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美人女騎士さんが俺らに稽古つけてくれるらしいよ

 次の日。


 どういうわけか俺達は朝っぱらから王宮の中庭でうさぎ跳びをさせられていた。


 世界を救う旅は過酷だから、まずは俺らの身体を鍛えさせておけと臣下からのお達しが近衛兵隊長に下ったらしい。


 いやぁーびっくりしましたわ。近衛兵隊長がまさかこんな美しい女性の方だとはね。


 アニメじゃあるまいし。そんなのあるわけないと思ってたんですけど。本当にこういうことあるんですねぇ。


「金髪豚1号。跳躍が足りないぞ。1人だけズルしようとするんじゃない。おいヒョロ豚2号。どうしてお前はすぐに倒れ込むんだ。死ぬ気でやれよ死ぬ気で。どうせ死にはしないんだから」


「ブヒッブヒッ」


「よーし。お前らよく分かってきたじゃないか。貴様らは豚だ。家畜以下の存在だ。人より魔力量が多いだけで魔法の1つも使うことすらできない役立たずのゴミだってことを胸の奥によーく刻んでおけよ」


「ハァ……ハァ……いやぁーもうきついっす」


 いけね。思わず口から泣き言が飛び出ちまった。


「豚が人の言葉を話すんじゃねぇよ」


 女騎士さんは吐き捨てるようにそう言うと、腰に下げていたサーベルを抜き、そっと俺の首元に剣先をあてがってきた。刀身の冷ややかな感触が肌を通してはっきりと伝わってきて俺はあまりの恐怖におしっこが漏れそうになる。首チョンパだけは止めてください。まだやりたいことが山のようにあるんです。ネトゲとか音ゲとかソシャゲとかいろいろあるんです。だからお命だけは……どうかご勘弁を女騎士様。


「あ?分かったか勇者様?分かったら返事くらいしろや。チビ豚3号」


「……はい。あっ、ブヒッ」


 小さく舌打ちをしながら、どうにかサーベルを鞘に納めてくれた。


 女騎士さんクソ怖過ぎる。


 それに俺のことをチビ豚っていうのはあまりにも酷すぎやしないかい?


 的確に他人のコンプレックスを突いてこないでよぉ。


 すっごく気にしているんだからねっ!


 えーん。えんえん。演繹法。ストレスで胃に穴が開きそう。円形脱毛症になりそう。


 あと普通にホントに泣きそう。てか昨日寝る前に少し泣いた。そして抜いた。


 見た目だけなら女騎士さんの容姿は俺の好みのドストライクなんだけどなぁ。

 セミロングの金髪に碧眼。まるで陶器のように白く美しい肌。手足はすらりと長くモデルさんのような完璧なプロポーション。うーん実に惜しいですね。これで性格が良かったら本当に言うこと無しだったんだけどなぁ。


 名前は何ていうんだろう。さっき豚に名乗る名などないと吐き捨てられてしまって僕の繊細なハートは傷ついちゃったよ。


 何かムカついてきちゃった。死ね。このクソアマが。いつか覚えてろよ。俺は根に持つタイプだからな?


「おい。そこの眼鏡豚4号、貴様は鳴き声が小さいな。もっと大きな声で鳴いて見せろ」


 ストレス発散のために俺が頭の中で女騎士さんの淫靡であられもない姿と『くっ、殺』的な展開を妄想している内にどうやら女騎士さんの槍の矛先は佐々木くんに向けられたようだ。


「……ブヒッ」


「ふざけてるのか?貴様……もしかして死にたいのか?」


「ブヒブヒブヒブヒブヒブヒブヒッ!!!!」


「うるさいッッ!!!」


 えぇっ!流石にそれは佐々木くんが可哀想だよ。俺このメンバーの中で1番佐々木くんと仲良くなれそうなのに。ちなみに1番苦手なのはヒョロガリの……


 何て名前だったかな。マルチーズみたいな名前の……


 そうそう。川田マルチーヌって名前だったな。


 今日起きてから俺達、豚1号だの豚2号としか呼ばれてないし名前を覚えれる機会が全然得られないんだよね。


「よーし。次はお前ら4人で豚レースして私を楽しませてみろ。1位になった者には特別に褒美をくれてやる」


 ありがとうございます。何て慈悲深いんでしょう。女騎士さんのお心遣い痛み入ります。褒美ってなんだろうなぁ。男にとっての永遠の宿願である胎内回帰願望を叶えてくれるのかな?魔法で。


『汝に命じる。我を産み直せ』って言ったら叶えて頂けますかね?


