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貴方好みになってみせましょう

「シーラ、会いたかったよ。さあ、こっちにおいで」


「はい」


 結婚まであと半年と迫った事で、仕上げともいえる最後の王子妃教育を受けるためシーラは今日王城に来ていた。

 結婚へ向けての準備などで忙しくなったシーラは、衣装合わせや、式での練習などがあり、ほぼ毎日のように王城へ来ているといっても過言ではない。


 そんな中、今日は婚約者であるウィリアムとの逢瀬の日。

 王城に来ていてもお互い忙しく、会えるのは週に一度か二度が良いところだ。


 だからこそ尚更愛おしく可愛い婚約者シーラを前に、ウィリアムは満面の笑みで出迎えてくれた。


「えっと、シーラ、そこに座るのかい?」


 シーラが座った場所は確かにウィリアムの横。

 だけど横と言ってもウィリアムにピッタリとくっついていて、成長して大人の女性に近づきつつあるシーラの柔らかな部分がウィリアムの腕に当たる。


 王子妃教育の最終段階が大変で疲れているのか、それとも只々ウィリアムに甘えたいからなのか、いつになく積極的なシーラに対し、大人なはずのウィリアムはちょっとだけドキマキしてしまった。


「はい、私はウィリアム様の婚約者なので隣に座ります。ウィリアム様、嫌ですか?」


「いや、全然いやじゃないよ!」


 猫のような大きな瞳をきゅるるんと潤ませ、上目遣いにウィリアムを見るシーラはとても可愛い。


 どこで覚えたのか分からないけれど、何だか今日のシーラはあざと可愛いような気がして落ち着かない。


「ウィリアム様はーー」

「シーラ、二人きりの時はウィルって呼んで」


 ウィリアムのお願いにシーラはうんと頷く。


「はい、ウィル様。ウィル様は、赤と黒、どちらが好きですか?」

「赤と黒?」

「はい、赤と黒です」


 お茶を口に運びホッと落ち着いたところで、シーラがウィリアムの肩にもたれかかり、そんな事を聞いてきた。


 赤と黒?

 一体何を示す色なんだろうか?

 もしかして今流行りの占いか何かかな?


 うーんと悩むウィリアムに対し、シーラは言葉を付け加える。


「では、赤と黒、私に似合うのはどちらでしょうか?」

「シーラに似合う色?」

「はい、()()、私に似合うのはどちらでしょうか?」


 そう言えばシーラは赤色と黒色に物凄い思い入れがあるのだとランツ伯爵(アティカス)に聞いたことがある。


 だけど色白でクリッとした目が可愛いシーラには、赤や黒ではなくもっと違う色が似合うはず。


 そう思ったウィリアムは婚約者として正直な気持ちを伝えることにした。


「シーラは色が白いから、赤や黒のような原色よりも、黄色やピンクみたいな可愛らしい色が似合うと僕は思うな」


「……黄色や、ピンク……」


 ふむふむと頷きウィリアムの話を聞くシーラ。


 その姿がまた可愛くってウィリアムはつい頭をなでなでしてしまう。


 自分の婚約者は何でこんなに可愛いのだろうか。


 自分だけに懐いた猫のようだ。


 惚れた弱みからだろうか、ただ色を聞かれただけでそんな事を思ってしまうウィリアム。


 鼻の下が伸びたような今の情け無い顔を他の令嬢に見せれば、きっと憧れの王子様も失望されるだろう。


 だがこれはシーラの前限定の顔。


 婚約者と二人きりの時だからこそ、甘く崩れている残念顔なのだ。


「うーん、そうだなぁ、私の髪は金色だから、シーラが薄い黄色を纏ってくれると僕は嬉しいかなぁ」

「薄い、黄色……つまり、スケスケ……?」

「うん、ああ、そうだね、シーラには淡い黄緑色も似合うかもしれないね」


 シーラの瞳を見つめそんな案も出すウィリアム。

 シーラの瞳の色は淡い緑色だし、可愛らしいシーラにはパステルカラーのような色が似合うだろう。


 ふーむ、と考え事をしているようなシーラの額に口づけを落し、またいい子いい子とウィリアムが頭を撫でていると、何かを悟ったらしいシーラが 「分かりました」 と言って立ち上がった。


「ではウィル様、今度はこれを見て下さい」

「?」


 手を上げくねくねと踊り出すシーラ。


 もしかして弟や妹と遊んでいるゲームの一種なのだろうか。


 可愛いが面白い動きだ。


 そしてこれは自分以外には見せてはいけない動きでもあった。


「うーん……ミミズ? いや海に居る、うーんと何だっけ、ああ、そうそう、海藻? かな?」

「かいそう……」


 ガーンっとショックを受けたような顔になるシーラ。

 ウィリアムはもしかして何か言ってはいけない言葉を吐いたのだろうか。


 傷ついた顔をしてフラフラとウィリアムの横へ戻ってくるシーラ。

 女傑を目標とし、成人し淑女となったシーラには珍しく、ドサリと音を立ててウィリアムの横に座った。


「シ、シーラ?」

「かいそう……」


 その顔には悲壮感が浮いていて、ウィリアムにだって酷く傷つけてしまった事が分かる。


 もしかして草原にいる妖精の真似とかだったんだろうか……


 だとしたら物凄い失礼なことをシーラに言ってしまったことになる。


 妖精とミミズや海藻では比べ物にならないし、可愛さが別物だ。大変失礼である。


 オロオロするウィリアムをよそに、シーラはガックリと肩を落としながら悩みをウィリアムに話し出した。


「……私はウィル様と少しだけ歳が離れています」

「う、うん、そうだね。でもシーラなら全然許容範囲でしょう?」


 普段年齢なんて全然気にしないシーラがそんな事を言い出し、これがマリッジブルーか? と先程のダンスへのやらかしも合わさりウィリアムは慌てだす。


「……こんな私ではウィル様を満足させてあげられないかもしれません……」

「満足?」


 一体何のことを言っているのか。

 婚約者としてのシーラには十分満足しているのに、そんなことを呟いて驚く。


 もしかして誰かに何か言われたのか?


