辛辣令嬢と夜会①
ズーラウンド王国、王城の一角。
そこは煌びやかなシャンデリアが輝く大ホール。
今宵ズーラウンド王国では開国記念の夜会が開かれ、国中の貴族たちが着飾り、華やかな装いの元集まっていた。
「国王陛下並びに王妃殿下、王太子ご夫妻、第二王子殿下並びに婚約者のシーラ・ランツ様、御入場でございます!」
声高々に名を呼ばれ、シーラがウィリアムにエスコートされ夜会の会場へと足を踏み入れる。
胸を張りながらも静々と品を保ち、優秀な成績で妃教育を終えたシーラは、未来の王子妃として堂々とウィリアムの隣に立つ。
どこにでもいる普通の女の子だろうとそんな嫌味を言われ、美丈夫で優秀なウィリアムの相手には相応しくないのでは? とそんな意地の悪い噂も立ったことのあるシーラだが、ウィリアムの横で優しく微笑むその姿は、まるで菜の花のように可憐で可愛らしく、会場中の皆の目を引いた。
時折ウィリアムと微笑み合い嬉しそうにするその姿は、お似合いの恋人同士そのもので、歳が離れていても仲睦まじいのだと、流れていたあの噂は本当だったのか! と納得する者が殆どだった。
(むふぅ! ついに私も女傑の仲間入りですわ!)
まさか目の前の儚くも可憐な少女が、女傑入りに興奮しているなどと誰が気付くだろうか。
夜会に集まる貴族たちを見て、猫のように釣り上がった目が獲物を狙うかのように爛々としているなど、シーラを良く知る者にしか分からない。
「シーラ、凄く嬉しそうだね」
ウィリアムの伝家の宝刀王子笑顔を前にシーラは小さく頷く。
「はい、やっとウィリアム様の妻になるのはこの私だと認められたのです。嬉しくて仕方がないのです」
ふんすと小さく鼻息を荒げ答えるシーラ。
その言葉と様子が余りにも可愛くって、王子笑顔も最高位の微笑みに変わった。
「シーラが僕の妻になる事を喜んでくれて嬉しいよ」
ウィリアムは肘に乗せているシーラの手を優しくポンポンと叩く。
本当は頭をなでなでとしたいところだけど、今は夜会の会場だ、そこは我慢する。
遠くで王子様に憧れる年頃の乙女たちの悲鳴が聞こえた気がしたが、ウィリアムもシーラもそんなものは気にならない。
お互いが相手に夢中。
シーラとウィリアムはそれを体現していた。
あの子になら勝てるかも。
そう思っていたウィリアムの愛妾を狙う女の子達は、二人の姿を見てガックリと肩を落としたのだった。
「今宵、開国記念の夜会を開く。そこで間もなく婚姻を結ぶ第二王子ウィリアムとシーラ・ランツ嬢のお披露目をしたいと思う。二人の幸福を祈り、皆、拍手を持って祝って欲しい」
トウモロコシ国王の挨拶の最後に、ウィリアムとシーラの紹介がされ、壇上にて二人は一歩前に出ると皆に向け頭を下げる。
そして祝福する大きな拍手の後、音楽が鳴り出し、ウィリアムとシーラは会場中央に進み、婚約者のお披露目のダンスを披露する。
「シーラ、緊張していないかい?」
「はい、ダンスの練習は沢山してきましたので大丈夫です」
学業は最優秀でも運動神経はイマイチなシーラ。
なのでダンスの練習には人一倍力を入れて来た。
シーラは女傑になるためならば努力を惜しまない。
拷問だって鞭打ちだって喜んで耐えて見せるだろう。
きっとそんなところがガブリエラに認められ、王子様をゲット出来たのだろうが、シーラ・ランツがその程度で満足するはずかなかった。
世界一の女傑になる為、どこまでも努力し続けた。
なので今宵踊るダンスには自信があった。
指の先、足の捌きも全て完璧。
ダンスを踊るシーラに隙はない。
ただでさえ美しい王子と有名なウィリアムの相手なのだ。
不甲斐ないところを見せるわけには行かない。
ヒールが削れるほど練習をし、父アティカスが止めるのも無視し練習に明け暮れた。
その甲斐もあって、王家の一員としての立場を見せつけるダンスを、シーラは会場にいる全員に見せつけたのだ。
終わってみれば当然拍手喝采。
