将軍、海へ行く
2作目でござる。毎日エピソード更新する所存。
夏休み――それは戦である。
課題という名の討伐戦。親戚という名の同盟交渉。冷房の有無をめぐる家庭内政変。
そして、田所将宗(自称・征夷大将軍)にとっては、“領土拡大の好機”だった。
「海を制する者、令和を制す……!」
そう語る将宗が今、目の前にしているのは――海水浴場である。
「将軍、なぜ水着にまで“家紋”を刺繍したんですか……」
隣で日焼け止めを塗る藤宮柚葉が、やや引き気味に尋ねる。
「戦において、威信は装いに宿る。水辺の戦もまた然り」
「あとで絶対、注目されるよそのフンドシ風パンツ……」
一方、風魔はすでに穴を掘っていた。
「殿、陣地構築完了! 砂の砦“風魔城”、築きました!」
「よいぞ風魔! これぞ“砂上の楼閣”!」
「その言い回し、縁起悪いからやめて!!」
そんな3人の前に、パラソルの陰から声がかかる。
「田所ー! 波、乗ってみないか?」
――五十嵐士門。桶狭間の戦いを経て、今や“海の武将系YouTuber”へと進化していた。
手にはGoPro。すでにこの旅行を“【将軍コラボ】幕府、夏の陣!”として投稿する気満々である。
「うむ、将軍として民の娯楽を体験するのも一興。いざ、波乗りへ!」
――10分後。
「殿!!波に飲まれた!? 殿ーーーーッ!!」
「……うむ、政も、海も……甘くはなかった……」
波打ち際で砂まみれになりながらも、田所はキラキラした目で呟いた。
かくして、幕府海水浴軍団はひと夏の合戦を終えた。
その日のブログ更新タイトル:
【夏の政道】風魔城崩壊、将軍溺れ、五十嵐バズる
コメント欄:
「田所将宗 in 海、需要あったwww」
「風魔の穴掘りが想像以上にガチ」
「なんか、尊い夏だった……」
そして翌日――
風魔「殿、夏休みの宿題……何一つ、終わってません……!」
田所「……戦とは、かくも残酷なものよ」