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十年前に出会った吸血鬼が求婚してきましたが、断固拒否です。  作者: 藤崎 風華
第二章「憑かれた幼馴染」
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三話「狸派? 狐派?」

*後半は阿久田視点です。

 何者? その言葉に阿久田はやれやれと言いたげに微苦笑しながら答えた。


「あーあ、バレてやがんの。まあ気にしないでくれよ、奥山。俺は今、人間満喫中なんだ。ってか、ぶっちゃけ人間と変わらねえんだ」

「はあ……?」


 害がないなら、阿久田がどんな存在でも構わない。久徳も今のところ阿久田には害はなく人間と変わらないと言っていた。

 それでも近寄るなとも釘を刺されているが、そんなことは知ったことではない。

 本心では〝あくのつかい〟とかいう阿久田の正体が全く興味がないわけでもないが、とにかく今は健人のことだ。


「ねえ、あなた神様なんでしょ? 狸の妖怪が取り憑いた人間を元に戻せる?」

「ほう、狸か。天敵じゃ」

「え、狸って強いの?」

「いいや。妖怪としては弱いから簡単じゃぞ。わしのほうがずっと強いヤデ」


 突然のあからさまな関西弁。私は少々気になったものも、嫌な予感しかしないので敢えて無視しておいた。


「じゃあ、どうして天敵なの?」

「うむうむ、それはなぁ……世間で狸がマスコット的位置付けで地位を得ているからじゃ!! わしも人気者になりたいンヤ!」


 やっぱ、めんどくさ。

 という言葉が出かかったが、何とか飲み込む。下手に神様を怒らせて、健人が助からなかったら困る。

 すると、阿久田が名案とばかりに手を叩いた。


「んじゃ、喋る狐の神様でーすっメディアに顔出せばいいんじゃね? すっげえーってなるかも」

「ほう、なるほどのぅ……」


 狐は少々見上げながら、考えている。水を差すように私はぼそりと言う。


「まず、テレビに出るきっかけが必要なんじゃないかな……」


 隣で甘城が確かに、と変な感心をしている一方で狐は「先行きは長そうじゃ……」と呟く。


「地道に頑張るしかないんじゃね?」

「うーむ、何にせよ、たとえテレビに出るとしても印象に残らんといかんじゃろう? どうしたらキャラが濃くなるんかのぅ」

「狐が話してるだけで十分話題性あると思うけど」

「いや、足りん」

「うわ、めんどくさ……」


 とうとう我慢していた言葉が口に出てしまう。しまったと思った時には狐はふいっと顔を背けてしまった。


「む、面倒臭いとはなんじゃ、助けを求めて神社(わしのところ)に来たんじゃないのか」


 これは不味い展開だ。どうにか私は狐をヨイショするような内容を考えるが、一つも浮かばない。

 挙げ句の果てに下手なフォローを入れてしまうのであった。


「まあ、ほら。狐も人気あると思うよ、きっと」

「そう言うて、お前さんは狸派じゃろうて」

「えっ」


 図星を突かれて吃ってしまう。カバンにつけている『たぬたぬ』のキーホルダーを見られたに違いない。今更遅いのに、私は咄嗟に『たぬたぬ』を握って隠す。


「こ、これは……ほら、狸じゃなくて『たぬたぬ』だから」

「狸がモチーフじゃろ」

「…………うっ」

「まあ、よい。わしはな、今から関西に行くんじゃ。そして、関西弁を習得してよりいっそうキャラを濃くするんヤ!」


 今にも走り去らんばかりに目を輝かせて尻尾を振っている。可愛いと思いたいところだが、「今から」という箇所に引っかかる。


「ちょっと待って、今から行くの?」

「おう、今からじゃ……いや、今からヤデ!」

「お願い、待って。行く前に幼馴染を助けて、お願いだから」


 私は狐の前で膝を突いて、顔を覗き込んだ。正直、酒臭くて咳き込みそうだが、堪えた。


「今から行くと決めたから無理じゃ」

「少しでいいから。ね、関西は逃げないからさ」

「いや、わしは決めたことは変えんのじゃ。まあ安心せい。近いうちに帰ってくるからのぅ」


 狐は身軽に一歩先へ飛んだかと思えば、こちらに振り向いて嬉しげな声で言った。


「酒でも用意しとくんじゃなぁ〜」


 そして、境内の奥に続く森へ走り去ってしまった。



*****



 それから毎日私は神社に通った。来る日も来る日も狐はいない。

 神主さんは年配の男性で、数日おきに出会った。もしかするとどこかの神社と兼任しているのかもしれない。


 酒がないから姿を現さないのか? やはり酒は入手するべきなのか?

