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十年前に出会った吸血鬼が求婚してきましたが、断固拒否です。  作者: 藤崎 風華
第二章「憑かれた幼馴染」
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八話「魂の輝き」

「きゃあっ!」


 仄暗い場所に放り出されるように落とされる。私の体はカーペットに強く打ちつけ、その勢いのまま転げた。


「いったた……」


 いくら分厚いカーペットが敷いてあるとはいえ、これだけの衝撃があると痛い。もう少し優しく降ろしてほしかった。

 そんな気持ちと共に顔を上げれば、冥王と思しき者が、這いつくばる私の前に立ちはだかっていた。


「ようこそ、冥界へ」


 冥王は膝をつき、私の顎を掴んで持ち上げた。舐め回すように私の顔を見ている。

 その瞳は深い闇に吸い込まれそうなほどの黒。頭部から生える角は人の腹でも刺せそうなほど鋭く長く、紫色の肌には理解し難い模様が描かれている。

 そして、纏うオーラは狐とはまた違うものだった。恐怖、暗澹、死、それらを感じさせるものだった。


「……っ」


 怖気付いて、固唾を飲む。

 しかし、健人の魂を取り返すために私は怯えてられないのだ。


 パシッ。

 私は勇気を出して冥王の手を払い、立ち上がる。2メートルはありそうなほどの巨体を前に、体が縮こまりそうになる。


「は……早く、健人の魂を、か、返して!」


 震える声で叫ぶ。足が震える。

 怖い、怖い、怖い。


「クッ……クククッ……」


 震える手を握り込み、足から力が抜けそうになるのを踏ん張って堪えた。


「……ひっ!」


 突然、冥王の手が両肩に添えられた。頭の天辺から足の爪先まで硬直して、私は微動だにできない。


「ほう……やはり、珍しい魂の輝き(エタンセル)だ。貴様は人間に好かれないだろう?」


 拍子抜けな質問に私は思わず「え?」と聞き返してしまう。だが、冥王は私の返事を待っているのか、こちらを向いたまま黙っている。


「た、確かに友達はいないけど、仲のいい幼馴染は一人だけいるし……ってか、その大事な魂をあなたが奪ったんでしょ、返してよ」

「ひとまず、話を聞け。人間は魂の輝き(エタンセル)を目で認めることはできないが、何と無しに感受することが出来る。貴様は何故(なにゆえ)人間に好かれず、妖ばかりが寄ってくるのか疑問に思ったことはないか」


 冥王の手が肩から離れたかと思えば、私の心臓あたりを指した。


「それは、貴様の魂の輝き(エタンセル)は人間にとっては近寄りがたく、人外を引きつける性質を持っているからだ」

「そういえば……?」


 確かに最近は人外ばかりと出会うことが多いし、思えば小さい頃から、何故か人に避けられることは多かった。

 健人がいたので、友達がいなくても困ることはなかったし、欲しいと思うこともなかった。仲間外れ以外のいじめは無かったので、特に気にしたこともない。

 ただ、昔から妖みたいな存在が近くにいたわけじゃない。ここ近頃の話だ。


「妖とよく会うなんて最近からで、今までこんなことなかったけど……」

「魂にも生命力のようなものがあり、貴様の歳くらいになると一人前の輝きを放つ。だから、近頃になって増えたのだろう」


 生命力、とその意味を確かめるようにその単語を口に出した。


「そうだ。因みに、貴様の幼馴染は生まれながらに魂の輝き(エタンセル)が弱く、感じ取るための力も殆ど無い。だから、貴様のことを避けないし、妖に取り憑かれやすい」


 話を聞いていたら徐々に怖い気持ちも薄れてきて、「なるほど」などと思わず声に出して納得してしまった。


「理解したようだな、ククク……」


 喉の奥で笑いながら、冥王はもう一度私の胸を指で差した。


「ああっ……!」


 まるで体に電撃が走ったような感覚。痛みとはまた違う何かが私のなかを駆け巡っている。

 床に倒れ込んだ私は胸の辺りを押さえた。体が熱い。


「な、に……」

「安心するが良い。死にはせん。ちょっとばかし魂の輝き(エタンセル)に細工をした。さて、朱莉という人間よ」


 顔を歪めながら、私は面を上げる。冥王は両手を差し出すようにこちらへ向けてきた。それぞれの手には二つの光がある。

 

「ここにあるのは妖狸の魂と、あの人間の魂。自身の目で、貴様の大切な人間を取り戻せ」


 私は息を呑みながら、上半身を起こした。目の前の二つの光を交互に見る。どちらも全く同じに見える。色も、明るさも、何もかも。


「…………」


 どこまでも暗く、静寂が広がる空間。

 ドクン、ドクン、ドクンと、自分の心臓の音が身体中に響いている。

 この選択を間違えれば、私は本当に健人を殺すことになってしまう。


 冥王の左手に浮かぶ光に私が手を伸ばす。

 その刹那、地鳴りが轟いた。地面が揺れ、私は床に手を付いて辺りを見渡した。


「ふんっ……邪魔が入ったか。貴様、運が良かったな。あの人間の魂は返してやろう。だが、記憶は貰っておく」


 冥王の人差し指が私の額に触れた矢先、先ほどのような電撃が走った。前頭部に鋭い痛みが襲い、頭を抱えながら床に倒れ込んだ。

 


 意識を失う寸前、眩く白い光が見えた気がした。




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