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十年前に出会った吸血鬼が求婚してきましたが、断固拒否です。  作者: 藤崎 風華
第一章「吸血鬼の噂」
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三話「もう一つの噂」

 初めての保健室。おどおどしながら私は扉を開いた。薬品の香りが鼻先に漂ってくる。キョロキョロと中を見渡していたら、白衣を着た中年増の女性と目が合った。


「おはよう、どうしたの?」

「おはようございます。体調悪くて」

「とりあえず熱測る?」

「貧血なので少し寝たいんです」


 それから用紙に名前や症状などを書いて私はベッドに横になった。寝心地は悪くない。目を瞑れば、すぐに眠りに落ちていった。


 一限目の終了を告げるチャイムが鳴ると、保健の先生がカーテン越しに声をかけてくれた。上体を起こしたまま、まだ少しぼうっとする頭を押さえる。

 そして、ベッドから降りようとした時だ。「吸血鬼」という単語が向こう側から聞こえてきて、びくりとしてしまった。


「あの子、昨日から休んでる理由が吸われて貧血だからって言うんですよ」

「最近、噂になってるあの話よねえ」

「見て見て先生。これ、送られてきた写真。本当だと思います?」


 どうやら、今ここに来ている生徒の知り合いが噂の吸血鬼に襲われたらしい。まさか、例の吸血鬼は久徳のことではないだろうかと考えざるを得なかった。

 

 私は、タイミングを見計らってカーテンを開ける。軽く会釈をして、保健室を出た。すると、ドアの前に会いたくない人物が立ちはだかっていた。


「よく眠れたか?」

「おかげさまで」


 私はあからさまに避けて歩き出す。これからもずっとこのように付き纏われるのだろうかと考えると不愉快だ。

 今まで、凡そぼっち学生生活を気ままに送っていた身としては面倒臭い。というのも、私は友達がいない。唯一、仲良くしているのは一つ上の幼馴染、幸田こうだ健人けんとだけだ。


 私は保健室のある一階から二年の教室がある三階まで無言で登り続ける。二階の踊り場まで来たときに、久徳が私の背中に言葉を投げかけた。


「俺に確認したいことがあるんじゃないのか?」

「別に」

「例の噂の吸血鬼ではないか? と」


 その問いに、私はくるりと踵を返した。久徳は私が振り向くことが分かっていたのか、一歩先で立ち止まっている。その綺麗な顔に胡散臭さを貼り付け、口角を上げていた。


 もしも、本当に彼が噂の吸血鬼だったとして、何故今になって噂になるようなことをやり出したのか?

 この吸血鬼はどうやら私に会うために色々と手を回したらしいので、早くとも去年の4月には一緒に入学しているだろう。つまり、約一年前にはこの街に住んでいるはず。

 しかしながら、吸血鬼の暮らす場所が人間と同じところかなんて分からない。さらに言ってしまえば、変な術を使える吸血鬼相手にただの人間の推測なんて当てにならないのだ。


「それで、噂の吸血鬼は自分ですって言いたいわけ?」

「いいや、違う。目星はつけている」

「はあ? 分かってるの?」

「ああ、都合がいいから放置している。といっても生徒会役員は決まったからもう解決しても良いのだがな」


 何故、『噂の吸血鬼』の話が生徒会役員に繋がるのかが腑に落ちない。私は呆けた顔をしていたことだろう。


「さて、朱莉はどうして生徒会に入った?」

「幼馴染に頼まれた。何でだか断ったのに入ることになってたけど」

「何故、頼まれた?」


 あ。と私は自然と声を漏らした。噂の吸血鬼と生徒会の話がつながったからだ。

 というのも少し前から吸血鬼の話とは別に、『赤羽高校でポルターガイスト現象が起こる』と話題になっていた。撮影された映像は瞬く間に全国に広がり、一部のオカルトマニア界隈でバズったせいで夜中に忍び込む輩が現れたほどだ。しかも、その現象が起きる場所が旧校舎の生徒会室付近。吸血鬼の噂も相俟って、4月からの生徒会役員の立候補者がいなくなってしまった。

 そこでだ。オカルトアンチだった私が幼馴染の健人に誘われたのである。オカルトアンチな理由は吸血鬼との出会いが幼少期の私にとって大きな恐怖だったため、反動でそういった類のものを全否定してきたという背景がある。

 まあ、つい先日「非現実なんて存在しない」という主張は見事に崩されたわけだけど。


 因みに生徒会長はまるで武将のような剣道部主将が先生からの推薦で選ばれた。「幽霊など俺が一刀両断してやろうぞ」とでも言い出しそうな人なので心配ご無用というわけだ。

 肝心の私を誘った幼馴染の健人は剣道部の副部長であり、頼まれたら断れない性格ともあって任されたのである。


「全てはあんたのせいね」


 口をへの字に曲げて睨んでやる。すると久徳はそんな私を見て楽しげに笑った。


「怪奇現象など朝飯前だ」


 この数日で何回目かわからない溜め息を吐き出す。たいへん厄介なやつに気に入られてしまった。と今になってひしひしと痛感し出した。


 だがしかし、今後さらなる非現実に巻き込まれることなんてこの時の私は知る由もなかったのだ。

 

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