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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者代理始めさせられました ~戦闘狂、手合わせで勇者を殺してしまい代理に任命される~

作者: 因月

連載伸びないので短編で気分転換。

気に入ったら、連載も確認してみてください。

 あー、これはやってしまったか?


 目の前で崩れ落ちる勇者の身体を見ながら、そんな感想を抱く。

 そんな勇者の姿を見て、勇者の仲間の聖女、剣士、魔法使い(全員女)が駆け寄っていく。

 しかし勇者は、もう死ぬしか道はないだろう。聖女の回復魔法は、欠損した部位も治せると聞いたことがあるが、いくら何でも2つに別れた身体を繋げることはできないだろう。


「いやあぁぁぁあぁあぁぁ!!! 勇者様、勇者様!! しっかりしてください!!」

「……げほ、ゴボッ!!」


 聖女が狂ったように回復魔法を掛けるが、やはり身体は繋がらない。勇者は即死できなかったようで、血を絶えず吐き出してしまっている。


上級回復(グレートヒール)上級回復(グレートヒール)!!」

「どうして、どうして治らないの!!?」


「お前、よくもやってくれたな!!」


 狂ったように回復魔法を掛け続ける聖女を横目にしていると、チャキと音がする。見ると勇者の仲間の剣士が、こちらを睨みながら首筋に剣を突き付けられていた。


 美人が怒ると怖いって話本当だったんだな。


 そんなことを思いながらも手を挙げ、抵抗の意志がないことを示す。確かに勇者を斬ったのは私だが、責められるのは少々不服だ。だって―――


「事前に言いましたよね、手加減できないって。私は強いとも言いました」

「……それは、でも……」

「大体、模擬戦に誘ったのだって勇者からじゃないですか。私と村長は止めましたよ」


 そう私とこの村の村長は、事前に警告をした。それでも私と戦おうとしてきたのは勇者の方だ。それで死んだのは、勇者の自業自得である。勿論、こっちだって少しは悪いと思っているが。


 こちらの言い分を聞き、反論の余地がないのか剣士は黙ってしまう。


 はぁ、何故こんなことになってしまったのだろうか?


 私は、勇者を殺してしまうまでの出来事を思い返していた。


***


 私は幼い頃から、強くなること、戦うことが好きだった。

 私を捨ててどこかへ消えた両親の代わりに、私を育ててくれた村長が読み聞かせてくれた数々の物語が好きだった。その中でも特に勇者や英雄と呼ばれる者たちの冒険譚が、武勇伝が好きだった。

 彼らのように強くなりたいと思った。


 それから私は、ひたすら強くなるための努力をした。毎日身体を動かし、木の枝を振るって剣技の真似事をした。村長や村人は、そんな私を見て「いつかきっと強くなれるよ」と声を掛けてくれた。そんなことを続けていたある日、本に出てきた魔力が扱えるようになったことに気付いた。


 魔力で身体を強化すると、身体能力が上がった。その状態で修行をすると遥かに効率よく成長できた。動きのキレも鋭くなり、素の身体能力も上がっていった。物事も短時間で覚えることができるようになった。


 それから私は、可能な限り魔力で身体を強化して日々を過ごすようになった。始めは、魔力切れで意識を失うことも多く村の人に大変心配された。止められるかとも思ったが、村の人は魔力が感知できないのか私が倒れるのが魔力不足が原因だと分からないようだった。私も止められるの嫌で申告しなかった結果、私は病弱になったと誤解された。


 そんな誤解を受けながらも、身体強化を使い続けると魔力量も魔力効率も良くなっていった。

 やがて私は、長時間強化が持続できるようになり1人で村を抜け出して、森で魔物、ゴブリンと戦うようになった。


 ゴブリンを倒すと、魔力を得ることができ更に私は強くなっていった。こうして私は順調に強くなっていった。この時はまだ村長以外の村人も私を避けなかった。


 村人が私を避けるようになったのは、私が6歳の頃からだ。

 当時、領の運営が失敗したとかで税が重くなり盗賊に身を堕とす者が急増していた。そうして盗賊となった者が町や村を襲い略奪を繰り返して治安が悪化した。領主も騎士を派遣したりして治安を維持しようとしたが、被害は無くならかった。


 私の村にも盗賊が襲来し、彼らは村人たちをどんどん殺していった。私は当初、村長の家に隠れていたが、私を逃がそうと囮になった村長が襲われるの目にし怒りが沸き上がり盗賊共に襲い掛かっていった。


