辛辣令嬢と夜会②
開国記念の夜会も順調に進み、皆がダンスを踊った後は、お喋り中心の時間となった。
この会場で恋人を見つけたい者や、繋ぎを作りたい者達はまだダンスに興じているが、ウィリアムと二回連続で踊ったシーラは、自身の推しであるジクトールとも踊り、十分に楽しんだ後、休憩の為会場に設置されている席へと着いた。
ウィリアムは席までシーラをエスコートし終えると、友人たちとの会話を楽しむ為、そちらへと向かう予定だ。
「シーラ、もし誰かに誘われても絶対に踊らなくていいからね」
「はい、私はウィリアム様とジクトール様としか踊りません!」
「うん、やっぱりそこでジクトールの名を出すんだね……」
相変わらずなシーラの言葉に苦笑いを浮かべながら、ウィリアムは友人の下へと向かっていった。
そんなところへ同じく婚約者としてのダンスを終えたジェームズとエブリンがやって来て、シーラに祝いの言葉をかける。
「シーラ、婚約のお披露目おめでとう。そのドレス凄く似合ってるね」
「シーラ、おめでとう。貴女の友人としてとても嬉しいですわ」
「有難うございます。ジェームズとエブリンも素晴らしいダンスでしたよ。それにお二人の衣装もお互いの色に合わせていてとても素敵ですわ」
エブリンの髪色であるグレーをメインに使い、ジェームズの髪色の黄色を合わせた可愛らしい衣装。
エブリンのチャームポイントであるドリルな髪には黄色のリボンがついていて、どっからどう見てもジェームズと相思相愛であることが分る衣装だ。
「シーラ、お疲れさん、注目されて大変だっただろう?」
「もうサイラス様、先ずはお祝いを仰って下さいませ」
「おっと、そうだった。シーラ、お披露目おめでとう」
「シーラ様、ご婚約のお披露目おめでとうございます」
ジェームズとエブリンが見つめ合いフフフと照れ合っていると、サイラスとブレンダ夫妻がやって来て、こちらもシーラにお祝いを言ってくれた。
「サイラス、ブレンダ様、有難うございます。お二人にも祝って頂けて嬉しいですわ」
新婚の二人は、今日は薄紫色の衣装で合わせている。
エスコートもすっかり慣れた様子で、ジェームズとエブリンたちとは違い恥ずかしがった様子はなく、当然といった様子でシーラの横の席へと並んで座る。
「シーラ様、狐の会ではあの後大丈夫でしたか?」
賑わう会場内、ここでの話は誰かに聞こえそうもないのだが、そこは気遣いが出来るブレンダだ、心配気な表情を浮かべ小さな声で話し掛けてきた。
「はい、皆さまのお陰で狐の会ではとても楽しく過ごせました。あの時は護衛にエヴァもおりましたし、何も問題無かったですよ」
ニコリと笑うシーラを見て、ヴィオラの噂を聞いていただろう皆がホッとする。
お花摘みに向かった時の出来事も、皆知っているようだった。
狐の会の後、エヴァがウィリアムに 【ヴィオラ・スクワロル】 の行動を報告した。
上司に仕事内容を報告するのは当然のことなので、それは何の問題もないし、王家の間者として当たり前の行動である。
ヴィオラ・スクワロルは自身が子爵になり、恩赦で王都への出入りも許可されたことから、ここ数週間調子に乗っていた。
シーラへの暴言がそれを何よりも表していて、結果その後の行動を王家に見張られることとなった。
そして王家が出した結論は、この国にスクワロル家は必要ない、だ。
シーラとウィリアムの結婚式が終われば、スクワロル家はお取り潰しとなるだろう。
そもそもこの度の恩赦は、スクワロル家が反省しているのかを王家が見定めるためのものでもある。
なのに何を誤解したかは分からないが、ヴィオラは事件自体が許されたと思っているようだった。
スクワロル元伯爵が跡取りになる娘をきちんと育てなかった結果がこれだ。
