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辛辣令嬢と結婚

 今日、遂にシーラとウィリアムが結婚の日を迎えた。


 真っ白なドレスを身を纏ったシーラを見て、父アティカスは式の前から泣き続けた。


「シーラ、シーラ、私の可愛い天使……こんなに早くお嫁に行くだなんて……うううう、それも王家! どこまで君は私に心配をかけるんだい! ずーっとウチに居ればいいのにぃ―!」


 子供のように駄々をこねだした父を見て、花嫁が浮かべてはいけない笑顔をシーラが浮かべる。


 お父様って本当に子供ね。


 そう言っているのが丸わかりだが、もう少し取り繕って欲しいものだ。


「お父様、安心してくださいませ。私はこの国から出て行くわけではありませんわ。ですからお父様さえ城に来て下さったらいつでも会えるではないですか、気を落さないでくださいませ」


「うううう、でもそれは娘と父として会うのではなくって、王子妃のシーラと伯爵の私が会う謁見だろう? そんなの全然嬉しくないよ! 君は私にとって永遠の娘なんだからー!」


 鼻水を垂らしえっぐえっぐと泣く父に、シーラは後退りする。


 これから大事な結婚式なのに父の鼻水と涙で汚れるだなんて許せない。


(はあ、もうお手上げですわ……) 


 諦めたシーラは頼りになる弟マティアスに目配せをし、(姉上、僕にお任せください!) という力強いウィンクをもらった。


「さあ、さあ、父上、そろそろ泣き止んで下さい」


「そうですわ、おとーしゃま。そんなだらちないちちではおねーしゃまにきらわれてしまいましゅわよ」


 マティアスとサーシャに突っ込まれ、アティカスは「でも……」といいながらも何とか涙を抑え込む。


 シーラにだけでなく、四歳のサーシャに嫌われてはかなわない。


 父親の威厳を保たなければと必至だが、時既に遅しとはこの事だと思う。



「シーラ、迎えに来たよ」


「ウィリアム様」


 ズーラウンド王国では結婚を誓う際、花嫁と花婿が赤い絨毯の上を一緒に歩き、夫婦の誓いを聞き届ける神の下へと共に向かう形となっている。


 その為ウィリアムがシーラの控室に迎えに来てくれた。


 それも幸せいっぱい満面の笑みを浮かべてだ。


 今日のウィリアムは白のジャケットに、襟の部分だけシーラの髪色赤茶色を入れた物を着ていて、物語の王子様そのものだ。


 その為その笑顔はシーラたち兄弟以外には効果覿面となっていた。


「シーラ、とても綺麗だよ」


「ウィル様も、とても素敵ですわ」


 見つめ合う二人。


 その後ろでは父アティカスがえっぐえっぐとまた泣き出したが、二人の世界を作るシーラとウィリアムにはもう聞こえない。


「さあ、そろそろ行こうか」


「はい、畏まりました」


 ウィリアムの誘いを受け、シーラは家族に一礼する。


「お父様、これまで愛情をたっぷりとかけて育てて頂き、有難うございました」


「シ、シーラ……」


「お父様とお母様、それにマティアス、サーシャ、そして生まれたばかりのセティアスがいたからこそ、私はとても幸せでした。これからは王子妃となり、家族から受けた愛と同じものを国民に捧げたいと思います。お父様、我儘な私を沢山愛して下さり有難うございました」


「シ、シーラ……うううう……」


「お父様、マティアス、サーシャ、これからもずっと愛していますわ。では……行って参りますわね」


 女傑の一員らしい見事なカーテシーをシーラが披露する。


 マティアスとサーシャはそんな誇り高き姉を尊敬し、父アティカスだけはもう何が何だか分からない程泣いていた。


「ランツ伯爵、シーラの事は私が必ず守ります。ですのでどうか安心してシーラを送り出してください」


 王子の声掛けにアティカスは声も出せず、ただふんふんと頷くのみ。


 まだ式も始まっていないのに大丈夫だろうか、ウィリアムも苦笑いだ。


 ここに妻セレナがいてくれたらいいのだが、セレナは出産してまだ間もないため今日の結婚式には来ていない。


 なので頼りになる息子マティアスと、シーラによく似たしっかり者のサーシャに支えられ、王子妃になる為歩き出したシーラを見送った。



「シーラ……寂しくないかい?」


 王子妃となれば簡単に家族とは会えなくなる。


 こんなにも仲の良い家族を自分は引き離してしまうのではないか。


 そんな気持ちが急に湧きあがり、思わずウィリアムはつまらない言葉をつぶやいてしまう。


「ウィル様の傍に行くのに寂しい訳がありません!」


「シーラ……」


 愛情あふれるシーラの言葉に、ウィリアムは何だか目頭が熱くなってきた気がする。


 最初の頃はウィリアムに全く興味がなかったシーラの成長に、只々胸が熱くなる。


「それにウィル様が父以上に私を愛して下さるのでしょう? だったら何も寂しい事などありません。私は世界一の幸せものですわ。だって大好きな貴方様の妻となれるのですもの」