 結論から言うと、普段から魔力を使いながら修行をしていた私は相当強く盗賊は全滅した。村長も守ることができた。私は大変満足したが、6歳の子供ながら盗賊を皆殺しにした私は、村人たちにとって恐ろしく映ったらしい。


 それまで普通に接してくれた村人たちは、私を避けるようになった。一緒に遊んでいた村の子供も遊んでくれなくなった。村長も内心は思うところがあったようだが、表面上は変わらず接してくれた。


 それからも盗賊の襲撃は度々あったが、その全てを私は殲滅した。

 5年程経つと治安も回復し、盗賊は村を襲わなくなった。

 その頃の私は、村にいても居心地が悪く、森の魔物も私を怖がり姿を消したので付近の岩山でひたすら修行に励んでいた。魔力で身体を強化し岩を殴り蹴り、木の枝で叩く。そんな単純な作業の繰り返しだったが、どんどん強くなることが実感でき楽しかった。この頃には、もう一日中身体強化し通すことが可能だった。


 そして、18歳になった現在、私は素手の一撃で岩山の地形を変えることができるまで強くなっていた。

 そんなある日、王国の勇者パーティーがこの村にも立ち寄ってきた。


 現代の勇者は、魔物の中から特別強い魔王と呼ばれる個体を発見・討伐するために王に命じられて国の各地を周っている者のことを指す。各国は、1人ずつ勇者を選出しその活躍を競っている。


 村にやってきた勇者は、凛々しい顔立ちの青年で3人の美女を仲間に連れていた。

 それを見て、何だ見た目重視かとがっかりしたのは、内緒だ。


 そして、勇者はこの辺りで魔王の調査を行うため、しばらくこの村に停めてほしいと言ってきた。村長は彼らの願いを快諾して勇者が村に留まることになった。


 勇者の悲劇を招いたのは、村の若者の一言からだった。


「勇者様って、お強いんですよね? でも失礼ながらそうには見えないだ。おらの方が強いんでねぇかー?」


 若者がそんなことを言って、力こぶを見せて筋肉アピールを行った。

 すると、勇者は


「ははっ、よく言われます。勇者に勝負を挑んでくる人って意外と多いんですよ」

「そうだ、せっかくなので私と戦ってみませんか? 勇者の力を体感できる機会なんて滅多にありませんよ」


 と言って、若者の無礼な態度を咎めず挑戦の場を提供した。

 若者も乗り気になり、


「ええんですか、それならお願いするだ」


 となり、勇者対若者の模擬戦が巻き起こった。勇者は、自分なら大丈夫だと言い、若者に真剣を渡し真剣同士の模擬戦は開始された。その模擬戦は、当然勇者の圧倒に終わったが、勇者が


「まだ戦いたい人はいませんか? 私はいつでも挑戦を受けます」


 と言ったことで、次々と村人が勇者に挑んでいった。

 私はその様子を陰ながら見ていた。物語の勇者と印象は違うが、同じ名前を冠するものには興味があった。勇者は確かに今まで出会ってきた者の中で最強の強さを誇っていた。


 華奢な身体だが、筋骨隆々の男の攻撃も華麗に受け流して流麗な演技を繰り出していた。その技は見惚れる程のものだった。戦いたいと思った。

 だが私は、今まで手加減をしたことが無かったため、全力で攻撃を出すことしかできなかった。魔物や盗賊相手に手加減など必要なかった。だから万が一のことを考え挑戦するつもりはなかった。


