目指すはライオンカラーな女傑ですわ
「シーラ、とっても綺麗だ! 私色のゴールドドレスがとても似合っているよ。いつもより大人っぽいし、とても魅力的だ。まるで光の女神の様に輝いて見えるよ」
シーラは今、王城に居る。
間もなく王城ではズーラウンド王国開国記念の夜会が開かれるため、成人し、ウィリアムの正式な婚約者と認められたシーラも、大人な女性として夜会に出席するのだ。
その為今日はその夜会の衣装合わせの最終日。
シーラはズーラウンド王国の王族の色であるシャンパンゴールド色のドレスに身を包み、鏡と向き合っていた。
(ふむふむ、中々ではないでしょうか。孤高では無いですが、メスライオンの仲間入りは出来そうです!)
そんなところにひょっこり顔を出したのは、同じく衣装合わせだったであろうシーラの婚約者ウィリアムだ。
いつもより大人っぽくなり自分色に染まったシーラを見て愛眼を崩す。
(ああ、 自分の婚約者はなんて可愛いんだろう!)
メロメロデロデロになったウィリアムは 『女神』 だとシーラを褒めたのだが、シーラの顔には貴族らしい笑みが浮かび目は座っている。
「有難うございます。ウィル様も素敵ですわ」
言葉では喜んでいるけれど、シーラにウィリアムの賛辞がまったく届いていないことが分る。
そこはやはり女神ではなく 「シーラ、今日の君はズーラウンド王国一の英雄、熊将軍の大剣の柄の部分のような輝きだね!」 とピンポイントで褒めた方がシーラ的には胸に刺さるものがあったのだろう。
もしくは 「母君のような孤高のメスライオンになれそうだね!」 な~んて褒めれば嬉しさからウィリアムに抱き着いた可能性もあった。
けれどウィリアムはそんな事は気にならず、満足げに頷く。
だってついにこの日が来たからだ。
幼い婚約者を持ち、シーラとのあまりの仲の良さに 『変態王子』 という噂が付きまとっていたけれど、それも今度の夜会で終わる。
成人し女性らしくなったシーラを見れば、そんな噂は一瞬で消えるはず。
その上公の場でも可愛いシーラとイチャつくことが出来るのだ。
多少の失敗などウィリアムには気にもならなかった。
「さあ、シーラこっちにおいで」
「はい」
新しい衣装を着たシーラを引き寄せ、ギュッと抱きしめる。
気を利かせたメイド達が、お茶を運び入れ邪魔にならないようにと姿を消していく。
二人きりになった部屋、ソファへと座りウィリアムはシーラを膝の上に乗せる。
ドレス着用の本番はまだ先なのだが、皺の事など王子様として育ったウィリアムが気にするはずもなく、自分色に染まった可愛いシーラをナデナデ出来て上機嫌だ。
「今日のシーラはいつもよりいい匂いがするねー。夜会用の香水かな? 私が好きな匂いだ。うん、いい香りだねー」
シーラの頭頂部に顔を近づけ、ふんふんと匂いを嗅ぐウィリアム。
そう言う所が変態王子と呼ばれる所以なのだが、本人はまったく気付かない。
シーラが嫌がるそぶりを見せないのでやりたい放題だ。
「はい、キンモクセイの香りだそうです。私はラフレシアの香りが良かったのですが、この国には無いそうなので諦めました」
「そうなのかい? ラフレシアか……今度探して見るね」
「はい、是非お願いします、ウィル様」
臭いと有名なラフレシア。
シーラ的には敵を倒せるからとかそんな理由で選んだ香りなのだが、ウィリアムがそこに気づくことは無い。
ラフレシアの香水などつければ悪臭が歩くようなものだが、愛する婚約者の為ウィリアムは探す努力をするのだろう。
まあある意味虫よけにはもってこいの香りだとは思う。
「……シーラ、エヴァから報告があったんだけど、先日の狐の会でヴィオラ・スクワロルに会ったんだってね」
「はい、お会いしました」
ヴィオラ・スクワロルの名が出てシーラの目に闘志が宿る。
悪女らしい彼女は女傑になろうとしているシーラのいわばライバル、いや敵である。
シーラは淑女としてまだまだ修行中の身だが、ヴィオラの方は完成された悪女のような魅力を持っていた。
狐の会にそぐわない赤いドレスは良く似合っていたし、お胸が見えそうな茶会に相応しくないドレスは、たわわなスタイルを持つヴィオラにはピッタリだった。
それにヴィオラが履いていたピンヒール。
あの姿で鞭を持ち、あのヒールで手下を踏んづけ罵ったら、完璧な悪女だ。ビジュアルが最高過ぎる。
それにあのちょっとお馬鹿で我儘で自分中心な性格も悪女にピッタリといえる。
裏で暗躍する悪女よりも、表立って暴れる悪女の方が何倍も面白い。