 でもね。ご褒美なんていらないの。この炎天下で水分補給無しで太陽が頭の真上にくるまでぶっ続けでうさぎ跳びさせられてね。俺達もう死にかけなのよ。いい加減休憩させてくれませんか。今の俺達が必要としているのは水分と十分な休憩なんです。


 それを分かってください。ほら金髪頭の伊藤くんの顔色とか既に顔面蒼白だよ。


 あっ言ってるそばから倒れた。


「おい。何倒れてるんだよ。おい、起きろよ。あっ……し、死んでる」


 どこぞの家政婦さんみたいなことを言ってる場合じゃないでしょ。

 早く介抱して……


 な、な、なんだって!?


 死んでる!?


 伊藤くんが死んでるだと!?


「ど、ど、どうするんですか!な、なんとかならないんですか!?」


「ブヒブヒブヒッ!!!」


 うるせぇ!!川田マルチーヌ!!ブヒブヒ横から口を挟んでくるな。混乱するだろーが!てか完全に調教済み状態じゃねぇかよ。心まで豚になるんじゃないよ。全く。


「そう焦るな。とりあえずコイツを生き返らせてやればいいんだろ?」


 ――ザギルト。


 女騎士さんが魔法の呪文らしきものを唱えながら伊藤の身体に手を翳すと、彼女の掌から黄金色をした淡い光が放たれた。


 す、すごい。これが魔法……


 バツンッ!!!


 感心したのは束の間。


 伊藤くんの身体は急に風船が弾けたような大きな音と共に破裂した。


 頭のてっぺんから下腹部まで見事な切れ込みが入り、まるでアジの開きのようにパカッと断ち割られ、どういう原理か分からないが皮までも綺麗に捲れあがっている。


 破れた腹膜からは黄色い脂肪と血液が一緒くたになって滔々と流れ、地面に血だまりを既に形成しボトボトと連結したままのソーセージのような大腸やら小腸やらが垂れていた。


 胃袋にも縦に薄い亀裂が奔り、緑と白の混ざった未消化物がこちらに顔を覗かせる。


 噎せ返りそうになるくらいの鉄の錆びついたような血液の匂い。



「あっ。やっちまった……すまないがどうも私は剣の才はあっても魔法の才は無いようでな。魔法に関しては私ではなく別の者に教えを乞うと良いだろう。では私はこれにて」


 女騎士さんはそう言うと冷や汗を垂らしながらそそくさとこの場を後にして走り去っていった。


 俺達3人はというと絶賛、四つん這い中でゲ―ゲ―地面に吐き散らしている最中なものですから彼女を引き留めようにも今はもうそれどころじゃありません。


 突然、異世界転生したかと思えば、勇者として担ぎ出され、仲間の1人がアジの開きにみたいにされてもう脳味噌パンク状態です。


 ここに来てまだ1日しか経過してないのにいろんなことが立て続けに起こり過ぎてもう何が何だか分かないっつーの。


 トホホホ……


「何の騒ぎだね?これは」


 オロロロロロとゲロってると背後から天使のようなソプラノボイスが唐突に聞こえてきた。ひとしきり吐き終えてやや落ち着きを取り戻した俺は、声の主を確かめようと後ろを振り向くと、漆黒の外套を身に纏った14歳くらいのあどけない幼さが残る少女の姿がそこにはいた。


 鍔の広い三角帽子を被っていてまるでハロウィンパーティーで見かける魔女のような出で立ちをしている。


 俺は彼女の視界を遮るように自分でも驚くほどのスピードで瞬時に立ち上がり両手を大きく広げて視界を遮ろうとした。


「み、見てはいけません!!」


 どなた様かは存じ上げないが王宮内を自由に出入りすることができるということは高貴なご身分の方であることは間違いないだろう。そんなやんごとなきお方にこんなグログロな事故現場を目にさせるわけにはいかない。


「どうしてだ?」


 どうして?えーと。えーと……


「とにかくここは危ないんだ。早く立ち去った方がいい」


 ナイス!!流石は佐々木くん。いざという時に頼りになる男だぜ。


「ふむ。その身なりを見る限り、お前達は昨日やってきたと王宮内でもっばらの噂になっている転生者達だな。ということは既に彼奴の洗礼を受けたというわけか……死人は出たか?」


「えっ、あの……その、はい。1人死にました……」


「お、おい。お前」


 佐々木から肘で軽く腕を小突かれる。


 すまねぇ佐々木くん。思わず普通に答えてしまった。何かよく分からないけどこの子から凄い圧を感じてしまってさ。適当な嘘で言いくるめてしまって追い払おうという気すら起きないんだよね。何でだろうね?


 あっそうか。分かった。


 そういえば俺、女性に対しての耐性がまるで無いんだったわ。


 学校でパリピ系女子に話かけられただけで吃音酷いもんな。

 中学生くらいの年齢の女性に対してもこんな有様なのかよ俺って。


「やはりな。よし事情はだいたい分かった。私がそいつを蘇らせてやろう」


「あのー。失礼承知でお聞きいたしますが、あなたはいったい……」


「私はルクス。ただのしがない宮廷魔導士さ」































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