オニク!
名乗る名前ひとつで、掴む運命が変わる世界だよね。
「どうしよう。君のことを知らないから、どの名前を教えていいかわからないな。」
それもそうだ。だが、俺も俺自身の何を教えていいか検討がつかない。
「一番メインで使われている名前もしくは、いったん匿名用とかはどうでしょうか。」
「そうだね。でもなんとなく、メインでも匿名用でもないけど、呼びやすい名前でいい?」
わかる。メインと匿名用の名前が、呼びにくい名前のパターンってあるよな。
「もちろん。俺もその考えに乗ろうと思ったくらいです。」
「じゃあ、こんなところで立ち話もなんだから、こっちで話してもいい?」
渤海に囲まれた孤島。正に仙人がいそうな形状の山。金銀の宮殿や、これでもかというほどの縁起の良いオブジェクト。神秘的な自然の中に、鍛錬の場の厳粛さ、楽園ような快適さがある。
ここにはまだ、この男と俺しかいない。集合時間までまだあるにしろ、おかしい気がする。
「それにしても、蓬莱山、今日は何だか随分過疎ってますね。」
「そうかな。別に気にならないけど。時間帯によって、こんなものじゃないかな。」
こんな世間話をしながら、俺は呼びやすい名前を探して、今朝見た名前を名乗ることに決めた。
「いきました?」
すぐに男が話しかけてきた。提案するだけあって、呼びやすい名前の準備がいい。
「確認します。」
スマホに通知が来ていた。
[オニク]:はじめまして!よろしく!たんじぇんと☆よう
オニク!!俺は、この男の名乗った名前で、メインの名前がわかった。
[たんじぇんと☆よう]:ああああ!!しっている!!ふつうにしっている〜☆
見覚えがあるのも当然だ。ビジョンが浮かぶのも当然だ。俺はこの男のメインの名前をよく知っている。
そしてオニクと俺は、スマホでやり取りを始めた。
この日の、二人きりのバーチャル神山【蓬莱山】は、季節限定のおもちのグラフィックが景色を華やかに飾っていた。
季節イベントアイテムの記憶に刻まれようは、人類にとってエグいときがあるというのに。