ヴィオラの名が出た途端恋する乙女のように瞳をキラキラさせだしたシーラを見て、ウィリアムは嫌な予感を感じた。
「シーラ……ヴィオラ嬢とはもう会わなくても良いからね」
何とか自分へ気を引こうと声を掛けてみるが、シーラはフルフルと首を横に振りふんすと気合を入れる。
「いいえ、今度の夜会にはヴィオラ様もいらっしゃいます。私対峙し、必ず勝ってみせますわ!」
握りこぶしを作り爛々と目を輝かせるシーラ。
ウィリアムがドレス姿を褒めた時よりも、よっぽど嬉しそうで何だかヴィオラの事が憎くなる。
「クソッ、ヴィオラ・スクワロルめ……絶対に許さないぞ……」
ウィリアムからそんな呟きが漏れるほど、今のシーラの頭中はヴィオラで占められていた。
今度は何と言って罵られるのでしょう。
シーラの中でそんな楽しみがあるのは間違いなかった。
「シーラ、ドレス合わせは終わったかしら? 様子を見に来たのだけど」
「母上?!」
「ガブリエラ様!」
シーラの夜会の衣装を確認するため、王妃ガブリエラがシーラの衣装合わせの部屋へとやって来た。
基本この場は男子禁制。
何故ならシーラが着替えをする場であり、手直しをする際下着姿になる可能性もあるからだ。
部屋にいるはずのない自分の息子を見つけ、ガブリエラの目がすうっと細くなる。
「……ウィリアム……貴方、何故この場に居るのかしら……?」
「は、母上……これには訳が……」
こめかみに青筋が浮かび良い笑顔で母が微笑む。
本番を前にした大事なドレス姿のシーラをギュッと抱きしめ、膝に乗せているウィリアムは、常識を知らない変態王子そのもの。
母からの冷たい視線がウィリアムに突き刺さる。
その迫力が凄すぎてヴィオラ・スクワロルとの件を心配してやって来たのだと言い訳をする暇もない。
「いや、あの、私は、その、ちょっと、シーラと話しがあって……」
シーラを抱きしめる手を緩め、今更ながら隣にそっと座らせる。
けれど母の圧は消えることなく益々強くなる。
このバカ息子! どうしてくれようかしら!
と目で言っていることが分る。
そんな中、優しい婚約者が母に声を掛けた。
「ガブリエラ様、ウィリアム様は私のドレス姿を褒めに来てくださったのです」
「そう……ドレスを褒めに?」
「はい! ウィリアム様色のドレスを褒めに来てくださいました」
「そうなの……」
孤高のメスライオンらしい振る舞いを見せるガブリエラを見て、シーラの目がキラキラと輝く。
その瞳はウィリアムに向けるものよりも当然上で、その上先程気にしていたヴィオラに対するものよりももっと上で、ウィリアムはまだまだ自分が底辺に居ることを知る。
コーンスープ辺りにはなれたと思ったけれど、どうやらその認識は甘かったらしい。
茹でたトウモロコシ、自分はまだそれと同等だ。
がっくり肩を落とすウィリアムを心配してか、シーラがきゅっとウィリアムの手を握ってくれた。
「ウィリアム様、元気を出してくださいませ」
「シーラ……」
「私はまだ悪女な女性には魅力的に負けますけれど……今日の下着はウィリアム様好みの物を付けていますの」
「へっ? 下着?」
「はい、ウィリアム様が大好きなスケスケで薄い下着も今日の衣装合わせで着てみました。今度お見せしますから是非感想を聞かせてくださいませね。ウィリアム様を思って作った自信作ですので!」
ふんすと胸を張るシーラの胸元に思わず視線が行ってしまう。
自分好みのスケスケの下着とは何ぞや?
そう思いながらも見せてくれるという言葉に思わず鼻の下が伸びてしまうウィリアム。
それを見てガブリエラの圧が最高潮に達した。
「……ウィリアム……」
「は、はい!」
「ちょっとお話があります」
「は、はい……」
変態王子ウィリアムは、この後母に呼び出されじっくりこってりと説教を受けることになる。
成人とはいえまだ幼いシーラに何を仕込んでいるのだ! と理不尽な理由で怒られるのだが、男としての下心があるウィリアムは大人しくその説教を聞いたそうだ。
「ウィル様との結婚が楽しみです!」
説教の後シーラのその言葉に、心救われたウィリアムなのだった。
おはようございます、夢子です。
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ウィリアムがなんだか不憫になってきました……
イケメン王子なんだけどなー。
頑張れウィリアム。
作者に負けるな。
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