魔力測定
「それでは転生者の方々、早速ですがあなた方の魔力量を測定させて頂きます。縦一列に並んで1人ずつ前に出てこちらの水晶に触れてくださいませ」
てっきり王のご尊顔を拝見できると思いきや俺を含めた転生者4人組は今、こじんまりとした洋室に押し込められ、ツルツルテカテカの水晶を触るようローブの男から指示を受けていた。
部屋の前方と後方2つの扉脇にはそれぞれ騎士が2人並んでおり俺達が逃げ出さないように退路を断っている。残りの騎士たちは部屋の隅で横一列に整列し、俺達から視線を決して逸らそうとはしない。
あの、そろそろ帰りたいんですけど……。いい加減マジで。
「なぁ。いったい俺達どうなるんだよ」
小さい声で後ろの気弱そうな黒縁眼鏡の男に話しかける。
「そんなの僕にも分からないよ。僕もさっきここに来たばかりなんだから……」
ということは俺達はほぼ同時期に召喚されたということか。恐らく王宮内にはいくつか召喚の間があってこの眼鏡の男も、そして今まさに水晶に触れようとしている金髪の男も俺と同じように召喚されたのだろう。
切れ長で猛禽類のように鋭い目つきをしている金髪の男が水晶に触れた。
ピャオォォオォォン。
すると奇妙な音を立てながら水晶は緑色に輝きを放ち、気品のある女性の声が水晶から聞こえてきた。
『あなたの名前と年齢を答えなさい』
「伊藤信二。16歳」
『特技と好きな食べ物と飲み物を答えなさい』
「俺の特技は折り紙で手裏剣が折れること。好きな食べ物と飲み物は肉じゃがと牛乳」
『あなたの魔力レベルは……43です』
「伊藤様。ご協力ありがとうございました。こちらの椅子に掛けてしばらくお待ちくださいね。はい次の方どうぞ」
伊藤はコクリと頷くとローブ男の指示に従って部屋の後ろの方に準備された椅子に座った。何か表彰状授与式を彷彿とさせるなこの感じ。もちろん俺は表彰なんてご立派なモノを頂いたことないけどな!!
デュフフフフフ。
あぁーー消えてなくなりてぇ。
それはそうとして俺の目の前にいるボサボサ髪で貧相な体躯をしたこの男は水晶にも触れず何をチンタラしてるんだよ。
早く指示に従わないと殺されるかもしれないだろ。
お前のせいでもしかしたら『あっコイツらハズレだ。こいつら殺して新しく召喚しましょう』とかそういう可能性も考えられるんだぞ。
連帯責任はイヤッ!五人組制度みたいなのはイヤよぉぉ。
「どうしたんです?早く手を出してください。怖くないですよ。水晶は友達。水晶は友達。そうです。優しく丁寧にお願いしますよ。この水晶結構お金かかってるんですからね。よくできました。そのまましばらく動かず待っていてくださいね」
「…………」
ヒョロガリ男はやや俯いたまま何も言わずに小さくコクリと頷いた。
いったい俺は何を見せられてるんですかね。
ピャオォォオォォン。
うおっ。まぶしい。
再び水晶が緑色に輝く。
『あなたの名前と年齢を答えなさい』
「…………川田マルチーヌ義輝。15歳」
ふーん。結構かっちょいい名前じゃん。天正遣欧少年使節みたいで。俺は好きだぜ。
『特技と好きな食べ物と飲み物を答えなさい』
「特技は……狭い場所に隠れることができること……好きな食べ物と飲み物は、マリトッツォとタピオカ」
お前みたいな巷の流行りばかりを追ってるヤツ。俺は嫌いだぜ。
よく見ると着てる服も何か妙にポップでオシャレに気を遣っている感じがしてきて何かムカついてきたな。
おい俺を見てみろよ。今、俺が来ている服はな。実はぜーんぶおふくろが在庫処分セールで買ってきた服なんだぜ。くぅー何だか泣けてきましたわ。実は結構気に入っているから別にいいんだけどね。この青い無地のTシャツとか特にシンプルでめちゃサイコー。
陰キャは背伸びしても結局陰キャなんですわ。悲しいけどこれって世の理なのよね。
「あなたの風邪はどこから?」
「僕は鼻から」
『あなたの魔力レベルは……58です』
何か今しがた両者の間で変なやり取りが交わされていた気もするがまぁいいや。
この世界の魔力レベルの基準値がイマイチ分からないので58という数字が高いのか低いのかさえ俺には分からない。騎士たちやローブ男のリアクションが薄いということは40や50という数字は割と普通の数値なのだろうか。
「お疲れ様でした川田様。伊藤様の隣にお掛けになってお待ちください。次の方どうぞ」
「はい!」
ようやく俺の番だ。
おずおずと右手で水晶に触れる。
ピャオォォオォォン。
水晶が焦げ茶色に発光した。スゲー。なんて汚い光なのだ。どうして俺だけ緑色に輝かないんだよ。もしかして俺っちイジメられてるのかな?
