はよ帰りたい
こんにちは遠藤健介です。現在、私は騎士達から縄で縛り上げられ、否応なしにどこかに連れて行かれています。
連行されている最中に気づいたことがあります。私が今いるこちらの建物、めちゃくちゃデカいです。
背中から剣を突き付けられながら廊下を歩いているのですがピカピカに磨き上げられた大理石の床に天井のシャンデリアにはいかにも貴族の方々が好みそうな趣向が凝らされた装飾が施されております。
左手の窓からは広大で美しい庭園とバロック建築風の豪華な宮殿がございます。
聡明な皆様はもうお気づきでしょうが、私どうやら異世界に転生してしまったようです。しかもここ見た感じ王宮のようです。
なのにこの扱いはいったいどういうことなのでしょう。RPGだとこういう場合、異世界に召喚された途端、王様から簡単に事情を説明され、勇者様として担ぎ上げられ、魔王を倒す旅に出ろと裸一貫で王宮から叩き出されるのがお決まりのパターンなのですが……
あれ?よく考えたらRPGって勇者の扱いが結構酷くないですか?
あーキレそ。
遠藤は激怒した。必ずかの邪知暴虐な王を除かなければならぬと……
「先ほど転生者様が目覚められたあの部屋は召喚の間と言います。召喚の間の床下には召喚用の特殊な魔法陣が組まれておりまして、召喚の際に発生する絶大な魔力が王宮に漏出するのを防止するためにあのような密閉構造の部屋になっているのです。驚かせてしまい申し訳ありません。さぞ恐ろしかったことでしょう」
先頭を歩くローブを羽織った男が愉快そうな声色で話し始めた。説明してくれるのは非常にありがたいんですけど、名著の脳内朗読を妨害してくるのはやめてもらっていいですか?こっちは必死で現実逃避しようとしてたんだから。
まぁいいや。それよりもさっき俺が目が覚めたあの部屋は召喚の間だったというわけか。
「俺以外にも転生してきたヤツはいるのか?」
「ええ。いらっしゃいますよ」
「あなた達は転生者を使って何をしようとしているんだ?」
「私達はあなた方にこの世界を救ってもらう手助けをして頂きたいのです。転生者様達の持つその絶大な魔力を持って、私達の世界に光をもたらして頂きたい」
はい来ましたよ。魔王討伐フラグ。現実世界ではこれといった特技も才能も彼女すらできなかった俺だが異世界に転生することで能力<チカラ>に目覚め八面六臂の大活躍を見せるというパターンですかねこれは。
やるぞやるぞ。
これまで俺を小馬鹿にしロクな目にあってこなかった現実世界なんて捨てて、心機一転この地で一生懸命魔法を勉強して大陸で名を馳せるくらいの魔導士になって魔王をこの手で倒してやるぜ。
あー、はよ帰りたい。