 けれど挑戦者を一通り片付けた勇者が、こちらを見つけて


「あなたも挑戦しませんか? ずっとこちらを見ていましたよね」


 と言ってきた。私は当然断った。


「結構です。私は手加減ができません。あなたに危害が及ぶ可能性があります」

「むっ。私は勇者ですよ。心配などご無用です。今までの戦いでそう感じませんでしたか?」


 勇者はこちらの言い分が少し頭にきたようで、私に模擬戦を行うように促してきた。

 これに焦ったのが、村長だった。


「お待ちくだされ、勇者様! その者と戦うことはどうかご遠慮下され。あなた様の強さを疑う訳ではありませんが、その者と戦ってはいけません!!」

「村長さん、落ち着いてください。いくら強くてもそれは村人の中の話でしょう? 私は王に指名された戦士。ご心配は無用です」

「いや自分で言うのも何だが、私結構強いよ」


 村長が止めるのも、勇者は大丈夫だと言って聞かなかった。私が勇者の認識間違いを指摘すると、少し顔を歪めて勇者はこんなことを言ってきた。


「私は勇者として、強さを示さなければなりません。挑戦を受けるのもそれが理由です。あなたから来ないなら、こちら行きます」

「私と真剣で模擬戦をしなさい」


 ついに勇者の方から模擬戦の申し込みをしてきた。私は正直断るのが面倒くさくなっていた。勇者は当初、好青年の印象を受けた。村人の挑戦を快諾したのだってそうだ。

 けれど実力に関しては譲れないものがあるらしい。勇者として決して舐められてはいけないものがあるのかもしれないが、そんなこと私が考慮することではない。


「村長、判断任せるよ」


 私は村長に判断を任せた。私は、勇者に対して何ら気遣う義理もないが村長は別だ。育ててくれた恩がある。勇者に何かあっても、私は別に困らないが村長が困るのは避けたい。

 私の意志が伝わった村長は、勇者に最後の説得を始めた。


「勇者様、あの者は幼い頃よりの強者でありました。いくらあなたでも、戦うのはお勧めしません。模擬戦であってもです。あの者は自身でも言っていたように手加減ができません。それでも戦いたいというなら全ての責任はそちらで持っていただきたい。それでも戦いますか?」

「ああ、私は勇者として実力を示さなければならない。何、あなたが心配している事態など起きない。何故なら私は勇者なのだから」


 こうして村長の説得は、聞き届けられず私と勇者は模擬戦を行うこととなった。


「勇者様、頑張ってー--!!」


 勇者の仲間の3人は勇者の心配はしていない様子であった。まぁ、それだけ勇者の実力を認めているのだろう。聖女だけは勇者の応援をしていた。


「それでは模擬戦開始!!!」


 村長の合図と共に模擬戦が開始される。


 ダッ!!


 勇者が素早い動きで接近してくる。村人を相手にしていた時には出していなかったスピードだ。私には全部見えているが。どうやら勇者は最初から全力みたいだ。

 それなら大丈夫か、と判断して私は、勇者に向けて剣を振るった。


「!? う、うあああああああああああああ」


 剣から飛ばした斬撃が、勇者を捉え勇者の剣と押し合いを始める。勇者は驚愕すると同時に大声を上げて斬撃に立ち向かう。

 正直、私は別に動けるので今勇者に別方向から襲い掛かれば簡単に決着は着きそうだった。勇者は思っていたよりもずっと弱かった。


「ま、負ける訳にはいかない、負ける訳にはいかないんだー-!!!」


 勇者が必死に足掻くが、どう見ても押し負けはじめている。困ったのは、こちらだった。一度出した斬撃は消せない。今私がどうにかしようと近づけば、こちらに気を取られた勇者がそのまま切り裂かれそうだ。


 勇者の仲間も予想外の事態に、慌てて勇者に駆け寄ろうとしている。彼女たちが何とかするのを期待するしかなそさそうだ。

 しかし――


「あっ」


 そんな声を出し勇者の仲間が辿り着く前に、勇者は力尽きそのまま斬撃に身体を2つ割かれてしまった。


*****


 そして舞台は冒頭へと戻る。


 勇者の仲間の剣士に責められても困る。責任は全てそちらで持つという条件で模擬戦を行ったのに、いきなり無視されてはたまらない。


 切り裂かれてからもまだ息はあった勇者も、既に息を引き取った。あれはむしろ聖女の回復魔法で強制的に生かされていた気もするが、わざわざ知らせなくてもよいだろう。


「その、申し訳ありませんでした。確かにそちらの言う通りです。この結果を招いたのは、こちらが原因でした。共に旅をした仲間の死で動揺してしまいました。すみませんでした」