 と、そうこうしているうちに、遂に健人が不登校になってしまった。健人のお母さん曰く、部屋に引きこもっているらしい。

 私は家に行ってみたが会えず、今日とて神社に赴く。


「はあ……健人……」


 狐も神主さんもおらず、ポツンと私は賽銭箱の前で寂しく佇む。

 こうしている間にも健人の命は吸われているというのに、狐ったら全然「近いうち」じゃない。もう、十日が過ぎた。

 

 しかし、よくよく考えてみれば、長い年月を生きているであろう神様の〝近い〟がたった十七年そこらしか生きていない私の感覚と同じなわけがない。


「一年とかだったらどうしよ……」


 確実に死ぬ。

 やばい。そんなの、もうアイツに頼るしか……。


「フッ……俺の力を借りたいか?」


 心を読んだかのようなタイミング。

 振り向けば、もちろん久徳がそこには立っており、私は固唾を飲んだ。

 吸血鬼の嫁になれば、健人の命が助かる?

 それなら、私は……


「きゃあっ!」


 突然の突風。目を開けてられないほどの強風に目を閉じたその時。


「朱莉……っ!」


 久徳に体を押され、私たちは二人で地面に倒れ込む。


「ぐっ……」


 ごうごうと風が吹く中、微かに切り裂くような音。

 ぴたり、と風が止んだ。


「……何だったの」


 ようやく目を開けることができ、私は視線だけを動かして周りを見る。


「……えっ! 久徳、腕がっ」


 久徳の二の腕のあたりは服が破れ、血が出ていた。久徳は腕を押さえながら「じっとしてろ」と言った。

 返事の暇も私は与えられないまま、吸血鬼の姿になった久徳に横抱きにされる。そして、一瞬にして周りの景色が変わる。


「うわあっ!」


 なんと、空を飛んでいた。


「ひぃっ」


 けっして高所恐怖症というわけではないが、何の装備もなしに空中にいると思うと体が縮こまる。

 自然と久徳に回す腕に力が入った。


「朱莉、大丈夫か」


 やけに真面目腐った顔つきにほんの少しだけドキッとしてしまう。


「私は大丈夫だけど、それより久徳の腕が……」

「これくらい、どうということはない。血を飲めばすぐに治る」

「そ、そう」


 このまま我が家に連行されて血を吸われる未来が見えた。だが、今回ばかりは〝何か〟に助けられたので無条件であげようと思う。


「ね、ねえ」

「どうした?」

「さっきの何だったの?」

「正直、分からない。何者かに見られていた。それも力のある何か……なんだ、この嫌な感じは……」


 相変わらず真剣な様子でいる久徳を見ていると何だか調子が狂いそうだった。




◆◆◆◆◆



 冥界の何処か。俺が悪の遣いのときにいた世界。

 ここが冥界であることは分かるが、俺の知らない場所にいる。

 時々、俺はこの世界にいる夢を見る。いわゆる明晰夢で、何度か見るうちに、夢と認識できるようになった。

 夢の中では実態はなく、意識だけが空間に存在しているような状態だ。


「ほう……気になるな、この女」


 どこかで聞いたことのある声が聞こえる。夢の中ではいつも、この声が喋っている。

 そして、目の前には大きなガラス玉のような球体が宙に浮かんでおり、それを声と共に見ている。


「……妖に愛されし人間か」


 ガラス玉の中に映るのは知っている女子。


「フフ……退屈凌ぎに良さそうだ」


 もしかして、あれは奥山か?

 そう彼女を認識した途端、暗闇に落ちるように夢から覚めた。


「くそ……また冥界(あそこ)の夢かよ……ん、そういえば……」


 何だか知ってるやつも出てきた気がするが、誰だっただろうか。



◆◆◆◆◆

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