皆がシーラを未来の王子妃として褒め称えてくれた。
「ウィリアム様、これで敵を味方に引き込めましたよ!」
ドヤ顔を浮かべ微笑むシーラを、頼もしい婚約者だと感じたウィリアムだった。
「ウィリアム様、シーラ様、大変すばらしいダンスでしたね」
ダンスを終えた二人に 「ハハハハッ」と野太い声で声を掛けてきた人物は、子熊将軍ことジクトール・グリズリー。
この国の英雄ヘクトールの息子だからではなく、その実力から子熊将軍と呼ばれ騎士たちの憧れの人でもあるジクトール。
そしてそんな彼は、英雄好きシーラとウィリアムの師匠でもある人物だった。
「ジクトール殿」
「ジクトール様」
貴族令嬢らしい品のある笑顔を浮かべていたシーラが、ジグトールの登場でとろけるような笑みを浮かべる。
周りの皆はウィリアムとのダンスを褒められたシーラが照れていると思っている様だが、ウィリアムには分かっている。
ジクトールの名を呼んだシーラの語尾にはハートが絶対についていたし、着飾り英雄らしい騎士姿になったジクトールは、男性であるウィリアムから見てもカッコ良く。
こよなく英雄を愛するシーラの琴線に触れることは間違いなくて、うっとりとするシーラを目の前に、負けた気分になるウィリアムだった。
「うんうん、お似合いの二人だ。師匠としても鼻高々ですよ」
またハハハハッと笑うジクトールの言葉に、シーラが「まあ」と言って頬を染める。
自分の王子スマイルには何の反応も見せないシーラだが、ジクトールの笑いには簡単に頬を染めるのだ。理不尽過ぎて泣きたくなってきた。
「ジクトール様、私、ウィリアム様を生涯を賭けてお守りいたしますから、安心して下さいませね」
「シーラ……」
気合いを入れジクトールに宣言するシーラ。
そう言えばシーラは 「自分の屍を越えて行け」と言うタイプだった。
あの頃は小さくて心配だったけれど、今は生涯を賭けるという言葉がとても嬉しい。
「ハハハッ、流石シーラ様だ。うんうん、私の弟子は勇ましいなっ! 良かったですね、ウィリアム様。生涯唯一の護衛を手に入れたようですよ」
「……ジクトール殿……」
ジクトールに揶揄われ、嫉妬していたウィリアムはなんだか恥ずかしくなる。
けれどシーラが自分を一番に考えてくれていることが嬉しくて、頬に熱が集まるのを感じた。
「ウィリアム様は私の大切な方ですからね。絶対に失う訳にはいかないのです!」
ふんす! と気合いを入れ、貴方が大切だとウィリアムに宣言するシーラ。
自分はずっと茹でたトウモロコシぐらいだと思っていたけれど、どうやらシーラは自分をそれ以上の存在だと思ってくれていたらしい。
嬉しくて緩む口元をどうにか誤魔化す。
泣きたくないが、何だか目頭も熱くなっている気がする。
目の前にいるジグトールが揶揄うかのようにニヤニヤしているのが分かるが、今はそれどころではない。
シーラの突然のデレの前に、王子らしさを失いそうだ。
「ウィリアム様、世界一愛していますわ」
「シーラ!」
もうダメだった。
嬉しくて止められない。
夜会の会場だということも忘れ、ウィリアムはシーラをギュッ抱きしめた。
ジクトールが 「熱い熱い! ガハハハッ」 と笑う声が会場に響くが、ウィリアムの耳には届かない。
「シーラ、私も愛しているよ」
「はい! 私とウィリアム様は運命共同体ですね!」
抱き合う今日の主役二人に、会場中の目が集まる。
第二王子が婚約者を溺愛しているという噂は本当だった。
極々平凡な普通の伯爵令嬢であるシーラを見る目が、本当の意味で変わった瞬間だった。
おはようございます、夢子です。
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ウィリアム両想い。
シーラはちゃんとウィリアムの事が好きですよ。
でも守る相手だと思っています。
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