 急に冷静になった女剣士が剣を下げ、綺麗な謝罪をしてくる。態度の急変にも驚くしこんなに素直に謝罪してくるとは思っていなかった。


「あ、頭を上げてください。……私はこちらに責任が及ばなければいいのです」

「いえ、謝罪はさせてください。責めたのは私の落ち度です。いついかなる時も冷静でいなければならないのに動揺し、約束を違えてしまいました」

「う、うん。そうですか、分かりました。謝罪は受け取ります」


 なんていうか真面目な人みたいだ。きちんと自分の非を認めることができるし、感情の整理も上手だ。


「ところであれは止めなくてもいいんですか?」


上級回復(グレートヒール)上級回復(グレートヒール)!!」


 いまだ狂ったように回復魔法を掛け続ける聖女を示し尋ねる。自分が殺した手前何だが、もう死んでいることは明らかだ。今更回復魔法でどうにもならない。


「セシリア、ああ彼女の名前です。セシリアは勇者の恋人でした。いずれ結婚しようと約束していた程の仲です。……しばらくは好きにさせようと思います」

「……そうですか」


 気分のよくない話だ。勇者が死んだのは、あいつが弱いのに模擬戦を強引に仕掛けてきたからで完全に自業自得だが、気まずいのは止めてほしい。


「ねぇねぇ、今の技何?」


 そんなことを考えていると、袖が引っ張られた。見ると勇者の仲間の魔法使いが袖を引っ張り疑問を投げかけてきた。


「何と言われましても、斬撃としか答えられませんが……」

「嘘、似た技は見たことあるけどあんな雑に撃てない」

「そう言われても……」


 疑問を尋ねられても、答えは返せない。あんなもの魔力を込めて振るったら、勝手に出る。魔力を込めて剣を振るうのは勇者だってやっていた。と言うよりも


「勇者が死んだことはいいのですか?」

「いい。元々そんなに興味ない。王様に言われたから共に行動してただけ」

「あっ、そうですか」


 予想外にドライな答えに戸惑ってしまう。殺したことを責められるのは嫌だが、これはこれで勇者が可哀そうだ。


「もう、シル! いけませんよ、仲間に対してそんなこと言ったら」

「仲間じゃない。一緒に行動してただけ。あなたの価値観を押し付けないで。そんなだからモテないんだよ」

「何ですって!!」


 目の前で喧嘩が始まってしまう。

 しかし、勇者の恋人は1人だけだったのか、ごめん。力もないのに恋人だけで旅してる勇者の名にふさわしくない雑魚だと思って。でも、お前が死んだのはお前が原因だからそれに対しては謝らないわ。


 しばらくすると、喧嘩も収まった。


「申し訳ありません。私たちは王の元へ一度戻ります。勇者が死んだことを伝えなければなりません。それでお願いがあるのですが、聞いていただけますか?」

「えっ? 私戻らないよ」

「内容しだいですね」

「私たちが戻るまで、この村を離れないでほしいのです。絶対に何かしらの決定が出るので」

「それは約束を違えるのでは?」

「ねぇ、聞いてる? 私戻らないよ」

「申し訳ありません。あれは勇者が勝手に決めたこと、王の決定ではないので王がどう判断するかまでは分かりません。勿論、最大限交渉はします」

「うーん、分かりました。ただし敵対するなら覚悟してください、只では済ましません」

「肝に銘じます」

「おかしいな、私いない?」


 剣士さんからのお願いごとを聞く。あの勇者め、死んで尚迷惑かけるとは。口だけの人間は嫌いなんだ。私の中の勇者の印象は大暴落済みだ。けれど剣士さんの印象はよい。できればこの人には、被害を被ってほしくない。


 まぁ、それも相手の出方しだいだ。これで、私を逮捕だーとか言ってきたら、思いっきり暴れてやる。数人は確実に殺してやろう。


 それから剣士さんは、回復魔法を掛け続けた結果気絶した聖女と勇者の死体を連れて王の元へ帰っていった。魔法使いはごねて村に残った。無視してたんだけどな。


「うーん、勇者はね、王様に嫌われてたんだ。王様が勇者に求めていたのは、あなたのような圧倒的な破壊力。でも勇者は力が弱くて剣技が綺麗なタイプで王様の好みと正反対だったんだ。でも勇者の素質があったのは、あの人だけだったから仕方なく勇者に任命したんだよね。だから王様は勇者が嫌いなんだ」

「ふーん」

「でも勇者は聖女のセシリアと結婚するために、王様の協力が欲しかった。聖女の結婚って色々大変だから。だから功も上げようとしてたし実力も示そうとしてたんだ」

「それで死んでりゃ世話ないですね」

「辛辣だねー」


 剣士さんを待つ間、村に残った魔法使いシルと話しをする。今は、勇者が何故あんなにしつこく勝負を仕掛けてきたのか尋ねていた。

 やはり彼にも事情はあったみたいだが、それで私に迷惑を掛けてよい理由にはならない。死人を悪く言うのは好きではないが、結果だけ見ると勇者は愚かとしか言いようがない。


「ねぇ、話したんだから約束通り修行付き合ってよ」

「分かりました」


 シルは、私が聞きたいことを教えてくれる対価として私について色々教えてほしいと言ってきた。何でも私の魔力量と身体能力は異常みたいだ。長年の修行の成果が、王に指名される超一流の魔法使いに認められるのは正直嬉しい。