 シーラの可愛さではウィリアムを満足させられないとか老害ジジイたちにでも言われたのだろうか?

 

 見えぬ相手へ怒りが浮かび出したウィリアムの横、しょぼんとしたままのシーラがまた語り出した。


「……私、王子妃教育で閨を学びました」

「うん、そうか、そうだね、ねやか、うんうん、えっ? 閨ーっ?!!」

「はい、閨です」


 シーラの王子妃教育も終盤戦。

 当然子作りについても詳しく学び出す時期だ。


 分かってはいたけれど、分かってはいるけれど、シーラの口から 「閨」 と聞き、ウィリアムの体は一気に熱を持つ。


 もう間も無くそういったことをシーラとするのか。


 そんな想像をついしてしまい、無意識でゴクリと喉が鳴った。


「シ、シーラ、あ、あのさ、そんなことは自然に任せれば良いんだよ」


 なんと答えていいか分からず、ウィリアムは自分に任せろではなく当たり障りの無い言葉をシーラにかけてしまう。


「自然……ですか?」


「そう、自然自然、アハハハハ」


 自分を上目遣いに見つめるシーラが可愛くて、変に意識してしまったが、ウィリアムだって王族の教育を受けた王子。動揺していることは上手く誤魔化せているとは思う。


 ただこの先、きゅるるんとした瞳を見て可愛いなぁと思うだけではなく、色々と葛藤しなければならなくなったのは確かだった。


「ウィル様、励ましのお言葉ありがとうございます。ですがウィル様のやる気を上げるには、私の魅力が大事だと知りました……」


 どこの誰が言ったか分からないがやめて欲しい。


 しょんぼりと肩を落としウルウルとした瞳でウィリアムを見つめるシーラは可愛すぎる。


 結婚を前に今すぐ寝室に向かいたくなるほどの衝撃だ。


 当然王子として理性が勝つし、絶対我慢するけどね!


「だから私、ウィル様の為に妖艶なダンスを考え、ウィル様をお誘い出来る寝間着も準備致しました。……けれど赤も黒も私には似合わないとなるとやり直しです。ウィル様が薄くてスケスケがお好きとは知らなくて、婚約者として失格です。我が家に来ている商人にもう一度寝間着の作り直しをお願いしなければなりません。ウィル様の寝間着の好みはスケスケだった。物凄いスケスケにして欲しいと言わなくてはなりません……」


 止めてー!!


 ウィリアムは本気でそう叫びそうになった。


 シーラと婚約したことで親しい人物から変態王子だと疑惑を持たれている今、スケスケ好きだと追加されたら何を言われるか分からない。


 変態エロ王子なんて呼ばれたら死ねる。

 絶対嫌だ。


 だけどそこはウィリアムだって王子教育をしっかり終えた者。

 動揺を隠し落ち込む婚約者を優しく抱きしめた。


「シーラ、シーラは充分魅力的だからこれ以上何かする必要はないんだよ」

「でも……」


 いつもの元気が出ないシーラに、ウィリアムは優しい王子笑顔(スマイル)を向け首を横に振る。


「シーラは可愛い。だから大丈夫。そ、その、ね、閨のことは僕に任せてくれていいから、シーラが物足りないなんて思うことは絶対にないし。何なら今すぐにでもーー」

「えっ?」

「ゴホンッ、ゴホンッ、いや、そう、今既に結婚式が楽しみだから何の心配もいらないんだよ」


 思わず本音が漏れたがどうにか誤魔化す。


 それに今度こそ自分に任せろと言えた。


 赤い顔のままだがウィリアムはドヤ顔だ。


「……はい、ウィル様、分かりました。ありがとうございます。私も結婚がとても楽しみです」


 ウィリアムの妻になる事を楽しみだと言ってくれたシーラにウィリアムは心の底からホッとする。


 トウモロコシ程度な自分との結婚をシーラが喜んでいる。それが嬉しかった。


 感激中のウィリアムを見上げながら、シーラはまた考える。

 ウィリアムとは十歳ほど歳が離れている。

 なので大人なウィリアムに対し、やっぱりまだ妖艶な魅力が足りないこともシーラは理解していて。


(妖艶と言えばやっぱりガブリエラ様でしょうか?)


 この後義母となる王妃ガブリエラにウィリアムの好きなスケスケについてシーラは相談するのだが、可愛い婚約者を抱きしめメロメロなウィリアムが、そんなシーラの危険思考に行き着くことはないのだった。

 

こんばんは、夢子です。

ブクマ、評価、いいねなど、応援ありがとうございます。

とても励みになっております。


きっとウィリアムは一生シーラに振り回されるでしょうねー。


↓こちらもよろしくお願い致します。


辛辣令嬢の婚約

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辛辣令嬢と学園

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