表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

『短編小説』コーヒーと、日曜と、嘘つきな猫

作者: taku

商店街の奥に、小さな喫茶店がある。

名前は《スロウ》。看板は古びているけど、扉を開けるとコーヒーの匂いがふわりと鼻をくすぐる。


日曜の昼下がり、風邪明けの僕は、まだ本調子じゃない身体を引きずって、その店に入った。


「いらっしゃい。体調、まだ本調子じゃないでしょ」


迎えてくれたのは、店主の小野さん。口数は少ないけど、やたらと人のことに気づく人だ。


「どうして分かったんですか?」

「顔色。あと歩き方。お腹壊した人って、無意識に歩き方変わるのよ」


見破られすぎてて、ちょっと怖い。


「今日の気まぐれブレンドはどう?」

「…おとなしくミルク多めのカフェオレでお願いします」


ソファに沈んでいると、いつの間にか隣に猫が座っていた。

黒と白のまだら模様で、片目だけ金色。名前は「シマ」と言うらしい。


「その猫、人の嘘が分かるのよ」


カフェオレを置きながら、小野さんが言った。

冗談かと思ったけど、シマはじっと僕を見つめたまま、なぜかぴくりと耳を動かした。


「……ほんとは、今日、家で寝とけって言われてたんです。彼女に」

「ふうん。じゃあ、その猫にバレたわね」


シマが小さく「ニャ」と鳴いた。


そのあと、シマはテーブルに乗り、器用に店内に置かれた紙ナプキンを一枚、前足で僕の方にずらした。


『ちゃんと帰って寝ろ』と、手書きで書いてあった。


「それ、今朝私が書いたメモ。なんでこいつ、それ持ってきたんだか…」


ふと見ると、シマの片目が、まるで「分かってたよ」と笑ってるように光っていた。


僕は苦笑いしながら、半分ほど飲んだカフェオレを見つめる。


「…いいお店ですね、ここ」

「嘘でも嬉しいわ」


小野さんがそう言ったあと、シマがまた小さく「ニャ」と鳴いた。


その声が、なぜか少し、眠気を誘った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