 私は村の周辺のことしか知らないので、他の国のことや彼女が知っている知識を教えてもらっている。特に魔法は、本で読んだことしかなかったのでありがたく学んでいる。明かりを灯す程度の簡単な魔法なら使えるようになった。


 代わりに私は主に修行方法を教えて一緒に実践している。最初に1日中ずっと魔力で身体を強化して、日々過ごしますと告げた時は


「君ってドMなのかな?」


 と言われてしまった。確かに、度々倒れても続けるのはドMと言われても仕方なかった気もする。シルも渋々やってみていたが、数時間で倒れてしまった。初めて私が取り組んだ時よりもずっと長いですよ、と褒めてたが、


「その時の君は子供だし、私は魔法使い。流石に負けないよ」


 と言われてしまった。相当辛かったらしく


「そもそも私魔法使いだし、身体能力は必要ないって」


 と言い出して辞めようとしたが、私が告げた


「魔力量も増えますよ」


 の一言で嫌々続けている。

 私も共に修行しているが、修行仲間ができたことが予想以上に嬉しかった。シルとは、話題も合うし一緒にいて楽しい。

 ただ私が、修行で地形を変える度にドン引きした表情でこちらを見ることだけは不満だ。後、魔力切れで倒れたシルを介抱するのは私の役目だが、村人に避けられていた私は人付き合いに慣れておらず、加えてシルは美人であるので介抱していると緊張し続けになりどうにも落ち着かない。


 そんな日々が2週間程続き、私が初級魔法を使えるようになり、シルが半日程身体強化を続けることができるようになった頃、剣士さんが帰ってきた。


「お待たせしました。王の書状をお持ち致しました。読み上げてもよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です」


 ごくり、と喉を鳴らして書状が読まれるのを待つ。村に来たのは、剣士さんと聖女の2人だけなので敵対はないと信じたい。けれど、万が一の時は全力戦闘に移行だ。そんなことしたくないなー。


『シナリア村の村人、スルトが勇者カイル・ユウレシアを模擬戦の際に殺害した罪は、カイルの出した条件に従って無効とする。しかし、我が国の勇者の座が空くのは国王の立場として許すことができない。勇者の代わりとなる戦士は今の王国にいない。そのため、勇者を倒した村人スルトを()()()()として任命する。報酬として先払いでシナリア村の税を今後50年徴収しないことを王の名の元に約束する。また成果に従い報酬は追加されるものとする。パーティーについては、前勇者カイルのメンバーを引き続き勇者パーティーとする。尚勇者は旅の道中に戦士したものとし、後継に親戚が選ばれたこととする。それに伴い今後はスルト・ユウレシアを名乗ること』

「とのことです」


 剣士さんが王様の書状を読み上げ終えた。色々書かれていたみたいだが、要約すると勇者殺害の件は罪に問わないから勇者代理やってね、ってことだろうか?


「勇者が出した条件は、こちらに全ての責任はそちらで持つと言うものでしたが?」

「はい、でも王はその条件に納得しませんでした」

「……そうですか、内容は分かりました」


 横目で共に書状の内容を聞いていた村長を見る。正直、勇者代理になること事態は構わない。元々村に留まっていたのも育ててくれた村長に恩返しがしたかったからだ。私が勇者代理になることで今後50年税がなくなるなら、それは村長への恩返しになる。


 それにシルと話したことで外の世界にも興味が出てきた。乗りかかった船と考えれば悪くない。

 しかしなぁ、面倒臭そうではあるか。どうしよう。


「行きなさい、スルト。お前は元々情緒が薄い。それはこの村でほぼ誰とも交流しなかったのが原因だ。この機会を活かし、外の世界でいろんなことを学んでいきない」

「……村長、……はい分かりました。私は外に出ます」


 悩んでいたことが見透かされていたようだ。村長は私の背中を後押ししてくれた。本当にいい人に出会うことができた。


「分かりました、剣士さん。勇者代理承りました」

「フレイとお呼びください。これから共に旅をする仲間なのですから」

「では、フレイさん。よろしくお願いします」


 剣士さんから名前を教えられる。そう言えば聞いていなかった。フレイさんやシルとは、これでお別れだと思っていた。それは残念だと思っていたので、これからも共に行動できて嬉しい。ただ――


「許さない、絶対に許さない……」


 こちらを睨んできてるあの聖女も連れていかなければならないのだろうか?