ぴえん。
『あなたの名前と年齢を答えなさい』
「遠藤健介。16歳」
『あなたの好きな食べ物はカレー。好きな飲み物はコーラですね?』
えっ?どうして分かるの。
なになに怖いんだけど。えっ待って待って。
おかしくない?俺まだ何も言ってないよね?
えっ?えっ?どしてどして?
何で?何で?
おかしくね?
「精霊ウィルメルトよ。もしやこの方が長らく我らが探し求めていた……」
『そうです。彼こそ予言の書に記されていた世界を救う勇者様です』
ザワザワザワザワ。
騎士達はどよめき始め、ローブ男は目深に被っていたフードを脱ぎ目を大きく輝かせながらカレー色に光る水晶と話をしている。
しょうがねぇな。
それじゃあいっちょ救っちゃいますか。
世界を……
とはならんやろ。
「あのー。僕も水晶触っていいですか?」
そうだよな。眼鏡くん。向こうは何か勝手に盛り上がってるようだけどお前はまだ魔力測定してないもんな。
「あっ、いいですよ。ついに勇者様がこのペイルランドの地に来てくださった。年に2度しか行われない召喚の儀を初めて苦節4年と6か月。ついについに我々に希望の光がもたらされたぞ!!」
眼鏡くん……俺、お前に対する謎の罪悪感で胸が締め付けるように痛いよ。
ピャオォォオォォン。
光の色は緑色だ。勇者が触った時だけウ〇コ色に光るってことか?この水晶は。
間違えた。水晶じゃなくて精霊ウィルメルトだっけか。覚えておこう。
もしそうだとしたら嫌がらせだろそれ。
『あなたの名前と年齢を答えなさい』
ウィルメルトの声凄い綺麗だなぁ。声優さんみたいな透明感のある声質だ。
今、俺の頭の中では青髪超絶美人の裸の女性がこちらに向かって微笑んでいる妄想が絶賛、垂れ流れております。
ウィルメルトさん。好きです。
「佐々木浩二。16歳」
『あなたの魔力レベルは32です』
「えっ?あの……好きな食べ物と飲み物は……」
『はぁー……好きな食べ物と飲み物は?』
「えっと……焼肉と……レモンティー……です」
「………………」
「………………………」
何この空気。いつの間にか他のみんなも静かになってるし。
さっきまでの喧騒はどこいったの?こういう時こそ騒いで欲しいんだけど。
金髪の伊藤くん。ヒョロガリの川田マルチーヌくん。
2人ともちょっと助けてくれな…
は?
お前らなに2人して居眠り国会議員みたいに腕組んで眠ってくれちゃってるわけ?
どこからその余裕湧き出てくるの?
すげー。
心臓に毛が生えてるというか肝が据わってるというか。
もう言葉も出てきませんわ。
素直に凄いよお前ら。
あなた達の爪の垢を煎じて飲ませて頂いてもいいですか?
すいません。やっぱりいいです。臭そうだし汚そうなので。




