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天使の住処  作者: モンステラ
1/3

天使

 この学校には天使が住んでいる。


 見る人を圧倒する美貌と人を引き付けてやまない魅力を兼ね備えており、この学校のトップに君臨していると言っても過言ではない。


 生徒の中にはそんな完璧な人間がいるはずもないという懐疑心を持っているやつが一定数いるが、大半はみんな天使を慕っている。


 そんな俺はどちらかというと疑っている側の人間だ。でもどちらかというとそうなだけで、はっきり言うと天使なんて存在に興味はない。


 俺は神代飛鳥(かみしろあすか)。どこにでもいるごくごく普通の男子高校生だ。


 ただボッチだということを除いては。


 現在高校二年生であり、クラスでは去年と変わらず孤高のボッチを極めている。


 クラスのやつらとは話すことはあるが、一緒に行動するような友達はいない。


 なので授業で必要な時以外はクラスメイトと関わることはない。


 勘違いしないで欲しいのは別に友達を作ることができなかったわけではなく、作らなかったということである。


 一人の方が気楽なことが多い。


 ……と、まあそんなカッコよく余裕をかましているが、普通に学校生活を送っていれば、ペアだの班だのにならなければいけないことも多いので、苦労はしている。


 改めて言うが、この学校には天使が住んでいる。


 住んでいるというよりは通っているという表現の方が正しいだろうか。


 もちろん本物の天使がいるわけなどではない。


 では天使とはどういうことか。


 この学校には「天使制度」というものが存在しているのだ。


 毎年「天使委員会」という謎の委員会によって選ばれた女子生徒四人が天使と呼ばれることとなっている。


 一度天使に選ばれると基本は卒業するまで変わることはない。


 この天使に選ばれると購買の割引から生徒会役員への推薦まで幅広い様々な特典がついてくる。


 だけど一番大きいのは他生徒からの熱視線と好意だろうか。


 みんなから特別として扱われ、困っていることがあれば助けてくれる。


 クラス内どころか学校内カーストピラミッドで頂点に君臨しているようなものだ。


 そんなこんなでうちの学校には四人の天使が存在しているため、「天使の住処」と呼ばれている。


 自分の通っている学校だとはいえ、本当に変な学校だなとは思う。


 そして実は俺のクラスには四人しかいない貴重な天使が一人存在している。


 星宮麗奈ほしみやらな。透き通るような肌を持ち、腰まで伸びたサラサラとした茶色い髪が日の光に照らされて輝いている様子はまるで星宮自身から光を発しているようだ。


 星宮が天使に選ばれた理由はその可愛さはもちろん、この世の人間かと疑うほどの性格の持ち主だというところにあるのではと噂されている。


 困った人を見れば、率先して手を差し伸べ、普通は面倒に思うであろう先生の手伝いや日直の仕事も積極的にこなしている。


 しかも星宮は理事長の孫らしく、超お金持ちならしい。


 なのに気取った態度は一切とらない。


 そんな星宮だからこそ、周りにはいつも人が絶えない。


 天使という名称がぴったりと当てはまる人物なのだろう。


 しかしそんな天使に俺は迷惑を被っていることが二つある。


「また座れないんだけど……」


 一つは星宮が俺の隣の席だということだ。


 彼女はその人気によって常に周りから人が絶えない。


 それは朝も同じで、星宮が生徒に囲まれているせいで、クラスの奴らがいつも俺の机を占領している。


 新学期も始まって三か月が経とうとしているというのに、いつまでたっても星宮の周りから人が消える様子はない。


 もちろんこれに関しては星宮に一切の否がないことはわかっている。しかしこう毎日毎日自分の席が人で埋め尽くされているのは俺も気が滅入ってしまう。


 俺はどうしようもないので、いつも通り一人教室の隅に立ち尽くす。


「神代くん!」


 俺がその場で参考書でも取り出そうとしていると、耳に心地よい声が聞こえた。


 人だかりの中心から抜け、優しい笑顔でこちらに向かってくる人物が俺の前で立ち止まる。


「何、星宮さん?」

「今日日直一緒だよね? 先生が呼んでたから一緒に職員室行こ!」

「……うん」


(はあ……)


 俺は背中で敵意の視線を一心に受けながら、星宮に言われるがまま職員室に向かった……のではなく、星宮に連れてこられたのは職員室とは真逆の方向にある一つの教室だった。


 この教室は全く使われておらず、校舎の片隅にポツンと位置しているため、朝の時間どころかいつの時間でもここには全く人が来ない。


「はあ、疲れた」


 そう気だるそうに呟いたのは俺の目の前にいる天使だ。


「お疲れさん」

「ほんとあいつら毎日毎日何なの?」


 星宮からにわかに天使とは信じがたい言葉がどんどんと溢れてくる。


 いつもの柔らかく明るい声色から一変、冷たくトゲトゲしい言葉が俺の耳に突き刺さる。


(始まった……)


「みんな星宮のことが好きなんだろ」

「それはそうだけどさあ。ずっとニコニコし続けるのも気が張るのよ」


 みんなが星宮のことを好きだということを否定も謙遜もしないところはさすがだ。


「でも星宮自身が好き好んで天使なんてやってるわけじゃん」


 星宮は入学以前から天使の座を狙っていたらしく、去年からたゆまぬ努力をして今の地位を手にいれたんだとか。


「だってみんなの憧れよ? わたしのこのちょっと悪い性格を隠すだけで天使になれるなら容易いことよ」

「ちょっと……」

「何よ」

「い、いや何でもない。それより俺もう教室帰りたいんだけど。いいですかね?」

「はあ? 何言ってんの、ダメに決まってんでしょ」

「ええ……」


 俺はほとんど毎日と言っていいほど星宮の愚痴を聞かされている。これが俺の被っている迷惑の二つ目だ。しかも俺がそれを断ることはできない。


 なぜこんな状況になってしまったのか。


 きっかけは一か月程前のある放課後の話──


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