最悪の結果と言えるだろう。
彼女の下に婿養子に入った夫が、王家の紐付きだとスクワロル家の者は誰も気が付いていない。
王家に見放された家と縁を作りたいと思う家がある訳がないのだ、少しぐらい思う所があってもいいはずだった。
けれどスクワロル家の者は今もまだ自分達が優遇されて当然だと思っている。
悪女好きなシーラとしてもこれは残念な結果であった。
「ヴィオラ様も間もなく大人しくなるでしょうね……」
第二王子の婚約者であるシーラがそう言えば、皆何かを察したのだろう、真剣な顔で頷いて見せる。
(悪女の結末は厳しいものが多いのです……)
悪女歴伝をこよなく愛するシーラは、数々の有名な悪女達を知っている。
中には幸せになった者もいるが、その多くが悪女として花咲いた後、厳しい余生を歩んでいる。
簡単に首を落され、命を絶たれた方が幸せだったと思えるような、悲惨な人生を歩んだものだっているのだ。
ヴィオラがこのまま態度を変えなければ、それはそれは辛い未来が待っているだろう。
もし今すぐにでもヴィオラが反省をし、態度と心を入れ変えることが出来れば、平民に落とされるだけで済むかもしれない。
友人たちとの会話を楽しみながら、面白い悪女であるヴィオラについて、想いを馳せるシーラだった。
「私、お花を摘みに行って参りますね」
堂々とトイレに行くと宣言したシーラを、皆が苦笑いで見送る。
夜会も終盤に差し掛かり、間もなくシーラは王族の一員として会場に居る皆に挨拶をする場に立たなければならない。
その準備の為、ちょっとおトイレに。
そう思っての行動だったのだが、面白い魚が釣れたようだった。
「まさか貴女みたいな子が本当にウィリアム様の結婚相手になるとはねー。ウィリアム様ったらこんなちんちくりん、どこが良いのかしら? 趣味を疑うわぁ」
トイレにて用を済ませ、手を清めていたシーラの後ろ、待っていたらしいヴィオラが声を掛けて来た。
「お姉様は私には負けるけれど、見た目はその辺の令嬢よりもずっとマシだったの。それなのに貴女はその辺にいたら埋没するレベルの見た目よねぇ? 顔の作りもそうだけど、体も貧弱だし、持っている色合いだって平凡な茶色と緑でしょう? ウィリアム様ってば、本当にこんな子のどこが良かったのかしら……? ああ、きっと姉の件があったから他に候補者がいなかったのでしょうねー。本当にウィリアム様が可哀想だわぁ」
自由に結婚相手を選べないなんてお気の毒よねーと言って、ヴィオラはクスクスとシーラを見下ろして笑う。
その姿が幼い頃に読んだ絵本の悪女そのもので。
その上ヴィオラの悪女らしい容姿も相まって、嬉しさからシーラはふるふると震えてしまう。
「あーら、本当の事を言われて泣きそうになっているの? そんなことでこの先王子妃が務まるのかしらぁ?」
入口のカギを締め、ヴィオラが一歩一歩シーラに近付いてくる。
ぷっくらと色っぽく膨れた魅力ある口元が弧を描き醜く歪む。
この子をどうしてやろうか?
まるでそう言っているようなその仕草に、シーラは歓喜に震えていた。
「ねえ、シーラ・ランツ。貴女、ウィリアム様の婚約者を辞退しなさいよ」
シーラの耳元でヴィオラが息を吹きかけながらそう囁く。
その無駄に色気ある仕草に、シーラは興奮でビリビリと揺れる。
「我が家を陥れた貴女が幸福になるなんて私は許せないの……それに王子であるウィリアム様と結婚して貴女が王族になるだなんて、絶対に許されないことだし、この私が許せないのよね!」
悪女の行動に興奮し震えるシーラを、ヴィオラは憎々し気に睨んできたのだった。
おはようございます、夢子です。
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