 愛の告白のはずなのに、ふんすと気合を入れ握り拳を作るシーラをウィリアムは引き寄せる。


「シーラ、大好きだよ」


 半泣きのウィリアムが感動からシーラをぎゅっと抱きしめる。


 けれどこれからが式の本番。


 着飾ったシーラを崩すわけには行かないと周りが慌てだした。


「殿下、落ち着いて下さい!」

「シーラ様のドレスに皺が寄ってしまいます!」


 ウィリアムの行動を素早い速さで周りが止めてくれたため、本日の主役であるシーラの花嫁衣装は崩れることは無かった。


「ウフフ、ウィル様、後で沢山抱いて下さいませね」


「……えっ?」


「今日私は貴方色に染まる予定なのですから」


 フフッと笑うシーラはどこか大人びていて、何を意味しているのか分かるウィリアムの顔は真っ赤に染まった。


(ぬふふ、悪女歴伝から男性を誘惑する言葉を学び直して正解でしたわ! ウィル様がめちゃくちゃ喜んでくれています!)


 結婚式の前からシーラは子作りの為、沢山勉強をした。


 スケスケ下着もそうだし。


 誘惑ダンスも必死に考えた。


 その中で男性をその気にさせる言葉もしっかりと勉強したのだが、いつからそれを実践しているのかはシーラ本人にしか分からない。


 ウィリアムの感動を無下にしないためにも、シーラの言葉が本の中から抜粋された物であることは秘密にしたいと思う。


「さあ、ウィリアム様、ここからが私たち夫婦の戦いですわよ! 家族そろって最強になりましょう!」


 気合を入れて結婚式へと歩き出したシーラを見て、我が妻は頼もしく愛しい女傑だと思ったウィリアムだった。






 ズーラウンド王国の第二王子の結婚式は盛大に執り行われた。


 二人の年齢の差や、シーラが普通の伯爵令嬢だったこともあり、最初は二人の結婚を反対するものも多くいた。


 けれどシーラはそんなもの達に優秀な成績を見せつけ、王子妃教育も速攻で終わらせ、堂々たる淑女らしさを見せつけたのだ。


 シーラについて何か言うことは出来なくなった。


 シーラ・ランツは結婚後、友人や、元教師たちからも一目置かれ、若き貴婦人たちからは羨望の目を向けられた。


 恋愛劇の影響もあってか、シーラとウィリアムは民たちからも人気があり、王家への支持を集める一役をかってくれた。


 結婚後もシーラは夫ウィリアムには大変愛され可愛がられた。


 ウィリアムはいつ何時も暇さえあればシーラを膝の上に乗せるため、シーラシーラと可愛がる姿を見た使用人達は、二人の関係を不動の愛で結ばれていると噂した。


 こんな夫婦になりたい。


 そう思われるようになったシーラとウィリアムは 『ズーラウンド王国の理想の夫婦』 だといつしか呼ばれるようになった。


「さあ、ウィリアム様、ズーラウンド王国一の夫婦になりますわよ!」


 女傑シーラはその夢を叶えるため、今日もふんすと気合を入れるのだった。

皆様こんにちは、夢子です。

ここまでシーラのお話を読んで下さった読者の皆様、本当にありがとうございました。

ブクマ、評価、いいねなど、沢山の応援ありがとうございました。

毎日ヤル気を戴いておりました。本当にありがたかったです。


まだ明日明後日とヴィオラのお話を投稿させて頂きますが、シーラ・ランツの物語はこれで終了となります。


シーラはとても可愛くて書きやすく、大好きなヒロインでした。

本当は学園の話の後こちらをすぐに書きたかったのですが、色々とあって遅くなってしまいました。申し訳ありません。


ヒーローのウィリアムは王子様らしい風貌をしていますがその中身は父アティカスと似ています。

きっとシーラが子供を産んだらその子供に振り回されるでしょう。

簡単に想像できてしまうぐらいシーラは動かしやすく、作者にとって本当に頼りになるヒロインでした。


終わってしまうのが少し残念ですが、この後も書きたいお話が色々とありますので、シーラとはここでお別れします。


次の作品でも皆様に読んで頂けるような楽しいものを書いて行けたらと思っておりますので、どうぞ宜しくお願い致します。


では残り二話。

ヴィオラのお話もよろしくお願いします。


夢子でした。

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