「フレイさん、あの人だけ置いていけませんか?」

「すみません、代わりの聖女もいないのです。どうか彼女があなたを恨むことを許してください。あなたに手出しはさせませんから」

「事情が事情なので、それは仕方ないです。でも嫌だなー、あの人連れていくの」

「私も守るから大丈夫。大船で乗った気でいていいよ」


 フレイさんもシルも私を聖女から守ると言ってくれるが、単純に自分を嫌っている人を連れていく人を仲間にしたくない。けれど、連れていくしかないようだ。

 まぁ、世の中いいことばかりでないと受け入れよう。何かしてきたら、遠慮なく攻撃させてもらう。


「出発はいつにしますか?」

「すみませんが、今日は移動で疲れました。明日以降でお願いします」

「では明日にしましょう」


 フレイさんの疲れを考慮して出発は明日にする。

 今まで住んでいた村を離れるとなると、流石の私でも感慨深いものがある。

 その日の夜に、村長が送迎会を開いてくれ、私は村での最後の一日を楽しむことができた。

 そして出発の日がやってきた。


「さ、いこいこスルト」


 シルに引っ張られて、出発を急かされる。前勇者と共にいたときには、見なかった表情だ。


「シル、珍しいですね。あなたがそんなに活動的なのは」

「うん、だって楽しい予感が止まらないんだ。前の勇者の時とは違うよ!」

「こら! 死者を悪く言ってはいけません」

「べー、だ」


 シルとフレイさんは喧嘩はするが仲は良い。少し騒々しい気もするが不思議と悪くない気分だ。


「どうして? どうして2人とも、カイルを殺したやつと仲良くしてるの?」


 こちらを凄い顔で睨みながら、ぶつぶつと恨み事を呟き続ける聖女は無視だ。仲間として助けはするが、仲良くなる気はない。

 しかし、こんなパーティーで私が勇者代理は務まるだろうか。甚だ不安である。


「では、出発しましょう」


 一声かけて村を出発する。フレイさんもシルもすぐに言い争いを止めついてきた。聖女もきちんとついてくるようだ。


 色々問題を抱えた勇者代理の物語は、こうしてようやく始まりを迎えた。

 その後、色々あって聖女が私に惚れたり、怨霊として蘇った勇者がそのことを知って襲い掛かったり、世界を支配しようとする伝説の魔王が封印から解かれ各国の勇者と協力して討伐したり、その功績で正式に勇者に任命されるのだが、それはまた別の話だ。

人気で出たら連載にするかも。あと連載延びてないので、作風が気に入ったら筆者の連載も見てみてください。

以下、人物紹介

主人公:名スルト。技術はないが、才能があり鍛え上げられた身体は、既に人間の限界を超越しかけている。人付き合いが薄かったので、感情が控えめ。

聖女:名セシリア。勇者とは将来を誓った恋人同士。勇者がヘタレだったせいで、手をつなぐまでしかいっていなかった。主人公に強い殺意と恨みを抱く。

剣士:名フレイ。勇者は旅仲間。死んだのは悲しいが、模擬戦を強行したのが理由なので主人公に恨みはない。主人公の才能と力に目をつけ、師匠になることを目指している。

魔法使い:名シル。勇者とは一緒に行動してただけの仲。死んだこともどうでもいい。セシリアとフレイとは、仲が良いのでむしろ勇者は邪魔だった。可能性の塊である主人公に興味津々。

勇者:名カイル・ユウレシア。代々勇者を継ぐ一族。聖剣を扱えるのが彼だけだったので、妥協で勇者に任命された。力はないが、剣技に磨きをかけた技術タイプ。王を見返しセシリアと結婚するために邁進するが、主人公と模擬戦を強行した結果死んだ。

王様:名前未定。嫌いな勇者が死に、しかも殺したのが自分が勇者に求めるものを兼ね備えた者だったので、勇者の死を一番喜んだ。王としては有能。


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